中編 洒落にならない怖い話

夢魅(ゆめみ)【ゆっくり朗読】3600

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十年近く前の話。もう高校を卒業する間近の話だ。

29 :本当にあった怖い名無し:2012/05/01(火) 08:14:57.17 ID:YSGKGk/pO

進路も決まり、進学では無く就職する事になった俺は、毎日ひまをつぶす事だけを考えていた。

そんなある日、友人から近くの山の麓にある廃寺に行こうと誘いがあった。

何度か行った事はあったが、この暇をどうにかしてくれるならとついて行く事にした。

メンバーは、シゲとシゲの彼女マキと、その友達のエミだ。

シゲの彼女とは面識はあったが、エミとは初対面だった。

意外とタイプでテンションもかなり上がり、四人でワイワイ騒ぎながら歩いて行った。

廃寺まではそう遠くなく、すぐに到着した。

何度か来た事があるとはいえ、夜の廃寺などいいもんではなく、四人とも一気に静まり返った。

「何度か来たがやっぱり雰囲気わるいよな」

「まあな。いいもんではないわな、廃寺だもんよ」

「あたしは初めてだよ、本当に何か嫌な感じだね……エミは来た事あるんだよね?」

「うん、彼氏と来た事あるよ」

なぬっ、彼氏など聞いてないぞとなり、上がっていたテンションも急降下、帰りたくなった俺は自分勝手に言った。

「もう良くね、ある程度見たし、帰ろうや」

「そうだな、結構遅いし帰るか」

と帰る準備を始めてた時に突然エミが「何か階段みたいなのがある」と言いだした。

見てみると、地下の貯蔵庫的な所に続く、階段だった。

今までは気付かなかったが、確かに階段があった。

ここでやめておけばいいのに好奇心旺盛な俺はテンションを急上昇させ、入ってみようと皆に言ったが、シゲもマキもやめた方がいいと嫌がっていた。

だがエミは「あたしは行く!!」とノリノリで、じゃあ二人で行く事となった。

シゲとマキは、もしもを考えた上で待つ事になり、懐中電灯を持ち二人で階段を降りて行った。

階段は余り長くなく、すぐに降り終わり、そこには10畳程の やはり貯蔵庫というか倉庫があり、本やら何やら、無造作に積まれてあっただけだった。

「何だ、つまんねーの、古い本とかばっかじゃん」

「本当、何かお宝的な物期待したのに」

お前は金目の物が目的かいっ!!と思いながら物色していると、一番奥に壁に直接埋められた仏壇のような物があった。

「あっ、金庫発見!!」

いやいや、仏壇じゃね……と思いながらエミを無視し 仏壇の前まで行った。

仏壇の開き中央には、何枚かお札が貼ってあってあり、これは無いわ……と触れずに行こうとすると、エミがいきなり力任せに仏壇を開いた。

お札はビリビリと破れ、埃を巻き上げながら仏壇は開かれた。

仏壇の中は何も無い?と思ったが、隅の方に腐った桐箱が置いてあった。

エミがおもむろに桐箱を取り出し、蓋を開けると、中には丸い鈍く光る玉が入っていた。

玉を見た瞬間に背筋に寒気が走り、一瞬気が遠くなるような感じがした。

エミは何とも無いのか「キレーイ、これあたしが開けたから、あたしのだからね」と嬉しそうに玉を見つめていた。

「馬鹿ッ!んな所に入ってたんだから良い物のはずないだろが早く戻せ」

