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喜界島廃病院 rw+12,538

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鹿児島県の奄美大島の横にある喜界島出身の先輩から聞いた話だ。

先輩の実家の集落の外れに、使われなくなった病院があるという。建物は小さく、昔は普通の個人病院だったらしい。廃業の理由ははっきりしない。ただ、地元では「写真だけがおかしくなる場所」として知られていた。夜に物音がするとか、幽霊を見たという話はない。写真を撮ると、なぜか変になる。それだけだ。

先輩は学生の頃、友人たち数人とそこへ行った。昼間だった。立ち入りは禁止されていて、中には入れない。フェンス越しに見ると、ただの古い建物で、特別な雰囲気はなかった。

「つまらないな」

誰かがそう言い、記念に写真でも撮ろうということになった。病院を背にして何枚か撮り合い、それで終わった。怖いことは何も起きなかった。

数日後、現像した写真を受け取った。

廃病院の前で撮った写真だけが、すべて白くなっていた。光に焼かれたような白さで、人影も建物も消えている。他の場所で撮った写真は普通だった。

最初は失敗だと思った。だが、よく見ると完全な白ではない。濁った紙の奥に、かすかなムラがある。

「これ、何か写ってないか」

一枚を指でなぞると、薄い影のようなものが見えた。輪郭がなく、形も定まらない。ただ、そこに「並び」があった。偶然とは思えない間隔で、影が連なっている。

誰かが言った。

「字に見えない?」

はっきりとは読めない。読もうとすると、すぐに形が崩れる。それでも、写真全体に大きな文字が浮かんでいるように感じられた。

その時、先輩の一人が病院の名前を口にした。

「……あそこ、何て病院だっけ」

誰も答えなかった。名前を出すのをためらう空気があった。

写真を見返すたびに、影の並び方が違って見えた。ある時は文字のように、ある時は人の形のように見える。共通しているのは、白衣の色だけだった。

先輩は言っていた。

「近づいて撮った覚えはない。でも、遠かったとも言い切れない」

その写真は、しばらく先輩の部屋に置かれていたらしい。ある日を境に、誰も話題にしなくなった。

私は一度だけ、見せてほしいと言ったことがある。

先輩は少し考えてから、こう言った。

「やめといたほうがいい。あれ、見るたびに距離が変わるから」

それ以来、その写真を見せてもらっていない。

残っているのかどうかも、聞いていない。

(了)

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