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短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

焼き場で焼いたはずの爺様が……【ゆっくり朗読】3400

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先輩から会社の休み時間に聞いた話。

だいぶ昔のこと、先輩の田舎のおじいさんが亡くなった時の話なんだけど。

死因はフグの中毒死。夕食に食べたフグにあたってのことだった。

その時おじいさんは家に一人だったらしく、おばあさんが家に帰って来たときにはチアノーゼっていうの?顔が紫で、息もしてなくてもうだめだっていう状態だったそうだ。

翌日に通夜で、その次の日に火葬という段取り。

当時はちゃんとした火葬場なんてなくて、山奥の焼き場に親族、知人で遺体を焼きに行く。

で、焼けたころにまた、何人かで骨を取りに行くっていう方式だったんだそうな。

焼きだしたのが結構遅かったらしく、焼ける頃にはもう日も沈むころ。

おじいさんの知人の男二人でシャベルと明かりをもって焼き場に向かう。

さあ、骨を拾おうかと思ったら、棺桶の灰ばかりで肝心の骨がない。

そんなはずがないっていうんでよく照らしてみると、灰を引きずったような跡がある。

二人はそのあとを追って進んでみた。

……おじいさんがいた。

焼き場からほど近い所の木の下で、あぐらをかいて。

全身が赤黒く焼け、半分炭化し、ところどころ骨の見えた姿で……

「俺が思うに……」

先輩が続ける。

「最初に死んだと思ったとき、じいちゃんはまだ生きてたんじゃないかな?仮死状態で、焼かれている途中に、息を吹き返しちまった」

そして焼かれながらもなんとか棺桶からはい出し、その木の下まで行ったところで力尽きた。

……想像を絶する光景だ。

当時は医学もまだ進んでおらず、ましてや田舎のこと、そういうこともあったのかもしれない。

なんにせよこのままではいけない。一人の男がもう一度焼き場に戻そうとした、その時だ、

「きいぃぃさまぁぁああ!!死んでまで人様に迷惑かけるかぁぁぁああ!!」

もう一人の男が持っていたシャベルでおじいさんの体を打ちのめした。

そして焼け場まで、蹴り倒すように運んで行ったんだ。

どうやら無くなったおじいさん、金貸しをしており、それもそのやり方がかなり悪どく、ご近所さんはおろか、近隣でも有名な人だったそうだ。

トチ狂った男も、

「これできれいさっぱり縁が切れる」

そう思って骨を拾う役を買って出たのかもしれない。

俺が怖かったのは、先輩がこの話を『休憩時間の笑い話』として話したこと。

「 なんでこの話を自分が知ってるかっていうと、
さっきの、じいちゃんを叩かなかったほうの男が、
それから何年かしてから自分が死にそうになったとき、
とうとう墓場まで持って行けず、ばあちゃんに
実はこういうことが……って話したんだってよ!

アッハハハハハハハハハハ 」

もちろん、話を聞いた俺をふくめ、誰一人愛想笑いひとつできなかった。

(了)

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