「もお、怖がりだなー、タカシくんは……何とも無いって」

と笑顔でスタスタ一人で上に上がって行った。

本当に大丈夫なのか?と思ったが、何もあるわけないか!と歓楽的に考え、俺も上へ上がっていった。

上に上がった瞬間、シゲとマキから声を合わせたように「遅い!!!」と言われ、思った以上に長い時間下にいたらしく、時刻は二時を過ぎようとしていた。

流石にヤバイと思い大急ぎで四人とも帰り、その時は帰る事だけを考え、玉の存在など忘れていた。

そしてまた暇に追われる毎日に戻り、丁度一週間が過ぎようという時

またシゲから連絡が来て、この前のメンバーで家で飲もうということに。

シゲの家に行くとすでに俺以外は集まっていて、すでに飲み始めている最中だった。

「おーっ!お疲れ、遅かったじゃん」

「久しぶりって、一週間ぐらいか」

「タカシくんお疲れー、一週間ぶりだねー」

一瞬エミと気付きませんでした。

一週間でこれほど変わるものかという位変わっていた。

ナチュラルな化粧は、厚くこい目に、黒ロングの綺麗な髪は、ギャルみたいに盛られていた。

「エミかっ!?めちゃくちゃ変わったな」

「まあねー」

エミは元々テンション高い感じでだったが前以上にテンションとノリが上がっていた。

「何だよ、良い事あったのかよ、えらい上機嫌じゃん」

「良い事って言えば良い事かも」

と含み笑いをしているエミに少し不気味さを覚えた。

そして四人で飲み始め、就職や進学、たわいのない話を飲みながら話した。

「シゲは家業を継ぐんだよな?マキやエミはどうすんの?」

シゲは実家がお雛様や子供用の刀や鎧などを扱う老舗の店をしている。

「俺は地元の大学に行くよ、シゲの家の手伝いしながらね」

シゲもマキも高一から付き合ってて、ずっと結婚するとか言ってるバカップルだ、当たり前の返事が返ってきた。

「あたしはねーしたい事があり過ぎてまだわかんないんだ、でもね、何しても上手く行く気がするから大丈夫だよ」

その時はエミの返答は自信家なんだな、と思えるくらいのものだった。

だがずっと話して行く内にエミの言葉全てに違和感を覚え始めた。

エミの言葉には自信が満ち溢れてる。

いや、異常なまでに自信 過剰なのだ。

自信があるのは悪い事では無いが 行き過ぎてる気もしてるな と考えた時にあの《玉》の事を思い出した。

「そういやエミ、あの時の《玉》どうしたんだよ?しっかり返したのか?」

「何だよ《玉》って?」

「いや廃寺の地下に降りた時にエミが持って帰っちゃったんだよ、お札とかあったから、良い物じゃないだろ?」

「お札!?何を持って帰ってきてるんだよ、エミ、それどうしたんだよ?」

「金庫開けたのあたしだしあれ、あたしのだよ、今も持ってるし」

そう言って鞄から《玉》を取り出した。

気のせいか《玉》は前と輝きかたが違って見え、前以上に気が遠退く感じがした。

「何だよ、それ?普通じゃなくね?一瞬気分悪くなったし」

どうやらシゲも俺と同じ感覚を感じたようだった。

「そんな事ないよ、逆にこれ持って帰った日から、いい夢ばかり見るし、良い事ばっかだよ」

話しを詳しく聞くと、《玉》を持ち帰った日から、毎日小さな頃から持っていた様々な夢が叶う夢だけを見るようになり、学校の成績、評価も上がり、雑誌に送った自分が書いたものが載ったりと、色々良い事ばかり起こるらしい 。

