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短編 山にまつわる怖い話 洒落にならない怖い話

禍垂(かすい)封鎖されたトンネル【ゆっくり朗読】7630

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昔、十代の時で、未だやっていい事と悪い事の分別もつかない時の話。

中学を出て、高校も行かず、仕事もせずにツレとブラブラ遊び回ってた。

いつものようにツレから連絡があり、今から肝試しに行こうとなった。

俺は昔からそういった事は全く信じておらず、怖い物など無いと言ってのけていた。

二つ返事で了解し、ツレが迎えに来て、さっそく肝試しに向かう事になった。

場所は割と近い山の中のトンネルだった。

メンバーは、血の気が多くリーダーシップのある雄大

十代と言うのにすでに威厳のある駿介

多少幽霊関係にビビり気味の超絶イケメン和人

そして俺の四人で行く事になった。

皆、霊感なんてものは無く、和人以外は幽霊なんていないと余裕で心霊スポットに向かっていた。

今考えたら、これが間違いだった……

その山までは1時間もかからずに着いた。

道中は何も無かったが、山中の丁度カーブ辺りに花が供えてあったのを見て背筋に悪寒が走り、何か忘れてると考えたのを覚えている。

無事にトンネル前の駐車場に着き、トンネルには直接入れない為、駐車場に止めてそこから四人で歩いて行った。

幽霊など信じてはいなかったが、やはり夜中の山道は気味が悪く、嫌な位静かだった。

そんな中、無理に盛り上げようと、雄大が崖落ち防止のガードレールを蹴り上げながら声を張り上げていた。

雄大「全然大した事無いやろ、暗いだけ」

俺「本当だね、全然大した事無いし、拍子抜けだ」

和人「いやいや、充分怖いし、もう帰りたい」

そんなたわいない会話をしながら歩くと、すぐに目的のトンネル前に着いた。

息巻いて来たはいいが、トンネルの入口の時点で圧倒される程に嫌な雰囲気だった。

トンネルはまるで侵入者を拒むように、もしくは中にいる者を出さないように、でかいブロックで封鎖されていた。

流石に誰が行くと、雰囲気にもなれずにタジタジでいると、血の気の多い雄大が言い出した。

「お前らビビってる?情けないね、俺が行くわ」

ここで行かなかったらビビり確定、それだけは避けたかった俺は、思ってもない事を言ってしまった。

「ビビるはずないだろ、俺が一人で行って来るから待っとけ」

本当に後悔した。

「お前は男だな、ヨシ行け」

この時ばかりは雄大を恨んだ。

本当に零感の俺でもヤバイ雰囲気ムンムンだったから。

しかし、一回言った事なので後には引けず、ブロックの隙間から一人、吹き抜ける暗闇に侵入した。

いざ入ってたはみたものの、中はずっと続く暗闇、その日暮らしの俺達は懐中電灯など無く、あったのはジッポライターの明かりだけ。

その明かりが余計に揺らめいて見え、不気味さを更に強調していた。

トンネル内は天井から水滴が垂れる音以外の音は無く、幽霊なんていないと考える俺でも、奥に向かって中々踏み出す事も出来ずにたじろいでいた時、トンネル外で待つツレが叫んで来た。

雄大「中はどうだー?」

和人「マジでやめた方がいいってー」

駿介「俺らも行こうかー?」

その声で少し恐怖が消えた俺は、「大丈夫、奥まで行ってみるわ」と、トンネルの奥に向かい歩き始めた。

いざ歩き始めると恐怖心は余り無く、むしろ何故か懐かしい感覚にさえなったのを覚えている。

そんな違和感を抱えながら、丁度トンネルの半分位に来た時に、カーブの時に忘れてた事、妙な懐かしさの正体が何なのかはわかった。

(※これは話に繋がる事なので、詳しい事は後述)

