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短編 恐怖の実話

親心の暴走【霊より人間のほうが怖い話】

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以前に販売の仕事に携わっていた友人の社員研修資料を見せてもらった。

【クレーム内容と対応について】

クレーム対応に求められる内容を大きく二極化すると、
【A】『事由が正当な理由を持つ場合』と、
【B】『持たぬ場合』に分かれる。

さらにこれを二分すると、

【a】『金品・賠償・謝罪等の“善処”で収まる場合』と、
【b】『収まらない場合』とに分けられる。

【A】【a】タイプ
【A】【b】タイプ
【B】【a】タイプ
【B】【b】タイプ

の四つである。

といった内容の文面があった。

なるほど、わかりやすい。

最近になって【B】【b】タイプのクレーマーの部類に、『モンスターペアレント』という存在が認知されてきたように、学校という場所は【B】【b】タイプのクレーマーが実に集まりやすい。

これは私が経験した最も怖いモンスターペアレントの話です。

その頃の私は大学の教授助手として働いていた。

私が働いていた頃の助手は私を含めて四人。

在職期間が一番長い斎藤さんを筆頭に、一番年上の大野さん、新人の中野さん、そして私という構成。

その頃、私たちの担当する学科の一年生に仲良しグループがおり、男:4、女:2の六人でいつも行動していた。

彼らは全員が遠方出身者のため一人暮らし。

互いの家を泊まりあったりしながら、ほぼ毎日一緒に遊んでいる様子だった。

職場における子供たちの恋愛模様を見るのが大好きだった私たちは、彼らの中からいつカップルが生まれるのかとワクワクして見守っていたが、若い男女が親元を離れて毎日一緒に行動しているわりに、彼らの中に特定のカップルが生まれる様子は無かった。

そう見えていた。

ある祝日。

学生や教授達は休みだが、仕事を残してしまっていた私たちは、大野さんを除いた三人で休日出勤。

仕事は午前中で片付いたが、なんとなく全員でその場に留まり、人気のない学内で教授の目がないことをいいことに、コンビニ菓子をつついて談笑。

緊張感ゼロの空気漂わせる研究室に突如一本の電話。

?休日なのに……?