なるほど、エミの自信はここからかと思った、だから今までの地味な格好も変え、過剰なまでに自信に満ち溢れてたんだなって。

「ちょっと見せてみろよ、良い事悪い事抜きにしても、普通じゃないだろ?」

そういってエミから《玉》を取って観察し始めた。

「石や金属じゃないな……表面に塗ってあるのは、恐らく漆だ、ただそれだけじゃないな、何か混ぜてある」

家業の関係上、漆など詳しいシゲはまじまじと《玉》を観察していた。

「駄目だ、俺じゃわかんねー、親父に見せたらわかるかもしれないけど」

そう言って《玉》をエミに返した。

その後もしばらく話しながら飲み、そろそろ遅くなったし解散となり、帰ろうとしてる間際に玄関でシゲが言った。

「エミ!!良い事ばかりかもしれないけど普通じゃない事はわかってんだから、すぐに戻せよ」

「大丈夫だって、あたしが成功したら皆にこれを貸したげるから」

そう笑顔でおどけて見せた。

それがエミの見せる最後の笑顔となった。

それからは《玉》の事もすっかり忘れ、普通の生活に戻っていた。

二週間程たって、夜、ヒマ過ぎたので散歩がてら、コンビニに行く途中、マキと会った。

「おすっ!今日は珍しく一人?また喧嘩したのか?」

「フゥー、皆いつも一緒にいるとしか思ってないね、まあいいけどさ、そういや最近エミに会った?」

「いや、飲んだ日以来見てもないけど、どうかした?」

「ここ一週間程前から連絡取れないんだ、学校も来てないし、心配しててさ」

「そっか、病気してんのかもしれないし、今度三人でエミの家に行ってみるか、シゲに伝えといて」

そう言ってコンビニに向かった。

コンビニで買い物を済ませ、帰る途中ふとあの《玉》を思い出した。

あんな変な《玉》誰が何の為に作ったんだろ、親父にでも聞いてみるか……

そう思い、自宅に着いた俺は親父に聞いてみた。

「親父、山の麓の廃寺とか知ってる?」

「知ってるが、何かあったのか?」

「いや、最近友達が変な《玉》見つけてさ、良い事ばかり起きるって、少し変でさ」

「知らんなー、俺が小さい頃にはすでに廃寺だったし、気になるならシゲの祖父ちゃんにでも聞いてみろ、わかるかもな」

まあ次にシゲんちに行った時にでも聞いてみるか、そう思った時にシゲから電話があった。

「本当にヤバイ、すぐに俺ん家来てくれ、バタバタな」

それだけを言いシゲは電話を切った。

凄い剣幕だったので、本当にヤバイ!何かあったと自転車に乗りすぐにシゲの家に向かった。

シゲの家は結構近いので五分程で着き、外で待機してたシゲとマキに何があったか聞いた。

「なんだよヤバイって、まさか妊娠した何て事じゃねーよな?」

「ふざけてる場合じゃねーよ、エミが持ってた《玉》あれは絶対良い物じゃない」

意味がわからず聞いてた俺にシゲは

「説明は後でするから、とにかくエミの家に急ぐぞ」

と三人自転車でエミの家へ向かった。

道中ある程度の話は聞いた。

やはりシゲもマキからエミの状態を聞き《玉》の事が気になり、祖父ちゃんなら知ってるかもと聞いてみたそうだ。

「祖父ちゃん、廃寺知ってるだろ、何か変な《玉》見つけたんだけど、何か知ってる?」

「廃寺……山の麓のか!?何であんな所に行った!!?《玉》はどうした?今も持ってるのか!?」

いつも面白い祖父ちゃんからは考えられない真剣な表情だったそうだ。

「俺が持ってるんじゃないよ、友達が……」

言いかけた瞬間「すぐに持って来い」と言われ、俺に連絡したという事だった。

あの祖父ちゃんが、と俺も同じ気持ちになり 無言でひたすらエミの家まで自転車を走らせた。

エミの家に到着すると、同時に家から何かが割れる音と、女性の叫び声が聞こえた。

これは本当にヤバイんじゃないかと玄関へ急ぎ、チャイムを鳴らしたが返答は無く、鍵は開いていたので緊急という事で勝手に上がり、エミの部屋に向かった。