怖さは完全に消え、そのまま奥に辿り着き、何も無く、溜息混じりに戻るかと踵を返した時に、それは起こった。

耳元からフゥーっと息を吹きかけるような生温い風が耳にかかる。

気のせいと気にせず歩を進めるが、10秒おき位にずっと吹きかけられ、流石に恐怖心が蘇った俺は、足早にトンネル入口へ向かった。

足早になった辺りから吹きかけられている息が絶えず吹きかけられようになり、恐怖心が絶頂に達した俺は、全力で入口に向かって猛ダッシュした。

何とか入口のブロックの隙間からはい出て、耳元の息も無くなり一段落した俺は、固まって待っていたツレの所に行こうとした。

「スゲーよ、ここは本気でヤバイ、マジで焦ったし、何か耳元で息を……」

と俺が言いかけた時、ツレ達が顔面蒼白で震える声で言った。

雄大「お前の後ろ、何なんだよ」

駿介「お前悪ふざけも大概にしろよ、そんなんで出て来たら洒落にならんぞ」

俺は『ハァ?』と思ったが、ああコイツら出てきた俺をビビらす為のドッキリだなと思い、少しキツめに

「お前らが大概しろって、一人でマジ怖い思いしたんだぞ!」

と言った所で、和人の様子に気付いてしまった。

和人が涙目になりながら震えていた……

幽霊にはビビるが普段は肝の座ってたコイツが、演技で涙目になり震えるはずがないと思った俺は、何かが確実に後ろにいると思い動けなくなった。

恐怖に直立不動で動けなくなった俺は、ずっとツレに視線を向けていたが、ある事に気付いた。

左眼の視線の端に、黒い髪のような物が見える。

しかし、恐怖心が勝り確認出来ずにいた時、急に和人が「マジもう無理だ」と言いながら駐車場に向かい走り始めた。

それと同時位に雄大と駿介も「マジスマン」と言いながら走り出した。

恐怖心はヤバかったが、パニックになりながらも、この状態で一人残される事な方が無理と判断した。

俺も駐車場に向かい全力で走り出した。

本当にビビり上がっていた俺は、何度も躓きながらも全力で走ってた。

子供の頃に聞いた『幽霊は光が嫌い』

そんな迷信めいた事を考え、駐車場に着き車のライトさえあれば大丈夫だと、藁にもすがる気持ちで走り続けていた。

走り続けていた時になって初めて気がついたが、ずっと背後に気配がしていた事に、さっきは安堵からかツレばかりに集中して気付かなかった事に気付いてしまった。

この時に後ろにいる何かを、もし連れて行ったら車に乗れないかもと考えた俺は、確認しないといけないと思った。

この時は本当に気が動転していたんだと思う。現在の恐怖心より、置いて行かれる恐怖心が勝ってたから。

俺は立ち止まり、意を決して後ろを勢いよく振り向いた。

少しでも怖さがないように自分なりに考えてした事だが、これが本当に失敗だった。

目を見開いた女が俺を凝視していた。

俺はいつも洒落怖を見て、『本当の恐怖にあったら~』を見て、いつも本当には違うなとか考える。

まぁこれは俺だけかもしれないが、余りの恐怖と驚き等混ざりあった結果なのか、失禁と脱糞を同時にしてしまった。

女は普段よく表現される貞子のような風貌ではなく、前髪を上げて、普通にフリルの着いた上着、ジーンズという出で立ちだった。

本当の人間だと思うくらい、普通だった。

だが決定的に違っていたのは、目・鼻・口。

全てが生きている人間とは違った。

口は所々裂け化膿しているみたいにグチュグチュになっていた。

鼻は右の鼻孔から半分以上ちぎれかけている。

決定的なのは目だった。

黒目の部分と思う部分には、無数の光るガラスみたいな物が突き刺さり、涙のように黒い液体が目から滴り落ちていた。

気がつけば俺は何も考えず一心不乱に走り出していた。

