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これは、俺の古い友人アキラの話だ。

彼はパソコンのリサイクル会社で働いていた。壊れた機械から使える部品を抜き取り、データを消去し、再び市場へ戻す。人の手を離れた記憶の残骸を、日々黙々と処理する仕事だった。

担当はHDD。持ち主の人生が詰まった装置だ。だが現場では、それはただの金属と基板の塊にすぎない。初期化し、消去し、規定に従って破壊する。それだけだ。

ある日、処理漏れの一台が紛れていた。本来なら完全消去済みのはずが、フォーマットされていない。アキラは一瞬だけ躊躇し、それから接続した。退屈の反動だったと言っていた。

中身はほとんどがエロ画像だった。古い解像度、雑多なフォルダ名、執拗な収集癖の痕跡。彼は数百枚をCD-Rに焼き、持ち帰った。規則違反だが、彼の罪悪感は薄かった。データは廃棄される運命だったからだ。

問題は、その中の一枚だった。

それは地図だった。手書きの粗い線。彼の住む市街地。見慣れた川、山道、林道。そして山中の一点に赤いバツ印。

冗談のような混入だ。だが彼は笑わなかった。偶然にしては具体的すぎる。自分の生活圏と一致しすぎていた。

週末、彼は一人で山に入った。スコップとコピーした地図を持って。

バツ印の場所は、登山道から外れた先にあった。人工的に切り開いたような空間。そこだけ木がまばらで、地面が不自然に平らだった。

掘ると、すぐに硬い感触があった。ビニール袋。水色のスポーツ飲料のロゴ入り。新しかった。

中身は札だった。金ではない。和紙に似た紙片。赤黒いインクで、意味の取れない図形と人型の歪みがびっしり描かれている。数千枚。湿気もなく、保存状態が異様に良い。

アキラはすぐに埋め戻し、逃げた。

翌日、会社で盗難騒ぎが起きた。保管庫から部品が消え、データ未消去のHDDも数台なくなったという。彼が持ち出したものと同型のロットだった。

そして駐車場の彼の車に、札が一枚貼られていた。

山で見たものと同じ図柄。

その日から毎朝一枚ずつ増えた。窓、ドア、ボンネット、天井。警察に相談しても、監視カメラを設置しても、映像には何も映らない。ただ朝になると増えている。

剥がした札は燃やしても、水に浸しても、翌朝また戻っていた。枚数は減らない。増えるだけだ。

半年後、彼は会社を辞め、引っ越した。連絡は途絶えた。

数年後、俺の自宅に封筒が届いた。差出人はない。中には一枚の地図。

俺の家を中心に描かれた、粗い手書きの地図だった。

山中に赤いバツ印。

そして裏面に、あの札と同じ記号。

俺は山へは行っていない。だがそれ以来、自宅前のポストに、薄い紙片が入ることがある。赤黒い線が、少しずつ増えていく。

アキラが掘り起こしたのは何だったのか。

HDDの持ち主は誰だったのか。

あの地図は、誰に向けて保存されていたのか。

ひとつだけ確かなのは、あれは隠すための場所ではなかったということだ。

埋めるための場所だったのかもしれない。

そして、掘る人間を待つための印だったのかもしれない。

今、俺の机の引き出しには、例の札が一枚入っている。

捨てても、戻る。

だから残している。

増えないように。

(了)

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