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畳石にいたもの rw+6,383

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文政十二年六月八日。

遠野南部藩の命によって、この町で大規模な山狩りが行われた。

指揮を執ったのは猟師の館野武石衛門。武士だけでなく町人や百姓まで動員され、山という山を囲む異例の規模だった。目的は一つとされていたが、何を狩るのかは、人によって言い方が違った。

「逃げた狂人だ」と言う者もいれば、「鬼だ」と断言する者もいた。

きっかけは、城下の武士が一人、突然正気を失い、刀を振るって人を斬った事件だという。閉門を命じられたのち姿を消し、以後、山に近い里で人が襲われるようになった。だが、その姿をはっきり見た者は少なく、証言は食い違っていた。

背が異様に高かったという話。
夜目にも目が光っていたという話。
人の声とも獣の声ともつかない叫びを聞いたという話。

山狩り当日、陣が沢の畳石に「それ」がいるという報せが入った。
武石衛門が向かうと、巨石の上に人影があった。

髪が長かったのか、頭巾をかぶっていたのか。
着物だったのか、獣の皮だったのか。
距離があったため、誰も断言できなかった。

ただ、口元が何かを噛んで動いていたのは確かだと言う者がいた。
蛇だったという話も、あとになってから出てきた。

武石衛門は火縄銃を構えた。
声をかけたという話と、何も言わず撃ったという話が残っている。

発砲の直前、「誰か、無礼な」と聞こえたという者がいる。
だが、その場にいた全員が聞いたわけではない。

銃声のあと、人影は石から落ちた。

近づいた者の証言も一致しない。
異様な大男だったという話。
いや、普通の武士にしか見えなかったという話。
顔を見た者はいない、あるいは思い出せないという話。

遺体は正式な扱いを受けず、山の麓に埋められた。
墓碑が建てられたのは後年で、最初から文字が読めなかったとも言われている。

念仏塔が建ち、車輪を回して供養するようになった理由も、人によって違う。
鬼だったからとも、罪人だったからとも、気味が悪かったからとも。

今でも盆になると供養は続いている。
墓の場所を正確に言える者は少ない。
碑の文字は、誰が読んだのかもはや分からない。

山狩りで何が討たれたのか。
それが本当に人だったのか。

この町では、今も決まった言い方をする者はいない。
ただ、「あの日から」という言い回しだけが、古い話の中に残っている。

(了)

[出典:http://anchorage.2ch.net/test/read.cgi/occult/1258346613/]

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