糞尿を裾から垂らしながら、涙はこぼれ、鼻水を垂らしながら、本当に人間として最低辺な姿だったと思う。

でも俺が唯一考えられる事といえば、

『死にたくない』

『助けて』

『ごめんなさい』

……それを繰り返すしかなかった。

走っている間、またあの息を吹きかけられているような音が耳元から聞こえた。

それがさらに恐怖心を増長させ、何度も転びながらも駐車場に辿り着く事が出来た。

ツレ達は車で待っていた。

エンジンをつけライトをつけていた為か、俺は助かったと思いながらも全力で車まで走った。

俺が車に近づくにつれ、気配は遠くなっていった。

後ろに乗ってた雄大がドアを開けて待っていたので、飛び込むように車に乗り込んだ。

そのままタイヤを唸らせながら、全速力で山道を下っていた。

俺は震えと恐怖が止まず、窓からキョロキョロ女がいないか確認していると、横にいる雄大が話しかけてきた。

雄大「お前大丈夫だったか?本当に悪かったな、本気であれはヤバ過ぎだったから」

駿介「本当にスマンな……」

和人「マジ申し訳ない、我慢したかったけどあれは無理だった」

どうも、最初は俺が逆にドッキリを仕掛けていたと思ってたらしい。

あんなの無理だと普通にわかると思うが……

俺「マジ人生終わったと思ったぞ、お前達マジ薄情だと思ったし……まっ、俺が逆でも本当に怖いだろうし、気持ちはわかるしいいよ」

山を下っているからか安心感が出て、落ち着いてきた俺はツレ達を許し、何気無しに窓から外を見た時に気付いてしまった。

丁度花が供えてあるカーブに差し掛かる時に、木の上いる何かに……

またパニックになりかけた俺は、「早く、早く、飛ばせ!」と声を荒げながら何度も叫び、何故か隠れるように座席の足元に座りこんだ。

和人「何だよ、本当やめろよ、マジ勘弁してくれよ」

駿介「何があったんだよ、またいたのか?」

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車内はパニックになりかけた時に、雄大がやっと聞き取れるほどの小さな声で言った。

雄大「俺も何か見たぞ……木の上に何かいた」

その言葉で車内は完全にパニック状態になり、捕まってもいいと100キロ以上を出し、逃げるように帰った。

皆、家で一人になるのを嫌がり、俺も嫌だったので、四人で雄大の家で泊まるようにした。

雄大の家をいつも溜まり場にしてたし、いつもの流れでもあるが。

でもその行為は意味が無く、それはその夜に起こった……

無事に雄大の家に着いたものの皆寝れずにいて、恐怖心を少しでも払おうと酒盛りを始めた。

俺はパンツが汚れていた為、風呂を借りてから酒盛りに参加した。

風呂から上がった時点で皆結構酔いが回っていて、ツレ達はすでに寝入りそうな感じになってた。

酒の力は偉大で、飲んでいく内に恐怖心は薄れ、段々と眠気も来て、皆でザコ寝となった。

そして夜中にトイレで目が覚め上半身を起こした時、背後から気配を感じた。

それはまさしくトンネルで感じた気配だった。

一気に恐怖心が蘇り、金縛りとは違う、恐怖心から動けないでいた。

だが、まだ酒が残っているせいか気が大きくなり、見た目が怖いくらいでビビるか!と、わけのわからない根性がふつふつと湧きあがってきた。

こうなったら一発殴ってやる!と、後ろを振り返った。

やっぱり後悔した。やはり女はあの時のように後ろにいて、そしてあの時とは違う行動に出た。

急に両手で俺を頬を掴み、口を大きく開けて何か言おうとしていたが、口の中には真っ黒な液体が溜まり、喋る度にうがいをしているようにゴロゴロ言って、何を伝えたかったのかもわからずに、恐怖に動けずにいた。