受話器を取り上げ、顔に近づけようとしたその数瞬、女性の金切り声。なにかを泣き叫ぶ女の子の悲鳴。

後ろのほうからなにかを喚く男性の怒鳴り声。足音。物のぶつかる音。電話機に衝撃をあたえたときのゴワついた雑音。

それらが受話器から一気に飛び出してきて、一瞬で切れた。

構内に学生がいないぶんなまじ静かだった研究室に、電話越しにあるまじき大音量がよく響いた。

『空気が凍りつく』っていい表現です。

「………」

全員が空回る思考力でオロオロしている隙に、再び電話のコール音。

当然、誰も受話器に触れられず電話をただ凝視。

長い呼びかけ音がやっと諦めたように切れると、間髪いれずに再び着信。

第二ラウンドのコール音の中、先程聞こえた物騒な物音のことを考え、

「事件性あり?出なきゃヤバいでしょ!?」

⇒電話をとると、「いやいや、なんで休み(祝日)の研究室にかけてくるの?おかしいでしょ」

⇒電話をとらないの意見があがった。

しかし考えてみると、一般的に公表されている電話番号へかけると、大学の総務課へ繋がるものだ。

各研究室へ直結する電話番号は通常、学校内の学科や課だけが使うものであり、一般公開はされていない。

直結番号へかけてくるのは、職員と一部の在籍学生のみ。

だが、身内(学校関係者)ならば、無人の可能性90%以上の休日にかけてくるとは考えにくい。

緊急の要件なら携帯にかけあうのが常である。

満場一致で『電話をとらない』を選択。

結局、謎の着信は二回目であきらめてくれたようだが、妙な気味悪さを感じてその日はさっさと帰宅。

事件が起きたのはその翌日。

朝、まだ学生もまばらな時間。

昨日の奇妙な出来事を大野さんに話しながら今日の授業準備をする研究室に電話のコール音。

「はい。○○大学△△科研究室です」

応対文句を話しかける電話の向こうには、女の子のしゃくりあげる泣き声。

『……じ、じょ……っ助手…っさん?イダ……で…っす』

例の仲良しグループの一人だった。

「!?どした?なんかあった!?」

『ごっ…めん………な…さい!すぐ!すぐ……逃げて!……うちのっ……親っが……今から……学校に行く……って!』

しゃくりあげながら必死に逃げろと訴える声。

『親に会わないで』『逃げて』『ごめんなさい』と、うまく発声できない声を振り絞って訴える彼女。

どうやら、彼女の住む学生寮から、彼女の両親が大学に向かっているらしい。

しかし、親が訪ねてくる事のなにがマズイのか問うても、ごめんなさいを口にするばかりでハッキリしない。

状況理解以前にヤバさを感じたが、今日の仕事がある。

どうしたものかと迷っている間に電話は途切れた。

昨日の一件が頭をよぎったが、全貌がまったく見えてこない。

モヤモヤした不安はあったが、目の前の仕事があったため、仕方なくそれぞれ一限目の授業を補佐していた。

このまま何事もないのでは?と油断がうまれてきた頃に突然、他科の助手が研究室へ飛び込んできた。

「総務課窓口で、学生保護者と思わしき男女が怒鳴りちらして騒ぎになっている」

……一人だったら泣いていたかも。

昨日の事情を知らない大野さんと、すでに半泣きな中野さんを残して、斎藤さんと共に総務課へ走る。

廊下を走る時点で聞こえてくる怒鳴り声は、昨日の電話で聞いた声に酷似していて、なんだか妙に頭の中で

『昨日の出来事の真相がわかる』と、不謹慎にもワクワクしていたのを覚えている。

総務課に入って目に入ったのは、身なりはいいのに首から上はスッピンでボサボサ頭というアンバランスな女性が、総務課職員にむかってカウンターを手でバンバン叩きながらキーキー喚きちらす姿と、これまた身なりはいいのだが、窓口内に侵入しようとするのを職員二人がかりで引き止められて暴れる男性の姿。

床一面は、カウンターに常備されていた文具類や書類が散乱し、窓口内には、いつもカウンターにいた植木鉢が無残に転がって泥をまきちらしていた。

ヤバイ。

しかし、見ないふりなんて出来るわけない状況。

「失礼します!!△△科研究室の者です!!もしもs――」

「ああああああぁぁぁぁぁ――――――――――っっっ!!!!! この××××!!×××××!!!(←※聞き取れません)ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っっっっ!!!!!!!」

大絶叫とともに張り手をくらった。

続いて髪をつかまれ、目の前でなにやら怒鳴り始める。(なんで女ってケンカするとき相手の髪をつかむんでしょうね)

頭皮の痛みと、絶叫のたびに顔面や手の甲に飛んでくるツバがひどくて、抵抗も叫ぶこともできなかった。

怒鳴りつけられる内容を聞いてる余裕なんてなかったが、言葉の端々に「なんでだ!」「お前らのせいだ」みたいな事が聞こえた。

「ウ――――」

だか

「ヒ――――」

だかが混ざったような、駄々っ子がよく出す鼻にかかった悲鳴みたいなのをあげて、私の頭をガクガク振りまわす目の前の人間が、外見的に人生の折り返し年齢を迎えているであろうことが信じられない。

