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中編 r+ 洒落にならない怖い話

アシュラさんが眠る海 r+5,003

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今年の三月の終わりだったと思う。

いつものように洒落怖まとめサイトを開いて、ランキングの新しい投稿を読み漁っていた。薄暗い部屋で、パソコンの画面だけが青白く光っている。家には俺と伯父しかいなかった。両親は旅行で不在、静かな夜だった。

伯父は、俺の父の兄だ。普段は物腰柔らかで冗談好きなのに、その夜は妙に神妙な顔をしていた。俺がランキングを下へスクロールしていると、伯父の声が突然、短く割り込んだ。

「ちょっと、とめて」

指示された箇所にカーソルを合わせると、そこには「リョウメンスクナ」というスレッドがあった。軽い気持ちでクリックすると、伯父の表情がさっと硬くなるのを見た。

「これ、ちょっと読んでみてくれ」

冗談半分の気分で読み上げようとしたが、伯父の横顔は冗談を許さないような険しさに満ちていた。唇を噛みしめ、目を細め、真剣そのものの顔。十数分ほども黙って読みふけっていた伯父が、ようやく深く吐息をもらして口を開いた。

「似てる……」

「え? 何に?」

思わず問い返した俺に、伯父は少し間を置いてから、低い声で続けた。

「孝明と良子さん(俺の両親)は今日、旅行で帰ってこないんだろ」

「……ああ」

「なら、酒でも飲みながら話そうか。二人がいたら、こういう話は嫌がるからな」

そう言うと、伯父は冷蔵庫を勝手に開けて、瓶ビールとチーズを持ち出してきた。グラスに注がれた泡のはじける音がやけに大きく響いた。


伯父の実家は神社だ。子どもの頃から何度も耳にしていた話だが、その夜は初めて、その裏側の事情を聞かされた。

地鎮祭などで土地を祓う際、まれに古い骨や死体が出てくることがあるという。特に厄介なのは、古代の遺骨や即身仏のようなものだと伯父は言った。そうした場合には、神社ごとに伝わる特別な作法で祓う必要があるらしい。

「俺の親父が体験した話だ」

伯父の声は、やけに湿り気を帯びていた。

終戦から間もない頃、とある豪商から呼び出しがあった。整地工事の最中に、妙なものが見つかったというのだ。豪商の蔵へ案内された伯父の父は、そこで木箱の中身を見た瞬間に叫んだという。

「アシュラさんやないか!!」

棺桶ほどの木箱の中に横たわっていたのは、干からびた人型のミイラだった。ただし、普通の人間ではない。頭の両側に、別の人間の首が縫い付けられていた。さらに胴の両脇には、切断された腕が四本、異様に縫い合わされていた。

想像するだけで吐き気が込み上げた。俺はグラスを握る手に力が入った。

「親父は激怒したそうだ。『見世物にする』と豪商が言い出したからな。結局、大金を払ってでも引き取った」

伯父はそこまで言うと、ビールをあおって一息ついた。


なぜ、そんなものが造られたのか。伯父の説明によれば、その背後には「天魁教」と呼ばれる小さなカルト教団があったらしい。朝鮮半島から来た在日朝鮮人の金成羅という人物が率いており、信者を騙しては金を巻き上げ、怪しげな呪法を弄んでいた。

「経典には、人工的に即身仏を作り、呪具とする方法が書かれていたそうだ」

伯父は苦々しげに言った。自分の妹――つまり俺の伯母にあたる人が、その教団に入信しかけたこともあったらしい。家族を取り戻すために金成羅とも関わらざるを得なかった。その時に知ったのだ、と。

「リョウメンスクナやアシュラさんのようなものは、正気の沙汰じゃない。生命を冒涜した呪いの産物だ」

伯父の声は次第に低く沈み、俺の背筋に冷たい汗が滲んだ。


「で、そのアシュラさんは今どうなってるの?」

思わず問いかけると、伯父は苦笑いを浮かべた。

「親父は『朝鮮近海に沈めてやる』と叫んでな。結局、知り合いの漁師に頼んで船に積んだが、その船ごと沈んでしまったらしい」

約五十年前、K州の西方沖。そこで消息を絶ったという。

「それっきりだ。だがな……」

伯父は一瞬言葉を切り、俺をじっと見つめた。

「去年の春、K州西方沖で大地震があっただろう。F県を中心に大きな被害を出した」

俺はうなずいた。あの時、家中の本棚やCDラックが倒れて散乱したのを思い出した。

「さらに最近は、高速船がクジラのようなものにぶつかる事故が頻発してる。怪我人も出ている。だが、不自然に数が多すぎると思わないか?」

「まさか……」

乾いた笑いが漏れた。

「アシュラさんが沈んでいるあの海域と、何か関係があるのかもしれん。……いや、考えすぎかもしれないな」

伯父はグラスの底を見つめながら言った。


話はさらに広がった。天津神と国津神、日本と朝鮮半島との長い怨恨。歴史に繰り返し現れる争いの影。伯父の声は淡々としていたが、どこか遠い響きを帯びていた。

俺は酔いが回り、ぼんやりとその話を聞いていた。気づけば外は深夜。時計の針がいつの間にか午前二時を指していた。

「……今日はこの辺にしとくか」

伯父はそう言い、グラスに残った泡を飲み干した。


翌朝、伯父はいつもの温和な顔に戻っていた。昨夜の話が夢だったのかと思うほどだ。ただ、一つだけ忘れられないことがある。伯父が帰り際に、俺の肩を軽く叩いて言った一言だ。

「お前もネットでそういう話を読むのはいいが……あのスレッドのことは、二度と口にしない方がいい」

真剣な目だった。

その日からしばらくの間、俺はパソコンを開くたびに背後を振り返る癖がついてしまった。
夜中の静寂の中、時折、海の底から響いてくるような鈍い音が耳に残る。まるで、何か巨大なものが軋みながら動いているような――そんな幻聴だ。

伯父の言葉が、本当だったのかどうか、確かめる術はない。だが、K州の海で次に「何か」が起きるなら、その時こそ真実が浮かび上がるのだろう。
それまで、俺は決して「リョウメンスクナ」という文字を検索しないと決めている。

(了)

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