近所の人たちが、やたらと食べ物を持ってくるようになったのは、実はとんでもない勘違いが原因だった。
きっかけは約一年前。
「たくさん作りすぎちゃって」
「実家から送ってきたのよ、よかったら食べて」
――そんな調子で、料理や食料品をしょっちゅう届けてくれるようになった。
うちも礼儀として、返却する器にお菓子などを入れて返したんだけど、相手は決まって「そんな気を遣わなくていいのよ」と遠慮がち。
ある日なんて、「子どもが風邪で休んじゃって、友達が給食のパンを届けてくれたから…給食の物で悪いけど、良かったら」とまで言われて、さすがにこれはおかしいと違和感を覚えた。
母と二人で「最近、やけに食べ物もらうよね」なんて話していたら、あるご近所さんが心配そうに言ってきた。
「……もしかして、生活が大変なんじゃない?」
話を聞くと、うちの周辺20軒ほどの家に、筆で書かれた立派な和紙の手紙が配られていたらしい。内容はというと――
「坂内と申します。突然のお手紙、大変申し訳ありません。実は、家族を支える身でありながら、先日職を失いました。困窮し、明日食べるものにも事欠いております。どうか、子どもたちの食事だけでも分けていただければ……」
しかもその手紙、すべての家に微妙に違う内容で配られていて、「破産した」「車を手放す予定」など、まったくの作り話が添えられていた。
もちろん、うちの父が失業したこともなければ、家計が苦しいなんて事実もない。
この妙な手紙のコピーが、近所で回収されて20通以上に達し、とうとう警察に被害届を出すことになった。でも、犯人は捕まらず、目的も正体もわからないまま。
テレビで「県庁のトイレに現金と達筆な手紙が置かれていた」というニュースを見た時、その異様さが重なって、鳥肌が立った。
手紙は、朝刊を取りに行った時にポストに入っていたという人が多く、まるで狙ったようなタイミング。
とにかく、気味が悪いし、心底怖かった。
[出典:316 :2007/10/15(月) 01:29:20 ID:O6xioJ6X]