ドアを開けた瞬間、心臓が止まるかと思った。

エミの家族は全員エミの部屋にいた。

その中心には、髪を振り乱し、ブツブツ何か喋り、左手に刃物を持つエミの姿があった……

その姿に、元のエミの面影はなかった。

余りの状況に三人共微動だに出来ず立ちすくんでた。

そんな時にエミの姉が

「何してんのよ、あんた、本当にお願いだから、そんなの渡して」

そう言い近寄ろうとした瞬間、エミが凄い勢いで叫びながら刃物を振り回した。

幸いエミの姉には当たらなかったものの、そんな状況で迂闊に近づけない。

俺達三人は言葉で訴えかけた。

「何してんだよ、あぶねーだろ、何があったんだよ!?」

「エミ、お願いだから、そんなの置いてはなそう?」

俺達三人はエミを諭すように話しかけたが、エミはまるで聞いてないみたいに俯き、ブツブツ独り言を言っていた。

よく聞くとエミは「あたしには何も無いどうしようも無い」とただ呟いているようだった。

誰も身動きが取れず緊迫した状況だったが、遂にエミが行動し始めた。

エミはまるで男のような叫び声で自分の右腕を刺し始めたのだ。

皆唖然とし、場がまるで凍りついたように静まりかえった。

だが、次の瞬間にはマキの悲鳴と共にエミの家族全員でエミを取り押さえにかかった。

でもエミは家族など全く意にかえさず「こんなの意味ない、いらない」と何度も自分の右腕を刺し続けた。

俺は余りの状況の異様さ異常さに体が固まったように動けなかった……

だが、そうしてる間もエミは自分を刺し続け、部屋を自分の血で染めていた。

余りにも夥しい光景に現実感を持てない俺は、顔面蒼白になりながら、ただただ、たちすくむだけだった。

まともな思考も出来ず、助けを求めるようにシゲ達を見ると、シゲもマキも、エミの家族といっしょにエミを取り押さえていた。

それに感化され「これは今現在、現実に起きてる」

そう頭が認識し現実を取り戻したのか、自然と俺も取り押さえに加わわった。

エミはこんな細い体のどこにこんな力があるのかと思わんばかりの凄い力で振りほどこうと暴れていた。

皆必死にエミを取り押さえ続け数分程経ち、やっと振りほどくのをやめたかと思えた瞬間、囁くような声で「いらない、あたしなんていらない」と呟き、自分の顔を数度深く切りつけた後に、腹部を深く刺した……

エミ姉は泣き叫びながらエミの横で座り込み、エミ母は血だらけになりながら必死に腹部を抑え、エミ父は救急車を呼んでいた。

エミの腕は皮だけで繋がってるかのようにぶら下がり、顔は確実に傷が残るだろうと思える位深く、腹部からは夥しい程の量の出血で、部屋は正に地獄絵図のようだった。

俺達三人は何も出来ず震えたちすくむ中、救急車は到着し、近所からの通報もあり警察も来ていた。

エミは救急車に搬送され、家族は付き添いとし全員着いていき、俺達は事情を聞く為に警察署に行った。

事情聴取という程のものではなく、簡単な質問をされ、最近のエミの様子はどんなものだったか等の近況を話し、すぐに帰される事になった。

未成年という事で、三人共保護者を呼ばれ、俺は親父、マキは母親、シゲは祖父ちゃんが迎えにきてくれ、警察署を出た時だった。

シゲが俺の方に来て、ポケットから件の《玉》を取り出し俺に見せ「明日、俺ん家に来てくれ」とだけ言い、祖父ちゃんと帰って行った。

親父には色々聞かれたが、適当に返答しながら家路に着き、今だに現実、非現実とも思えないような感覚を感じながら、その晩は眠れず、気がつくと朝を迎えていた。

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俺は顔を洗い、気を引き締め、全てを聞く為にシゲの家へ向かった。

