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すざく駅 r+3837

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九州地方の高校に通う島崎くん(仮名)から聞いた話。

年の瀬が迫った十二月のある夜、彼はいつものようにJR九州のK線を使って帰宅中だったという。F駅行きの電車内、スマートフォンで友人とやり取りを終えた後、文庫本を開いた。

静かすぎる車内に違和感を覚えたのは、それから間もなくのこと。周囲の乗客は皆、深い眠りに落ちているようだったが、ただの居眠りとは少し違う。首の角度や手のだらりとした落ち具合が、まるで生気を抜かれた人形のようだった。ひとりだけ目覚めている自分が異分子であるかのような孤立感に、心細さが募った。

隣の車両から一人の若い男がやってきた。年は大学生くらいだろう。彼も様子のおかしさに気づいていたらしく、「今どうなってんの? みんな抜け殻みたいじゃん」と笑いながら声をかけてきた。

ふたりは困惑しながらも会話を交わし始めた。だがその矢先、車内アナウンスが響いた。

「えっ、まもなく、◯◯駅、◯◯駅。降り口は左側です……」

聞き慣れた駅名ではなかった。どれだけ耳を凝らしても、思い当たる地名は出てこない。それでもふたりは「乗り過ごしたのかも」と苦笑しながら、駅で降りることにした。

無人駅のような荒れ果てたホームに降り立つと、そこは異様な空気に満ちていた。駅名を確かめようとホーム中央まで歩いたところ、くすんだ看板に「すざく」と、かろうじて読み取れる文字があった。

「朱雀……? そんな駅あったか……?」

ネットで検索しても見つからない。いや、西安に朱雀駅があるという情報は出てきたが、ここが日本であることは間違いない。文字もひらがなだった。

男は突然思い出したように言った。

「何かで見たんだけど、こういう駅から帰るには、燃やすんだって。何かを」

ティッシュとライターを取り出し、小さな炎を灯した。その瞬間、地面が揺れたような感覚と共に、遠くから電車の接近音が聞こえた。

やってきたのは、見覚えのある車両。ふたりは安堵して乗り込んだ。車内には、先ほどと同じような眠った乗客たちが静かに揺られている。

ふと扉が開き、ホームにふたりの姿が見えた。男と……彼自身だった。

「ここで降りちゃダメです!」

思わず声を上げたが、ふたりは無言でホームへと足を踏み出し、扉は音もなく閉まった。

あれはきっと、過去の自分たちだ、と彼は言っていた。時間が、どこかで繰り返されているのではないかと。

「……今も、あの駅に取り残されたままの自分が、いるんじゃないかと思うんです」

そう言って、彼はわずかに震えていた。

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