僕は山奥の田舎に住んでいますが、僕が子供の頃の話です。
517 :本当にあった怖い名無し:2005/10/02(日) 03:41:45 ID:2bMdqCH20
小学生も、低学年の頃は親と一緒に寝るのが当たり前ですが、高学年になってくると、やはり自分の部屋が欲しくなり、「兄と姉のように自分の部屋が欲しい」と、ある日母にねだりました。
その頃ちょうど二階の角部屋が開いていたので、そこをくれと頼みました。
二階には三部屋有りますが、角部屋以外は兄と姉の部屋でした。
すると、母は驚く程強い口調で「ダメ!」と断ってきたのです。
その部屋は日当たりの良い、家の中でも好条件に当たる部屋なのに、雨戸もずっと閉め切ってあり、物置代わりになっていました。
しかし、大した荷物が置いてあるわけでもなく、庭には大きめの物置もあり、普段ちょっとした物を仕舞うのは庭の物置の方で、その部屋は本当に使われていない部屋でした。
それが子供心にも不思議だったし、そんな部屋があるのに、自分の部屋が貰えないのも理不尽に思い、粘りに粘りました。
しかし、母は強硬に反対し続け、絶対ゆずる気配がないので、仕方なく父の方にターゲットを切り替えました。
父は頑固で厳しく、子供心に怖い人だったので、あまり物を頼みたくなかったのですが、それ程自分の部屋が欲しかったのです。
今思うと、簡単に貰えると思っていた部屋が、思いもよらない強硬さで反対されたので、子供心に意地になっていたのかもしれません(笑)
役場から帰った父に頼むと、意外な程あっさり許しが貰えました。
怒鳴られる事を覚悟して、心臓もドキドキしていただけに、拍子抜けしてしまい、しばらく呆然とした程です。
「何だ、嬉しくないのか?」という父の言葉で、ようやく我に返った程です。
しかしそれを後ろで聞いていた母が、血相を変えて飛んできました。
「あなた、絶対にダメです!あの部屋だけは絶対に!!ユウスケがどうなっても良いのですか?」
何時も穏和な母が、最初からムキに断ったのにも驚きましたが、父の決定に真っ向から反対するのも驚きました。
あまりに驚いたので、母の奇妙な反対の理由にも頭が回らなかった程です。
父は吸っていたタバコを消しながら、
「まだお前はそんな事を言っているのか?あの部屋はこの家でも条件の良い部屋なんだぞ!何時までもあのままじゃあ、もったいないだろう。あの時はお前の意見を聞いたが、もういいかげんにしろ!息子の自立心の成長を邪魔する親が何処にいる!」
父の一喝で、母も不満そうと言うより不安そうでしたが折れました。
母の異常な言動が少し気になりましたが、部屋を貰えた嬉しさで、そんな事も気にならなくなりました。
次の休日
父や兄弟が手伝ってくれて、二階の部屋の物を物置に移し、掃除もして、僕の部屋は勉強机しかないけど、完成しました。
母はまだ暗い顔をしていましたが、今まで怖いばかりの父は、母が暗い分明るく頑張ってくれて、汗だくで笑いかけてくれる父は、もの凄く頼もしい感じがしました。
初めて一人で寝る晩、母が僕の所にこっそりと言う感じで、家族に気付かれないようにやってきました。
部屋に入ってきて何かを言い出そうとしていましたが、思い悩んでいるようでなかなか何も言い出しません。
僕は部屋の事で反対されてから、少し母に対して険悪な感情を持っていたので、「何なんだよ!」と強めに言ってしまいました。
そうすると母はビクッと体を震わせ、「ごめんね……」と謝りました。
「もう、この部屋はユウスケの物だし、お母さんも反対はしない。でもね、これだけは覚えておいて欲しいの……」
「もし、この部屋で何かあったら、これを握りしめて南無阿弥陀仏と唱えなさいね」
そういって、ちょっと変わったお守りを渡してきました。
何の事やらさっぱり分らず、何と答えて良いか困っていると、母は「忘れないでね」と言って出て行きました。
話の内容より母の真剣な眼差しが怖くて、しばらく天井を見つめて考え込んでいましたが、いつのまにか眠ってしまいました。
その晩は何事もなく、次の朝には母もいつもの穏和な母に戻っていました。