丁度シゲの家の前でマキと鉢合わせた。

「おす、マキも早いな、仕方ねーか昨日があんなだったし」

「うん、全然寝れなかったから」

やはりマキも寝れなかったみたいだ、あんな事があった後だから無理は無いと思った。

「エミの様子とか聞いたか?」

「ううん、朝一番に病院に行ってみたけど、面会謝絶だったし、皆聞ける様子じゃなかったから……」

「そっか……」

二人で話していると家の裏の工場からシゲと祖父ちゃんが出てきて、俺達に気付きこちらにやって来た。

「二人共早いな。もう来てたのか、まあ上がれよ」

そう言ったシゲの左頬は心なしか赤く腫れていた。

シゲの家へ上げてもらったが案内されたのはシゲの部屋じゃなく祖父ちゃんの部屋だった。

「祖父ちゃん今風呂入ってるから少し待っててくれ、飲み物持ってくるから」

そう行って部屋を出て行き、二人部屋に残された。

昨日帰り際シゲが《玉》を持っていた事である程度予想はしていた。

シゲは何かわかっててエミの家に行った事を、シゲは祖父ちゃんから何か聞いていたが、俺達には話さず、もしくは話せなかった事があると。

俺は張り詰めた緊張感の中に少しの懐疑心を持ち、二人を待った。

五分程経ちシゲと祖父ちゃんは二人揃って部屋に来た。

「おおっ、久しぶりだな、元気してたか?」

「久しぶりって、最後に会ってから一ヶ月も経ってないけどね」

祖父ちゃんは「そうだったか?」と笑いながら座布団に座った。

「さて、話す前に……」と言いながら立ち上がり、俺とマキにゲンコツした。

「いっ、いたああ」

「何すんだよ、いきなり、本気だっただろ今!?」

「その位で済んで良かったと思え!!一歩間違えたらエミという娘みたいになってたかもしれなかったんだぞ」

そう言われ俺達は黙るしかなかった。

少しの沈黙が流れたが、シゲが沈黙を破った。

「俺達が悪い事したのはわかってる、でも俺もマキもアレがどんな物かもわかってないんだ、説明してやってくれないか、二人も一応当事者だしな」

祖父は溜息をつきながら静かに話し出した。

あの《玉》が出来たのは昔、正確な年などはわからないらしいが相当古くから在るものらしい。

昔、まだ睡眠中に見る夢などのメカニズムなど解明される以前の時代に、宗介という青年が、夢を説きあかそうとしていたそうだ。

夢には本人が知りえない人物や物が出たり、それらが実在したりする時もある。

夢には隠された力があり、隠された力があるなら人の為に役立てたいと、様々な人の夢の話を聞きながら町から町にと流れていた。

流れる旅の中、宗介は、とある集落に辿り着き、いつものように人々から夢についての話を聞き回っていた。

集落の人達から話を聞いて数日が経ったある日、その集落の長の使いという人物が現れた。

是非あなたの話を伺いたいという誘いの話だった。

宗介はそれに了解し、長の屋敷に行き、長と話をしていた。

どうやら長の一人娘が毎晩悪夢ばかりを見てろくに睡眠も取れてない、それをどうにか出来ないかという話だった。

宗介は今まで自分が得た知識で人助けになるならと、今でいうセラピーみたいな事を施し、数日後には娘は悪夢など全く見なくなり、長は大変喜び、宗介を気にいったようだった。

集落の者を使い、宗介の為の家をこさえ、宗介にここに住んでもらいたいとの事だった。

宗介は悩んだが集落の人達の暖かい歓迎を受け、それに承諾し、集落の一員となった。

元々の人柄もあり、宗介は集落の人達から人望を集めていた、一人娘もセラピー以来宗介に心を開いており、長もいずれは娘の婿として迎え、この集落をまとめてもらいたいと考えていた。

