短編 洒落にならない怖い話

あいつが来る【ゆっくり朗読】4224-1231

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サッカー部の高柳君と川島君はとても仲が良くて、いつもまるで双子のように息が揃っていました。

勉強も体育も、一位と2位は絶対にこの二人のどちらかでした。

当然二人はクラスの人気者で、二人が学校を休んだときなんかはまるで火が消えたように寂しかったものです。

私は女子でしたが同じサッカー部で家が近かった事もあり二人とはよく一緒に遊びました。私自身それが誇らしかったのです。

ちびで体も弱く、勉強だってそこそこといった程度の私にはこの二人と一緒にいられるというのは、それだけで他の人たちに対して優越感に浸れたのです。

これは、たしか小学三年の時のことです。

私たちは近所の小川、に釣りに出かけました。(今は区画整備で埋められて無くなっています)

当時私は誕生日の時に父にねだって買ってもらったインスタントのカメラをいつも肌身離さず持っていました。

そのときもカメラを持っていった私は二人を撮ってあげることにしたのです。

今思えばあのとき写真なんて撮らなければ、カメラなんて持ってこなければあんな事にはならなかったのに……

家に帰って撮った写真を見ていると、あることに気がつきました。

それは高柳君と川島君が並んでいるところを撮ったものでした。

川島君の右腕の少し下、川の水面に人の目のようなものが写っていたのです。

当時の私は心霊写真という言葉は知っていましたが、まさか自分にそんなものが撮れるとは思っていなかったので「気味が悪いな」とは思ったものの特に気にも止めませんでした。

サッカー部の練習の時に川島君が右腕を怪我したのはそれから何日か経ったときでした。

市内の小学校数校で行われる大会の最中にボールが腕に当たり骨折してしまったのです。
川島君は入院することになりました。

私は妙な胸騒ぎを覚え家の机の引き出しからあの写真を出して見てみたのです。

すると写真は前に見たときとは全く様子が違っていました。

水面から顔を出した小さな男の子、その目は確かに水の中から伺っていたあの目でした。

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そしてその子の手は川島君の右腕をつかんでいたのです。

怖くなった私は高柳君の家に電話し、来てもらうことにしました。

その写真を見た高柳君は

「川島に見せたらショックを受けると思う」

とこのことを川島君に言わないことを私に約束させ、その写真を持っていきました。

そして……

高柳君が写真を持って行ってから3日後、だったと思います。

川島君が亡くなりました。病室から飛び降りたのです。

クラスの中に飛び降りた日に川島君の所にお見舞いにいった人がいました。

その人はこんな事を言っていました。

川島君はしきりに「あいつが来る」とつぶやいていたと。

先生や川島君のお母さんは「入院生活のストレスのせい」と説明してくれましたが川島君が死んだ本当の理由は……

ある日高柳君の家に呼び出された私はあの写真を見せてもらいました。

と言ってもそこにはもうあの男の子はいません。

写真は鋏で半分に切られ、写っているのは高柳君だけでした。

「自分の方にもあいつが来そうだったから」と高柳君は説明しました。

川島君が死んだときには男の子が川島君の体に覆い被さるようになっていたと言います。

「何でもっと早くに切ってあげなかったの?そうすれば川島君だって……」

私は思わず声を荒げてしまいました。

すると高柳君はこう言いました。

「だってあいつがいると……俺は一番にはなれなかったから」

夕陽にてらされた高柳君の顔は、あの男の子そっくりでした……

(了)

 

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