幾日かが過ぎ、家の余っている家具を運び込んで、部屋の体裁を整える事に一生懸命になり、母もそれを手伝ってくれたので、僕はそんな事を完全に忘れ去っていました。
しかし、村の外れにある家で葬式が出ると、母の態度がまた少しおかしくなりました。
でもおかしいと言っても、たまに僕を心配そうに見つめるだけです。
亡くなったのが、母親と良く話をしていた仲の良いおばあさんだったので、それが原因かと思い、特に気にしていませんでした。
しかし、お葬式が終わって幾日かした晩の事です。
僕が寝ていると、何か変な物音で目が覚めました。
僕の家は、街に降りる為の路に面しており、山向こうの街から、夜中でもたまに車が通るのですが、その車の音かと思い窓を見ました。
すると、確かに車が走ってきているらしく、カーテンが明るく照らし出されていたのですが、そこに何か影が映っているように見えました。
家の外にある木の陰だと思い、初めは気にもせずに「なんだ車か……」と再び寝ようとしましたが、違和感を感じました。
僕が窓を見つめていたのは4~5秒の事だと思いますが、いつもは車のライトで照らし出されるのは一瞬の事で、僕が見つめている間に、照らし出される事など無いはずなんです。
車が外で止まっているのかとも思いましたが、こんな所に車を止めても何も無いですし、僕の部屋が照らし出される位置に車を止めているのも、変な話なんです。
そこはちょうど道のカーブに当たる所で、反対側は沢に下る急な坂で、その反対側は崖を覆ったコンクリートの壁しか無く、その壁の上も畑しか有りません。
そんな所の車を止めて何をしているのだろう?何か異常な事態が何処かであったのだろうか?
そんな不安を感じ目が冴えてきました。
そこで起き出し再び窓に目をやると、やはりライトに照らし出されたように明るいままでしたが、よくよく見ると車のライトなどではなく、何か不思議な青っぽい光でした。
今ならLEDと思うでしょうが、あの時代にそんな物など有るはずもなく、車のライトは白っぽい黄色の光ばかりです。
そこに映る影も、木の陰などではありませんでした。
何故なら、光は止まっているのに、影だけが此方に近づいてくるからです。
風に揺れる事はあっても、動くはずがありません。
それは、段々人の形をしているように見えました。
僕はこの時になって、初めて恐怖を感じ始めていました。
子供心に、これは非情に不味い事が起こっていると感じたのでしょう。
慌てて部屋から逃げ出し、両親の元に駆け込みました。
両親は寝ていましたが、僕が入って来た事で目を覚ましました。
母が「何かあったの?」と、心配そうに聞いてきました。
僕は今さっき起こった事を言いかけ、「何でもない……ちょっと一人で寝てるのが寂しくなった」と言いました。
ここで騒げば、せっかくの自分の部屋を取り上げられるかと思ったからです。
父はちょっと呆れた風に、「ユウスケもまだまだ子供だな」と笑い、布団に入れてくれました。
母は全然信じていないようで、心配そうに僕を見つめていましたが、それを無視して父にしがみついて眠りました。
その晩以降、また何もなく日々が過ぎ、初めはちょっと怖かったのですが、何も起こらないままだったので、僕も忘れ始めていました。
そして、また村で人が亡くなったのです。
今度は近所のおじさんで、もっと小さい頃はよく遊んでくれていたのですが、病気で入院して、そのまま回復せずに亡くなったとの事でした。
お葬式からしばらく立ったある日の晩、とうとうそれは起こりました。
今度も何か物音を聞いたような気がして、夜中に目が覚めました。
しかし、その日は友人と昼間に裏山で遊び回っていたので、起きるのが遅れて仕舞ったようで、窓を見ると、前よりも影はハッキリと人の形をして、カーテンに写っていました。
僕はまた逃げだそうとしましたが、その影がもう窓の直ぐ外にいるらしく、鈴を鳴らしながら歩いている人の影は、今にも部屋に入ってきそうで、怖くて動けなくなりました。
鈴の音もハッキリ聞こえます。
とうとう『ソレ』は、部屋に入ってきました。
その影が部屋に入った瞬間、カーテンを照らし出していた光も部屋の中に入り、部屋の中に丸い光のトンネルを、僕も包んだ形で造ったのです。