そんな恐怖が10秒続いた時に気付いた。

この女知ってる……

そう考えた時に駿介が寝返りをうち、それに気を取られた次の瞬間にはもう女はいなかった。

それからは朝まで眠れず、ツレが起きるのを待ち、起きたツレに夜中の事を話した。

駿介「幽霊て動けるんだな、初めて知った。てか、いる事自体昨日知ったけど」

雄大「お前本当にヤバイぞ、憑かれてるんじゃないの?」

俺「多分憑かれてるのかな?てか幽霊知ってる女だった」

雄大「はぁ?誰なんだよ?」

俺「多分……元カノの芽衣子……」

それだけで皆何となくだが理解し察してくれた。

元カノの芽衣子はツレと飲みに行った時に知り合った女の子で、ちょくちょく二人で飲んだりしてる内に仲良くなって、付き合い始めた人だった。

しかし、芽衣子は男女関係が結構激しく、浮気でも当たり前にすると噂を聞いたり、実際に男と遊び回ったりしてて、結局は破局となっていた。

それからも向こうからは連絡はあっても、無視して疎遠になっていた。

懐かしいと感じたトンネルも、実は酔った勢いで二人で押しかけた時に二人で行ったからだった。

そしてカーブで見た花は、芽衣子がそこで亡くなった時の物だった。

疎遠になってからも、噂で亡くなったと言う話は聞いていたが、当時は俺にはもう関係無いと言って、何もしてやれてなかったんだ。

雄大「間違いなくお前怨まれてるな。いくら関係無いって葬式にも出なかったしな」

駿介「しかし、どうする?やっぱお祓いとかしてもらったが方がいいんじゃないか?」

俺「でも、そんなの全く知らないし、金も無いし……」

和人「俺一人知ってるぞ。寺とか神社ではないけど、知り合いが動物に憑かれたとかで、それのお祓いを頼んだ人なら」

俺「マジか?なら頼むから聞いてもらえないか?」

和人「わかった、ちょっと待ってろ」

和人は携帯で誰かと話し始め、何やら揉めていたようだが、どうやらOKをもらったようだった。

和人「絶対今日がいいって無理言ったが、大丈夫だってよ」

俺「本当助かるわ、今から行けるん?」

和人「昼過ぎに来てくれって。準備があるらしいから」

そんな準備しっかりする所ならイケるんじゃね、と期待しながら、早めの昼飯を食い、それからその人の家へ向かった。

着いてみると普通の一軒家だった。

チャイムを鳴らし待ってると、普通にエプロンつけたおばさんが出てきた。

まさかこのおばさんじゃねーよな……とか考えてると、まさしくそのおばさんがお祓いの人だった。

俺はもう無理だなと思いながらも、通された居間で「事の次第を詳細に」と言われ話した。

おばさんは真面目な顔でウンウンと頷きながら聞いてくれた。

一通り話を聞いてくれたおばさん(櫻井さん・仮名)が発した一言目はこうだった。

「あたしで祓えるかはわからないけど、出来る限りはさしてもらいます。料金は普段の料金いいですか?」

「料金取るんですか!?ちなみにいくらに……」

「経費など含め五万頂きます」

「マジですか!?すいません、ローンとか出来ますか?」

「事が事だし、構いませんよ。急いだ方がいいですし」

どうやら事態は、一刻を争う位に緊縛してたみたいだった。

櫻井さんの見解はこんな感じだった。

元カノ芽衣子は恐らく俺を怨んでいる。

しかし、それだけではないような気がするから、普通にお祓いするんじゃ駄目かもしれない。

今回はお祓いではなく、芽衣子の標的である俺から完全に意識を逸らし、縁を断ち切る為の物らしい。

もっと詳しく話してたがよく意味はわからなかったので、要約するとそんな感じらしい。

「何か俺がしなくちゃいけない事はあるんですか?」

「あなたは特にしなくちゃいけない事はありません。しかし、周りの友達の力を借りなくちゃいけません」

櫻井さんは詳しく今回の内容を説明してくれた。

櫻井さんが言うには、力を借りるは大袈裟に言ったらしく、借りると言うより協力だった。

まず四人でお清めし、四方に御札を貼った櫻井さん宅二階の一室に入り、一晩そこで過ごすらしい。

だが俺は一言も発してはいけなく、逆に絶えずツレ達は話し続けなくてはいけないらしい。寝てもいけないらしい。

言葉には言霊があり、その部屋では芽衣子は俺の姿を認識出来ないらしく、言葉を発する者しか認識出来ないらしい。

そうする事で、意識的に俺を探し続ける芽衣子の意識から一晩時間をかけて俺を消し、俺はもういないと誤認させ、芽衣子の中の俺を消し、縁を無くしてしまおうという事だった。

