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にやりにやりに会わんように r+1095

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これは、友人から聞いた話だ。

彼女の実家は、山深い田舎にあり、都市部では廃れたような祭りの風習がいまだ残っているという。そんな古びた風情に惹かれて、帰省するのが毎年の楽しみだと言っていた。

彼女がまだ小学生だった頃、夏休みの帰省中に従姉妹たちと近くの神社で開かれる夏祭りに出かけた。その時、家を出る間際に祖父が一言、こう言った。
「にやりにやりに会わんようにな」

何のことか全くわからず、特に気にも留めないまま、従姉妹と家を飛び出した。境内は狭いが、夜店の明かりと人の賑わいで活気に満ちていた。焼きトウモロコシを買い、後で食べようと手に持ちながら人混みに押されてお堂の方へ進んでいく。

その途中、奉納された絵馬に目が留まった。数多く掛けられた中の一つ、馬の絵が描かれた絵馬。ふと、その馬の目が彼女をじっと見つめているように感じた。次の瞬間、馬の口元が不気味に歪み、ニヤリと笑ったのだ。

驚いて隣にいた従姉妹に知らせたが、従姉妹の目にはただの絵馬にしか見えないという。それでも彼女の怯えた様子に気づいた従姉妹は、「帰ろう」と手を引いてくれた。だが、その従姉妹の浴衣の帯に刺してあった団扇に目をやると、唐突に中央に赤い線が浮かび上がり、線が口のように開いて、またしてもニヤリと笑いかけた。

心臓が凍るような恐怖に駆られ、彼女は手を振りほどき境内を駆け出した。走りながら目に入るもの全てが、次々といやらしい笑みを浮かべる。お面売り場のお面たち、たこ焼き屋の看板の蛸、子供が持つ風船、屋台に並んだ景品のぬいぐるみ――どれもこれもニヤニヤと笑いかけてくる。

階段を駆け下りる途中、石段脇の狛犬までが口元を歪め、ニヤリとした。それを見た瞬間、ついに泣き出してしまい、無我夢中で家に向かって暗い道を走った。

道中、目を上げる勇気が出ず、足元ばかり見ていたが、ふと手に握りしめた焼きトウモロコシに気がついた。空腹に耐えかねて、一口かじろうと顔を近づけた瞬間、トウモロコシが黒く変色し、一粒一粒の表面に無数の小さな口が現れた。そしてその全てが、ニヤニヤと笑っている。

「ニヤニヤニヤニヤ……」

恐怖に叫ぶ間もなく、気を失ってしまったらしい。気がついた時には実家の布団の中で、心配そうに祖父母や従兄弟たちが見守っていた。

祖父はぽつりと呟いた。
「あれはな、人を驚かせるだけのもんじゃ。祟りをなすほどの悪いものやない。気にせんでええ」

だが、その言葉を聞いた瞬間、「祟り」という言葉に怯えが蘇り、彼女は再び泣き崩れたという。

後日、従姉妹にあの夜のことを聞いてみた。従姉妹はあっさりと、「時々出るよ」と答えた。登下校の途中でも、ランドセルが笑いかけてきたりすることがあるらしい。それでも彼女が体験したような騒ぎになることはまずない、と付け加えた。

「きっと、からかい甲斐があったんだね」
そう言われた時、彼女は怒る気力も失い、ただ呆然としたという。

地元では、あの現象を「にやりにやり」と呼び、狐か狸の悪戯だとされていたそうだ。

それ以来、彼女は「にやりにやり」に遭遇することはなかったが、夏祭りの記憶は今でも鮮烈だという。「もう少し手加減してくれたら、少しは楽しめたかもしれないのにね」と笑って話してくれた。

[出典:176 名前:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] :04/09/27 22:38:25 ID:yrDc/s+P]

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