叔父の話を一つ語らせてもらいます。
956 あなたのうしろに名無しさんが…… 2002/08/16 12:02
幼少の頃の叔父は、手のつけられない程の悪ガキだったそうです。
疎開先の田舎でも、畑の作物は盗み食いする、馬に乗ろうとして逃がす等、子供達のガキ大将を自負するようなDQNでした。
さて、その疎開先には、地方にしては大きな神社がありました。
「今となっては何を祀ってていたのかもわからん」
だそうですが、桜の木が何本も植えられていて、春ともなれば正しく満開の桜が見物できたのでしょう。
また、聖域とでも言うのでしょうか。
「子供達がむやみに近づいてはならない」という、暗黙の了解があったようです。
しかし、そこはDQNな叔父のこと。
「やってはいけない」と言われれば、反発心が刺激されます。
ただでさえ娯楽の無い疎開先。いずれは出ていくという気持ちもあったのでしょう。
一つのイタズラを実行に移す事にしました。
神社には、馬(神馬)が飼われています。
これに乗って、神社の石段を駆け下りようというのです。
勿論、昼は大人達の目がありますから、夜のうちから神社に忍びこみ、朝のお勤めの時に馬で駆け出す……みんなびっくり!俺様の株、急上昇!(ドヤ顔)という作戦でした。
予定どうりに深夜部屋を抜け出して、神社へと向かう叔父……
満開の夜桜が近づくにつれ、叔父の耳に場違いな音が聞こえてきました。
ポンポン…ポポン…それは鼓(つづみ)の音だったそうです。
最初は大人達が酒盛りでもしているのかと警戒した叔父ですが、こんな深夜の、この戦時中に、ありえない事くらい子供にもわかることでした。
神社に近付けば近付くほど、ポン…ポポン…という音がハッキリ聞こえます。
鳥居の影に隠れ、中を覗く叔父。
そこには、ひどく幻想的な光景がありました。
風に散る夜桜の花びら、鼓をうつおかっぱの子供。
くるくる…くるくると舞う一人の女性。
叔父は時間を忘れ、その光景に見入ったそうです。
この世の物とは思えない美しさでしたが、どこかおかしな非常識さが叔父を正気に戻らせ、家へと逃げかえりました。
翌朝、昨夜の出来事を誰かに話したかった叔父は、思いきって、神社の神主さんに全てをうちあけました。
話を全て聞き終わった神主さんは、
「声をかけたか?」「見つかったか?」など、いくつか質問をした後で、叔父にニンマリ笑いかけたそうです。
「よかったなぁ……見つからんで、ほんによかったなぁ」
「ありゃ、この世の者でない……鬼じゃ」
今でも叔父は俺に、酒が入るとくどくどとこの話をします。
「マー君、鬼はいるんだよ……」
まぁ、正直俺も信じてないし、オカルトとも微妙に違う気がすんだけど、アホくさと思いながらも書いてみました。
(了)