雄大「つまり、俺達が絶えずに喋り続ければいいだけ?」

駿介「なら楽勝じゃね?」

櫻井さん「確かに喋り続けるだけですが、恐らく芽衣子さんから妨害はあると思います。どんな物かはわかりませんし、気を引き締めて下さい」

妨害って……

緊張しながら櫻井さん宅で早めに夕食を頂き、皆お風呂に入り体を清め、一晩を過ごす部屋に入った。

なんて事はない普通の部屋だった。

四方、天井、畳の下の御札さえ無ければ……

皆一言も喋らずに夜を待ち、指定された時間を待った。

櫻井さんが指定した時間は七時。

それまでは芽衣子を家には入れないようにするし、櫻井さんもいるようだが、七時が来たら櫻井さんは家を出て、芽衣子を家に招きいれなけばならない。

極力部外者がいる事を避け、意識を完全にそらさなければならないみたいだった。

……そして指定された七時が来た。

元々馬鹿の代表みたいな三人だったし、櫻井さんから出された普段飲めない日本酒に皆大はしゃぎ。

しかし俺は万が一を考え、酒はおろか何一つ口にしてはいけないという辛い一晩だった。

だが、相槌を打つだけでも意外と時間が経つのは早く、あっという間に十一時に差し掛かろうとしていた。

妨害も無くこのまま何事無く一晩過ぎて欲しかったのだが、そうは行かなかった……

そして時刻が十一時を回った辺りで、ついに芽衣子の妨害が始まった。

最初に聞こえたのは、廊下を歩く足音。等間隔でペタッ……ペタッという足音だった。

皆すぐに気付き一瞬静まりかえったが、絶えずという言葉を思い出し、また大声で騒ぎ始めた。

その後は、ラップ音みたいにバキッカチッと部屋中から音が鳴り始めた。

だが、そこは馬鹿三人。恐怖より負けられるかと馬鹿な考えが勝ったのか、今まで以上に騒ぎ始めた。

特に雄大の騒ぎっぷりは半端じゃなく、恐怖より頼もしさを覚えた。

そして、妨害にも負けず必死に騒ぎ続け2時に差し掛かった時に、最後の妨害が始まった。

部屋中からさっきの音とは比べられない位、まるで思い切り壁を殴りつけるようにガンガン音が鳴り出し、うがいをするようなゴロゴロの声で「アァ……アァ……ガガ」と叫んでいる。

