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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

護られし者たちの沈黙 n+

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大学時代の後輩が話してくれた話だ。
本気とも冗談ともつかない口調で、けれど目の奥には微かな震えがあった。

場所は、静岡のとある交差点。東名高速の高架がすぐ脇を通っている、車通りの多い地点だったという。
昼下がり、信号が青に変わり、何の気なしに横断歩道を渡ろうとした。右から、車。スピードを落とさず突っ込んでくるように見えたので、思わず足を止めた。
けれど、空気が……変だったという。時間が妙にのびたような、もわりとした感触に包まれた。耳鳴りのような、何かの声のような、「早く、今だ」とせかされているような感覚が背中を押してきた。
無意識に、一歩を踏み出す。とっさに走った。

その瞬間、背後で耳を裂くような金属音。振り返ると、たった今まで立っていた地点に向かって、白い乗用車がスピンしながら突っ込んでいた。歩道のフェンスを破壊し、鉄くずのようにねじれながら停止した。
気がついたら、向かいの歩道で膝をついていた。車の運転手は気を失っていたらしい。

もし、あのとき一歩を踏み出さなければ……
あの場所に立ったままだったら……
考えたくもない結末がそこにあった。

その出来事のあとも、似たような体験は続いたという。

東名高速、夜。雨がしとしとと降っていた。後輩の車の前方に、妙にゆっくり走る軽自動車。煽っているつもりはなかったが、妙に落ち着かず、なぜか「早く追い越さなければ」と焦りが湧いてきた。
急かされているような気配。前に出ると、不意に空気が軽くなった。

数秒後、バックミラーに映った光景に息を呑んだ。
背後から来たトレーラーが、今追い越したばかりの軽自動車に追突。
軽が弾かれたように横滑りし、横からさらに別のトレーラーが突っ込み、路肩で横転。鉄とガラスが弾け飛び、車体の半分がぺしゃんこに潰れていく様が、鏡越しにくっきり見えた。
あのとき追い越していなかったら、自分がその中にいたかもしれない。

その事故は後日、ニュースにもなった。死亡者は出なかったが、重傷者が複数名出たという。

ここまでくると、偶然とは思えなかった。
なにかが、護ってくれているのだろう、と後輩は言っていた。
ただ、正体も名前もわからない。呼びかけても、返事はない。
夢に出てくることも、気配をはっきり感じることもない。ただ、決定的な瞬間にだけ、そこにいる。

助けられた直後は、いつも特有の静けさがあったという。
音が吸い込まれるような、皮膚の下を風が吹くような感覚。
それは「おまえの番ではない」という囁きにも似ていた。

後輩は、どこか祈るような目で言っていた。
「たぶん、誰にでもそういう存在はいるんだよ。
ただ、気づかないだけでさ。
もし一度でも、“なぜか”助かったことがあるなら、
そのときだけでも“ありがとう”って思ってやってくれ」

「きっと、そいつは見てるからさ。
何も返事はしないけど、ちゃんと……ずっと見てるんだよ」

その言葉を聞いた夜、自分にもひとつ思い当たる出来事があった。
思い出さないようにしていたが、それも同じような“力”だったのかもしれない。
名も、形も持たぬ存在に、ただ一言だけ、心の中で呟いた。

ありがとう、と。

[出典:410 :本当にあった怖い名無し:2024/08/27(火) 10:09:56.62 ID:XA8L3kBU0.net]

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