ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 怪談 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

続きを預けた夜 rw+4,919

更新日:

Sponsord Link

母は、あの夜のことを語るときだけ、決まって声を落とした。

村外れの山道に、朽ちかけた寺があった。昼でも人が寄りつかない場所で、夜になればなおさらだ。そこでは丑の刻参りが行われているという噂が、子供たちの間でも半ば常識のように囁かれていた。藁人形に呪う相手の髪や爪を織り込み、五寸釘で打ちつける。見られれば呪いは返る。返らぬようにするには、見た者を消すしかない。誰も本気では信じていない顔をしながら、その掟だけは妙に具体的に語られていた。

夏祭りの帰り道だった。母は友人と二人、自転車を押しながら暗い林道を下っていた。山の上へ分かれる細い道の前で、友人が足を止めた。

「今、聞こえなかった?」

カコン、と乾いた音がした。間を置いて、またカコン。

祭りの高揚がまだ身体に残っていた。怖いもの見たさというより、噂の正体を確かめたいという気持ちが勝ったのだという。二人は自転車を道端に置き、音のする方へと歩き出した。

石段を上りきると、境内の中央に立つ大木の前に、白い影があった。女だった。長い髪を垂らし、無言で木槌を振り上げている。打ち込まれた釘の頭が、月明かりに鈍く光る。カコン。闇が震える。カコン。木の内部へ何かが沈み込んでいく音だった。

母は、その場で息を止めた。見てはいけないものを見たと、理屈ではなく身体が理解した。

後ずさろうとした瞬間、砂利が鳴った。

女の動きが止まる。

ゆっくりと、首だけがこちらを向いた。

「……見たのか」

声は低く、怒りでも恨みでもない。ただ事実を確かめる調子だった。

母は友人の袖を掴み、石段を駆け下りた。背後から追ってくる足音はなかった。それでも、振り返ることはできなかった。追われているのではなく、見られている気がしたという。

分かれ道に戻ると、自転車の横に駐在が立っていた。

「この自転車、きみたちのかい?」

あまりに日常的な声だった。母は駐在の腕にしがみつき、何かを必死に訴えたが、うまく言葉にならなかったらしい。駐在は苦笑しながら二人を村まで送った。

その夜、母は高熱を出した。三日間、うなされ続けたという。夢の中で、誰かが木を叩く音が止まなかった。

それから何十年も経ち、問題の大木は枯死した。倒木の危険があるとして切り倒された。幹を割った作業員が、妙な顔をしていたと聞く。

内部に、釘が何層にも打ち込まれていた。

外から見える数本ではなかった。古いもの、新しいもの、深く沈み込んだもの。木の芯に近い部分にまで、びっしりと。

誰が、いつ、どれだけ打ち続けたのかはわからない。

ただ母は、その話を聞いたとき、ぽつりと言った。

「あの夜、わたしたちは逃げたんじゃない。あの人に、続きを預けてしまっただけかもしれないね」

それ以降、母は山の方を見ない。

そして私は、あの木が切られたあとも、夜になるとどこかでカコンという音が続いている気がしてならない。聞こえたのか、聞きにいったのか、その区別がつかないまま。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 怪談, ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.