流石に馬鹿三人もこれにはビビり、騒ぎ方も小さくなり、これはヤバイと感じ始めた。

音と声は激しさを増すばかりで一向に止まず、全員蒼白になり、ついに騒ぎが完全に沈黙した。

俺は、ああ終わったなと思い、時計を見るとすでに五時を回っていた。

堪えていた時間が思った以上に長かったらしく、日の出が上がり始め、一晩は過ぎていた。

そして櫻井さんが戻り、全て終わった事を知り、大の男たちが大声で泣き叫ぶ。

やっと終わった、と皆で安堵の瞬間を迎える事が出来たのだ。

そして最後に、櫻井さんは二度とその山には近づくなと、次は助けられないかもしれないと言い、私はそれを了解し、櫻井さん宅を後にした。

安易な気持ちで肝試しには行ってはいけないと、肝に命じる事になる事件だった。

二度と肝試しは行かない……

後日談

自分的には知らない所の話だし、正直関わりたくないし、聞いただけなので詳しくはわからない話だったが、こっちが本題(元凶)のようだ。

あの一晩から丁度一ヶ月が過ぎようとしていた。

お祓いのお金の為バイトを始め中々忙しくしていた時に、櫻井さんから急に呼び出しがあり、櫻井さん宅に行った時にこの話をされた。

「こんにちわ。すいません、お金はまだ出来てないです」

「今回は料金の事で呼んだんじゃ無いから安心していいですよ」

てっきり料金の催促かな?と思っていたが、違うみたいで安心したが、あの時の話ならもう関わりたくなかったので、嫌な気分になった。

「で、話とは何ですか?」

嫌々だが俺に関わりある話だし、注意事項なら聞いておかなければならない。

「実はあの時の芽衣子さんが、少し普通の霊とは違う理由を調べたりしてわかった事が色々あるから、一応伝えておこうと思ってね」

幽霊云々自体が元々普通じゃないと思うが……そう思ったが、黙って話しを聞いた。

「あの時はあんな言い方をしたけど、実際芽衣子さんはあなたを怨んだりしてない。むしろ好意がずっとあったと思う」

「はい?そんなはずないでしょ。あんな風に憑き纏って妨害して多分殺そうとしてたのに、好意とかあるはずないじゃないすか」

実際好意を持った相手にあんな事するとは思えなかったし、幽霊ってだけで恐怖心しかなく、あれが好意からの事だとしても無理だ。

「そう思っても仕方ないよね。あれは芽衣子さんの意思じゃなく、その裏にいる者の意思だから、元が人間かどうかすらわからない物だけどね」

幽霊だけでもあんな事無かったら信じてすらないのに、漫画みたいな話をされてもイマいちピンとこず、頭のなかでは疑問符が点滅した。

「実は、家に来た時点で芽衣子さんの意思ではないと気付いてたの……でもね、それをあなたに伝えたら、あなたは少なからず可哀相とか同情の気持ちを持つでしょ?それは、あの一晩を過ごすなら絶対に持ってはいけない気持ちだったの」

「何故駄目なんです?関係あるんですか?」

「同情心を出せばあなたは助からなかった。芽衣子さんに見つかってたから……あなたの意識を恐怖だけに満たして、芽衣子さんから意識を逸らさなければならなかったの」

自分の為だと理解し、何となくだが納得したが肝心な事を聞けてない。

「芽衣子はあの後どうなったんですか?芽衣子の意思じゃないならなんだったんです?」
「あなた達が一晩過ごしてる間、私は私の先生の所に行ったの。見てわかる通り、私は世間じゃ心霊研究家で通ってるの。私の先生も似たような感じだけど、私以上に詳しいし、長年この世界にいるから、失敗したら……の話を聞きにね」

失敗したかもしれないのかよ……そう思ったが、自分達じゃどうしようも無かったから仕方ないと思う事にした。

「あなた達が行った山だけど、色々な怪談があると思うけど、知ってる?」

「はい。カップルの幽霊だったり、婆さんの幽霊だったり、色々噂は一通り聞いてます」

結構有名な所だから、噂が絶えないような場所だった。だからか色々話しは聞いていた。

「実はそういった噂じゃない、本当にヤバイものがあの山にはいるって先生から聞いてね、多分それのせいだと聞いたの。詳しくはわからないけど、『禍垂』(カスイ)と言うらしいの」

「禍垂?」

正直ついていけなかった。そんな漫画みたいな話されても理解出来ないし、幽霊だけで精一杯だったから。

「詳しくは本当にわからないの。多分元は人間だけど、いつからいるのか、何の因果で山にいるかも何もわからないの。禍垂も見た目から先生がつけた名前だし、本当の名前もわからない」

「でも、俺と何の関係があるんですか。禍垂なんて聞いた事すらないし」

幽霊とは無縁の零感男だったし、そんなの噂すら知らなかった。

「推測だけど、芽衣子さんは禍垂に引き込まれたんだと思うの。だから芽衣子さんと縁があったあなたを、標的に選んだんじゃないかしら。
あなた『木の上の人を見た』と言ったでしょ。それが恐らく禍垂と思う。
あなたは木の上に立ってたと言ったけど、正しくは違うの。
両手だけで木に垂れ下がり、下半身がない風貌の者なの。だから禍垂……
先生は、本当に危険だって、今回は本当に運が良かったって」

あまり見えなくて本当に良かったと思った。あの状況ではっきり見えてたら発狂間違いないから。

俺は頭の整理が全くつかなかったが、聞かなければならない事を聞いた。

「芽衣子はどうなるんですか?俺は本当に大丈夫なんですか?」

櫻井さんは少し暗い表情で答えた。

「正直芽衣子さんは、ずっとあの山に禍垂に捕われたままになると思う。
禍垂を祓えれば違うかもしれないけど、禍垂はまず見つからないし、祓う方が危ないから……
あなたは恐らく大丈夫。でも決してあの山に絶対に近付いたら駄目。禍垂との縁が復縁したら、間違いなくあなたは助からないから」

俺は少しの安堵と、これから先報われる事のない芽衣子を気の毒に感じながら、櫻井さん宅を後にした。

その後は、料金の支払いが終わり、それからは櫻井さんには会わず、例の山にも決して近付いていない。

人間は好奇心が強く、興味を持ったら止まらない生き物だと思う。

だが、決して不用意に噂が立つ場所には近付いてはいけないと思う。

思いもよらない結果があるかもしれないのだから……

(了)

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