だが、それを気にいらない人物がいた。

長の使いで使用人の男だった、元々野心家で使用人になったのも、一人娘を自分の物とし、いずれは自分が集落の長になるつもりだった。

だから、宗介の存在がどうしようもなく疎ましかった。

その為どうにか出来ないかと考えていたある日、他の使用人が一人娘の話をしているのを偶然聞き、それを利用しようと考えた。

一人娘は毎晩、色欲の夢ばかり見るという話だった。

完全な箱入り娘だった為、使用人以外の男と会話すらした事なく、年齢的にも考えておかしくはない歳だった。

普通に考えて娘は宗介に好意があったのは間違いない。

決して悪い事ではない、だがそれも言い方一つで悪いほうに、向かわせられる。

使用人は長にこう話した。

「最近一人娘が色欲の夢ばかり見るのは、長の地位目当てに一人娘を自分の物にする為に、宗介が仕組んだ事だ。最初からこのつもりで、近付いた事だ」と。

長は憤慨した。

そんな事しなくてもいずれは長の地位を継がせるつもりなのに、そんな形で今までの信頼を裏切るなんて、絶対許せる事ではない。

長は宗介を呼び出し宗介を責め立てた。

宗介は身に覚えがないと訴えたが、まるで聞き耳を持たなかった。

密告人は長年付き従った使用人、それに加え、夢を操れる人物など宗介以外に考えられなかったからだ。

長は宗介に二週間の猶予を与え、その間に夢をやめさせないとただではおかないと言った。

宗介はどうにかしようとあらゆる手を尽くしたが、全て逆効果だった。

何せ娘からしたら慕っている人物が目の前にいるのだ、夢は止む所か膨らむばかりだった。

その間に使用人は集落の人々にも宗介の話をし、ある事無い事を言い回し、宗介の人望を消し去った。

今まで暖かかった人達は嘘みたいに冷たく、宗介を避け、宗介は孤立した。

今までは周りの人の手伝いなどをし食料分けてもらっていたがそれすらも無くなった。

宗介は絶望した、今までの周りの人々の信頼関係は崩れさり、食う物も無く、宗介はひたすら追い込まれ、ついには狂った……

狂人と化した宗介は悍ましい事を考えた、夢は頭の中で見るもの、ならば頭の中を直接見ればいいと。

普通に考えればまるで意味の無い事だが、狂った宗介にはそう考える自体に意味が無かった、ただひたすら夢だけを考え追い求めた。

旅人を襲い、狩りに出た集落の人を襲い、頭を割り、脳を取り出し、家で食い入るように見続けた。

そして十日が過ぎようとしたある日。

変わり果てた宗介が屋敷に現れ、一つの《玉》を差し出した。

これがあれば色夢など消え、更に良い夢をだけを見れると言い残し宗介は去っていった。

宗介の言い残した通り娘に《玉》を持たせると、色夢などあっさり無くなり、自分に取って都合の良い夢ばかり見るようになった。

これを良しとし、宗介を許し、全てが丸く収まったように思えたが、もちろんそれでは済まなかった。

一週間も経たない内に事は起こった。

エミのように一人娘は自分の体を傷付け自害したのだった。

その異様さに長は宗介が渡した《玉》が原因と思い探したが《玉》は一向に見付からなかった。

宗介も集落から姿を消し、一向に行方は掴めなかった。

そして本当の悪夢が集落を襲った。

集落全体《玉》が見せる夢が感染し始めた。

皆一様に都合のよい夢を見て、ある程度の期間が来たら一人娘のように体を切り刻み自害した。

長は畏れた、これは宗介が起こした呪いだと……

呪い等に全く知識の無い人々は夢を畏れ、次は自分かもしれないと夢を見る事を避けるように眠れない 日々を過ごした。

その異様さに長は宗介が渡した《玉》が原因と思い探したが《玉》は一向に見付からなかった。

そんなある日、集落に旅の僧侶がこつじきに来たが、集落の状況を察知し、長の屋敷に訪れた。

長から事情を聞き、恐らく《玉》を見つけどうにかしない限り、この状況を切り開く術はないと告げた。

僧侶は長と集落の者数人を引き連れ、宗介の家へ向かった。

宗介の家は一度調べたと言ったが、間違いなく《玉》は家にあると僧侶は言い、宗介の家を調べた。

やはり何もないと思われたが、僧侶は床下を掘ってくれと言い、集落の人、数人で床下を掘った結果、大事そうに四つの《玉》を抱える腐乱した宗介の死体が見つかったのだった。

