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演習場の亡霊~掘り起こしたくなかった記憶 r+2066

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これは、自衛隊に長く務める知人の先輩から聞いた話だ。

自衛官になってから、怪談や奇妙な話に妙に縁があるようになった。先輩自身も心霊体験を何度かしているらしく、同僚や仲間と体験談を語り合うことが増えたという。その先輩が語ったのは、「たこつぼ」と呼ばれる塹壕にまつわる出来事だ。

たこつぼとは、銃弾から身を守りながら反撃の態勢を取るための浅い塹壕で、最低でも腰まで埋まるような深さが必要とされる。しかし、それを掘るのは並大抵のことではない。柔らかい地面ならともかく、石だらけの固い地面では一日がかりだ。しかも、基本的にたった一人で掘るので、途中で苦しくなっても重機が助けに来てくれることなどない。心身ともに骨の折れる作業だ。

ある演習で、先輩は上官から命令を受け、指定された地点でたこつぼを掘り始めた。その場所は運悪く、地面が石混じりでかなり固い。ツルハシで地面を砕きながら掘り進むと、大小さまざまな石がごろごろと出てきた。

さらに下へと掘り進み、あと数十センチというところで、またも大きな石に突き当たった。抱え込めるほどのサイズで、手で持ち上げるには少し無理があるようなものだった。疲れ果てているうえに、あと少しで完成という段階での障害だ。先輩は内心腹立たしく思いながらも、その石にツルハシを振り下ろし、表面を削っていく。だが、何度かツルハシを振り下ろすうちに、どうも奇妙な違和感に気付いたという。

その石は、ほかの石とはどこか異なっていた。色味が少し黒ずんでおり、表面はつるりと滑らか。自然の石とは思えない、どこか人工的な加工を施されたような質感があった。ふと不安にかられ、ツルハシを置いて手で表面の土を払ってみる。すると、そこにはかすかに「◯◯家之墓」という文字が浮かび上がっていたのだ。

心臓が跳ね上がるような恐怖を覚えた先輩は、そのまま上官のもとへ駆けつけた。墓石を掘り当ててしまったと報告すると、上官は短く考え込んだあと、淡々と「埋めなおせ」とだけ言った。先輩は一瞬呆然としたが、命令に逆らうことはできない。仕方なく、墓石のまわりを再び土で埋め戻し、つい先ほどまで一日がかりで掘ったたこつぼを跡形もなく埋めてしまったのだ。

それを聞いて思わず吹き出したのだが、先輩は笑うどころかどこか青ざめたような顔をしていた。墓石を叩いていたこと自体も嫌だったが、掘り起こした塹壕を埋めなおすよう命じられたことが、何よりもぞっとする出来事だったのだという。

後日、この話を同じ部隊にいる霊感が強い心霊曹長に話したところ、曹長はどこか薄気味悪い笑みを浮かべながらこんなことを言ったという。

「まぁ演習場はどこも古くて、戦術的にたこつぼを掘る位置も決まってくるからな。そうそう墓石なんて出てこない場所だと思って安心してたけど、もしかしたらその場所、墓石に呼ばれたんかもしれんな」と、そう言って曹長は軽く肩をすくめた。だが、その目には笑いの気配など微塵も感じられなかったという。

その話を聞いて以来、先輩は自分でも見えない力に引き寄せられるような不安を感じるようになったらしい。案の定、その日の夜、演習が終わり、先輩は他の隊員たちと草むらに伏せて休んでいた。辺りはしんと静まり返り、時折風が草を揺らす音だけが耳に届く。そのまま疲れからうとうとし始めたその時だった。

背後から何か、重いものが覆いかぶさってきた。息が詰まるほどの圧迫感に、思わず声を出しそうになる。だが、その声は喉の奥でかき消され、体も動かない。必死で振り返ろうとしたが、そこには誰もいなかったという。

後日、これを仲間に話したところ、誰もが「疲労がたたったんだろう」とか「たまに悪戯でそういうことする奴もいるからな」と軽く流して聞いてくれなかった。だが、心霊曹長だけは別で、「演習場で呼ばれるような場所に行くのは気をつけたほうがいいぞ」と、どこか意味深に呟いたという。

それ以降、先輩はその演習場へ赴くたび、なぜかどこからか見られているような気配を感じるようになったという。

[出典:728 :本当にあった怖い名無し:2021/06/29(火) 01:00:57.35 ID:NTrzhT390.net]

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