その中を、亡くなったはずのおじさんが、鈴を鳴らしながら入って来たのです。
そして、僕と目が合ってしまいました。
おじさんは「よう、ゆうぼう。久しぶりだな……」と言ってきましたが、その目はうつろで生気など無く、肌の色も不気味な程白いせいで光の中では青白く、異常に恐ろしく見えました。
僕はビビリ上がってしまい何も言えないまま、おじさんを見つめていました。
「何だ、そんな怖い顔をして。何時もおじさんには元気に挨拶していたじゃないか?何かあったのか?」
と聞いてきました。
怖いのは死ぬ程怖いのですが、害を与えられそうもないので、なんとか声を絞り出し、「こんばんわ」となんとか答えました。
今思い出しても間抜けな受け答えでしたが、それが精一杯でした。
「ゆうぼう、おばさんを知らないか?おばさんを捜したんだけど、見つからないんだ……」
おばさんとは、おじさんの奥さんのことで、後から聞いた話だと、その晩は親戚の家に行っていたそうです。
僕は当然そんな事を知るはずもありませんから、首を振りました。
「そうか……知らないか……」
おじさんは視点の定まらない目でそう答え、しばらく考え込んでいましたが、何か良い事を思い付いたように、とてもとても嬉しそうな笑顔になりました。
その笑顔は本当に嬉しそうですが、僕には途轍もなく恐ろしい笑顔に見えました。
前進の感覚が麻痺するような恐怖です。
そしておじさんは言いました。
「ゆうぼう、ゆうぼうと一緒に行こう。そうだ、それが良い」
クスクスと笑いながら、僕に近づいてきました。
僕は涙と鼻水でグチャグチャになっていましたが、どうする事もできず、木津おじさんに腕を捕まれるまで動けませんでした。
しかし、おじさんが腕を掴んだ瞬間、全身の細胞が悲鳴を上げるような、電気が駆けめぐるような激しいショックが走り、とっさに腕を振り解き、勉強机に方に這って逃げました。
おじさんは少し意外そうな顔をしながら、
「どうした……ゆうぼう?良い所に連れて行ってやると言ってるのに?」
おじさんはそう言いながら、笑顔のまま僕に近づいてきます。
僕はこの状況から逃げ出す為、頭をフル回転させていましたが、パニックも起こしていたので、考えがなかなか纏まりませんでした。
廊下に逃げるには、おじさんの横を通り抜けるしかありませんが、とてもそんな事など出来ません。
おじさんはどんどん近づいてきます。
もうダメかと思った時、ようやく母親の話を思い出しました。
あのお守りは、あの日以降机の引き出しに入れたままのはず!
その事を思い出し、とっさにお守りを取り出しましたが、おじさんに肩を掴まれてしまいました。
また、全身にショックが走り気が遠くなり始めた時、廊下の襖が開きました。
そこに立っていたのは母でした。
母は僕に渡したのと同じお守りを持っていて、おじさんに向かって怒鳴りました。
「その子を連れて行く事は、わたしが許しません!!」
母はお経を唱えながら、僕とおじさんに近づいてきました。
おじさんはお守りを怖がるかのように後ずさり、僕から離れていきました。
「あなたが行く所は、あちらです!一人でお行きなさい!」
そう怒鳴ると、再びお経を唱え始めました。
「そんなに怒らなくても……」
おじさんは悲しそうにそう言い残すと、トンネルが続く廊下の方に歩き出しました。
壁に消えかけた時、廊下で悲鳴が上がりました。
兄と姉の声です。
母は一瞬お経を唱えるのを止めましたが、その瞬間おじさんの動きも止まったので、再びお経を唱え続けました。
おじさんが完全に壁の中に消え、光のトンネルが消えると、初めてお経を唱えるのを止め、力尽きたようにその場に座り込みました。
冬の夜中なのに汗でびっしょりで、体中から湯気が立っていました。
兄と姉が「今の何だったの?」「人が壁に!!」と言いながら僕の部屋に入ってくると、母は急に立ち上がり、僕達を抱えて泣き始めてしまいました。
僕も大泣きです。
兄と姉は、困ったような顔をしていたんだと思います。
その騒ぎで、ようやく父が起き出してきました。
