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別れた女 r+3235

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五年間付き合った女性がいた。

彼女との時間は、長いようでいて一瞬のようにも感じる奇妙なものだった。四年目を迎える頃から、彼女は結婚について話し始めた。当初、将来結婚するという約束はしていたが、現実がそれを阻んでいた。当時の自分は大学を卒業したばかりの就職難民で、自分一人の未来すら見通せない状態だった。そんな状況で家庭を持つ自信など到底なかった。

彼女は「自分も働くから」と支えようとしてくれた。しかし、自分の中の男としての意地が、それを受け入れさせなかった。彼女と将来の子供を、自分ひとりの力で養えるようになるまでは結婚できない。その気持ちを伝えたが、意見の食い違いは埋まらなかった。結局、「愛しているから結婚したい」と願う彼女と、「護りたいから待ってほしい」と言う自分の言葉が交錯し、皮肉にもそのすれ違いが別れを招いた。最後の喧嘩では互いに罵り合い、彼女は「二度と顔も見たくない」と捨て台詞を残して去った。

半年ほど経ったある日、彼女から電話があった。泣きながら「やり直したい」「愛している」と懇願する声が聞こえた。しかし、最後の喧嘩で自分の中の愛情はすっかり冷めていた。「寄りを戻すつもりはない」とだけ伝えて電話を切った。その後も彼女からの着信が続いた。会いたいと言われても拒否した。

彼女の執念は次第にエスカレートしていった。電話は鳴り止まず、ついにはクッションの下に携帯を隠して無視を決め込むようになった。それでも着信履歴は増え続け、30件を超えた頃、とうとう出る決心をした。しかし、受話ボタンを押した瞬間に耳をつんざくような絶叫が響いた。「なんで出ないのよ!」という彼女の怒りに、一瞬で気力を奪われた自分は、怒りを鎮めようと嘘をついてしまった。「携帯を忘れて外出していた」と告げると、彼女は笑い出した。そして、「そこから自販機が見えるよね」と言われて外を確認すると、自販機の前に彼女が立っていた。涙を流しながら笑うその表情は、五年間で一度も見たことのない恐ろしいものだった。

その夜、一睡もできなかった。朝になり、彼女の姿が見えなくなって安心した矢先、窓の向かいの路地で彼女が自分を見上げて微笑んでいるのに気付いた。「おはよう」と口が動いたのを見て、勢いよくカーテンを閉じた。彼女はその後も動かず、見上げ続けていた。

四日目の夜、彼女の姿は消えていた。しかし、ドアの新聞受けが奇妙に開いているのを見つけた。さらに、新聞受けから伸びる赤い筋を目にした時、恐怖は頂点に達した。そこには彼女が自らの指を食いちぎって投げ入れていたという形跡が残っていた。

警察を呼び、彼女は救急車で運ばれた。その後、自分は部屋を引き払い、新しい住居へと移った。しかし、その後も生活は平穏ではなかった。彼女が亡くなったと風の便りで聞いた時、安堵の気持ちが胸を占めた。だが、それが終わりではなかった。

新しい恋人ができると、扉の向こうから「カタン、ぽとん」という音が聞こえ始めた。誰もいないはずの玄関から繰り返されるその音は、自分が恋人と別れると止まり、再び新たな恋を始めると戻ってくる。

今では恋人を作ることを諦めている。結婚もできないだろう。厳密には、彼女がずっと扉の向こうで自分を小さくし続けているからだ。彼女は今もそこにいる。永遠に。

[出典:800:別れた女1:2007/03/29(木)02:39:45ID:1w4PBrF30]

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