すぐさま女性は私から引っ剥がされ、さすがに行動を暴力沙汰に発展させた妻に、不法侵入未遂していた男性が止めにはいった。

多分、五秒もないくらいの短い出来事だったが、本気の取っ組み合いを経験した思考回路は完全フリーズ。

馬鹿みたいにポカンとその場にヘタっていたのを、斎藤さんと総務課職員さんに引っ張られて廊下へ脱出。

壁の向こうからは今度は女の泣き声が聞こえてきたが、直後に私と斎藤さんは保健室へ強制避難させられたため、その後の顛末は見られなかった。

結局『アレ』はなんだったのか謎のまま一日を終えたが、次の日になり、主任教授から助手全員、会議室へ呼び出されたことで真相を知った。

会議室には例の学生、井田がいて、会議室に入ってきた我々の姿を確認すると、泣きすぎたのか真っ赤になってパンパンにむくんだ顔で、ひたすら「ごめんなさい」

とくり返し謝ってきた。

以下、井田と主任教授から聞かされた今回の事件の詳細。

一昨日の謎の電話はやはり井田がしたもので、騒ぎを起こした男女もやはり井田の両親だった。

どうやら一昨日は、井田の両親が休日を利用して一人暮らしの娘の様子を見にきたそう。

しかし、母親が井田の部屋でグループメンバーと写っている写真を見つけてしまったのが事の発端。

ただのスナップ写真ならばよかったのだが、その写真の彼女は肌着姿。

その他の連中がどんな装備だったのかは聞かなかったが、

肌着姿の女と写っている時点で『お友達同士の清く正しい仲良しショット』の線は消える。

当然怒り心頭の両親。

ここで怒りの矛先を、娘や写真に写っていたグループメンバーだけに向けてくれたのならばごく普通。

矛先は我々学校関係者に向けられた。

「なんで そうなる!?」な我々一同。

両親の言い分は、
●学校は娘にふさわしい友人を作れる環境を配備すべき
●娘に不埒なマネをしでかすような学生を入学させた学校に責任がある
●なぜこんな事態になる前に学校は娘の私生活を守ってくれなかったのか
●学校側から不届き者の学生に処罰を与えるべし
だ、そう。

あぁ、そういえば昨日怒鳴ってたセリフ……それっぽいこと言ってたな……・。
……ってか知るか。

むしろ躾や配慮って、あんたら(親)の仕事だろそれ。

井田も自分の両親ながら、訴える内容が常軌を逸していることに恐怖を感じて逃げ出し、あの警告電話の後は両親に出くわすことを恐れて大学へ近づくことも出来ず、友人宅にずっと隠れていたとのこと。

昨日の暴力行為の理由にするにはあまりにも理不尽な内容に、怒り:2割、呆れ:8割で、なぜか全員で半笑いになっていた……。

「君たちに責任は一切ないし、怒りたい気持ちもあるだろうが、今後は一切、井田家の両親とは関わらないように」

と、教授の〆のお言葉。

言われなくてもそうします。

その後のことは学校の上の人間が対応していたので、我々は詳しくは知らないし、知りたくもなかった。

一応殴られたわけなので、正式に文句を言える立場だったが、もう関わりたくない気持ちのほうが強く、なにより、目に見えてゲッソリしている主任教授に面倒をかけたくなかったので、その辺は忘れることにした。

当事者の井田はその一件以来、学校へ出席した姿を見たのは二回程だけ。

ある日、主任教授から彼女が退学したので処理しておくよう指示があったのが最後。

一方、グループメンバー達にも、今回の事件についての話し合いがメンバーそれぞれの両親と大学とで行われた。

詳細は他言せぬよう厳しく言われていたが、目撃者であふれ返る集団生活である学内において、噂のようなものが発生するのは止めようもない。

ヒレをふんだんに付けた醜聞はすばやく広がり、メンバー全員が出席率ガタ落ち。自主退学した子も一人出た。

仲良しグループはほぼ自然消滅。

結局まともに卒業したのは二人だけ。(残りの子達は単位不足ギリギリでお情け卒業)

それから数年経ち、当時の助手は全員助手の仕事を退いたが、斎藤さんとは今でも親交が続いていて、たまに飲みに行ったりして助手時代の話に花を咲かせる。

きまって話題にあがるのはモンスターペアレントのネタ。

「娘が酔っ払って財布を落としたってのに、『一緒に飲みにいった友達が盗んだ!』って、『財布の弁償をさせるから』なんて、学生名簿ブン取りにきた奴いたよね~」

「他大学への編入試験に落ちたってことを、何故か大学のせいにしてるのいたねー……『編入が無理なら、無料であと二年大学に残して学ばせろ!』とか、普通にゴネる域じゃないよね!」

色々と見てきた理不尽を酒の肴に語ってみる。

わが子への愛情ゆえと言えば聞こえはいいが、彼らのフィルター越しに見る世界が、どれだけ都合のいいものでなければならないのかは未知数だ。

『わがまま』って怖い言葉ですね。

四年以上経過したいまもなお、心の底では笑い話には出来ない思い出のひとつ。

(了)

 


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