僧侶は禍々しく光る《玉》を見た瞬間に吐き気を抑えるように口を抑え、皆にこう伝えた。

僧侶の友人の人形技師に至急来るように伝えてくれと、それまでこの家に誰も近付けてはいけないと。

そして数日が経った晩に、人形技師が集落に訪れ、僧侶と話し、宗介の家に入って行った。

明くる日の朝二人は家から出てきた、四つの桐箱と共に。

そして僧侶は宗介の家で行われた事を《玉》がどのように作られたかを長達に話した。

それは悍ましい所業だった。

人の脳を凝縮し、人骨の灰と血を混ぜ凝縮した脳に塗り固め、漆に、宗介本人の血を混ぜ、一塗りする度に自分の体に傷を付けて行った。

一塗り一塗りに最上級の憎悪を込めて、決して憎悪を減らさないように体を傷付けてまで、そうして《玉》は完成した。

僧侶は「夢魅」と言う外法だと言い、どこで宗介が知ったかはわからないがとても危険な邪法との事だった。

この「夢魅」にも完成度と決まりが有り、完成度は見た目の輝きで、決まりは必ず四つ作る事だった。

低い順からの玉、「肆の玉」「参の玉」「弐の玉」

そして最密度、最高完成度の者を「壱なる玉」という。

僧侶と人形技師は直接呪いのかけられた集落の者ではない為、「壱なる玉」と「弐の玉」は影響が強すぎる為、持てないとの事だった。

僧侶は札を貼った二つの桐箱を渡し、絶対に人目につかない場所に保管し絶対に開かない事を約束させ、僧侶と人形技師は「肆の玉」「参の玉」を持ち、集落を去った。

僧侶は故郷に帰り寺に地下を作り、人形技師は倉に地下をそれぞれ作り、決して出さないように隠し、生涯封印してきたのだった。

俺はそこまで聞き終わり一息ついた。

一気に話された事を頭の中で整理し、自分自身でわかった事をわからない事を祖父ちゃんに聞いた。

「つまり、あの廃寺が僧侶の寺で、地下が《夢魅》を隠した場所だったわけだろ?なら人形技師の倉も近くなのか?」

「ああ近くだ、っていうかその人形技師が俺の何代も前の先祖ってわけだな」

「えぇっそうなの?てか言えよ」

「お前に言ってどうにかなるか?」

シゲは拗ねたように黙りこんだ。

「あの離れの倉が例の倉だ、しっかり毎年鍵を変えて補強してるから安心しろ」

「あの寺も廃寺になる時に坊主にしっかり管理して、持って行けと言った。だがな、怖くなったんだろうな……」

何故か、自分自身の不始末のように、祖父ちゃんは暗い表情だった。

「てか、廃寺の「夢魅」はどうなるんだ?祖父ちゃんが二つ持つのか?」

「いや、二つ同じ所には保管出来ないし、今は桐箱を作り直してお札を貼ってるし、知り合いの住職に頼んであるから心配いらんぞ」

皆、安心して一息ついた所でずっと黙ってたマキが口を開いた。

「あの、エミは……命が助かったら元に戻るんですよね?」

「いや、気の毒だが、命が助かってもどうにもならんな、あれから逃れたことは聞いた事がない」

「そう……ですか……」

マキはそう言って小さく泣いていた。

エミはその三日後、病院で息を引き取った……

祖父ちゃんが、エミの葬式後に言った。

「エミちゃんは本当に気の毒だったが、お前達は生きてる、エミちゃんの分まで精一杯生きる事が最大の供養になる」

その言葉を胸に、今日も全力で生きている。

(了)

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