「あなた、やはりこの部屋は良くありません!ユウスケも連れて行かれそうになりました!」
そう母が訴えかけると、父は困った顔をして黙り込んでしまいました。
「あなた、まだ私の言う事を信じられませんか?私が病気だと思っているのですか?」
母は必死になって訴えかけましたが、やはり父は困った顔をしたままです。
「コレでもまだ信じられませんか?」
そう言うと母は、僕のパジャマの上着を脱がし、父に腕と肩を見せました。
その時になって初めて僕も気が付いたのですが、おじさんに捕まれた腕と肩の所が、手の形に青アザになっていたのです。
「まさか……」
そう言うと父は、その場に座り込んでしまいました。
兄や、姉も覗き込んで怖がっていました。
「じゃあ、お前の言っていた事は本当だったのか……」
そう言ったきり、惚けたようになってしまいました。
母はそんな父に近寄り、
「何度も言ったでしょ?ここは霊道なんです。何とかしないと、この部屋は危険なんです」
霊道と言われても、僕も兄弟も何がなんだか分りませんでしたが、父は何度も頷いていました。
次の日から、父の動きは素早いものでした。
村の最年長のお年寄りの所に相談しに行き、僧侶を紹介して貰って、車で迎えに行き、早速見て貰いました。
それからお坊さんの指示で庭にお堂を建てたのですが、それが変わっていて、普通仏像が入る場所に何もなく、両側の壁に、お札を仕舞うスリットのような物が付いていて、正面の扉と反対側にも、正面と同じような扉が付いていました。
まるで、前からも後ろからも出入りが出来る、エレベーターのようなお堂です。
そして、お堂から何か変わった模様を彫り込んだ石を、道しるべのように家を迂回するルートの地面に埋め込み、家の裏側にも同じようなお堂を建てました。
「これで霊魂は家を迂回して通るようになる。もう安心じゃよ」と言いました。
確かにそれ以降、何も起こりませんでした。
村の誰かが亡くなり、何日かの間、夜は家族全員で僕の部屋で見張るように眠りました。
つまり実験したわけですが、父以外の家族は全員嫌がりました。
しかし、お堂や僧侶のお祓い料に相当金を使ったらしく、父が「効果があるか試さないと納得がいかない!」と言い張って、無理矢理付き合わされたという事です。
変な話ですよね?実に父らしいのですが……
しかし……やはりと言うか、その部屋は空き部屋になってしまいました。
僕はもう二度と、あんな目に遭いたくなかったからです。
仕方なく父は物置を取り壊し、そこの離れを建てて兄の部屋にし、兄の部屋が僕の部屋になりました。
二階の角部屋は、見事に物置になりました。
父は何かにつけてブーブー言っていましたが、他の家族全員がそう主張したので、父も折れるしかなかったようです。
母が嫁いできた当時、それに併せて家を建て替えあの角部屋は、夫婦の寝室だったそうです。
しかし霊感の強かった母は、霊が通るたびに眠れない夜を過ごし、軽いノイローゼになり始めていたので、下の部屋に移ったのだそうです。
僕の体に付いていたアザと同じ物が、母にも付いていた事があるそうです。
その時は、母が自分で付けたのだとばかり思い込んでいたのですが、僕の体にも付いているのを見て、兄弟達も目撃した事から、とうとう父も認めたのでした。
結局、物置の為にお堂を二つも造り、お祓い料や毎年のお札の代金。
それに、二年に一度お経を上げて貰う為に、車で迎えに行く事になり、父には気の毒な事をしたと今では思います。
僕が遭遇したおじさんの霊は、長い入院で心が少し病んでしまい、寂しさで誰かを連れて行こうとした、タチの悪い霊だったようです。
「殆どはただ通り過ぎるだけ」と、母が話してくれました。
しかし、事故死や自殺者の霊は本当に怖いと母は言います。
誰かれ構わず道連れを作りたがるのだそうで………
そう言うわけで、今でも僕の実家では、両親と兄夫婦が住んでいますが、二階の角部屋は物置のままだし、お堂も設置されたままです。
皆さんも霊道に遭遇したら、とにかく逃げ出して下さい。
霊道を通る霊は、霊道の中から出られないそうですから……
間違っても、霊道の進む方に逃げないようにして下さいね。
(了)