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花屋の記憶と喫茶店 r+1884

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これは、同級生から聞いたある不思議な体験談である。

彼は幼少期、街の商店街の端にある「花屋」に強く惹かれたという。彼にとって、その花屋はただの店以上の何かだった。鮮やかな花々や独特の香りが彼の好奇心を刺激し、何とも言えない魅力を感じていた。特に店内に漂う花の香りは、彼にとって夢のような心地よさを与え、いつしかその場所が特別なものとして心に刻まれていた。

週末の買い物で母親に連れられて通るたびに、その花屋の前で「パフェが食べたい」と駄々をこねては、どうしてもその店に引き寄せられていたらしい。しかし当然のことながら、そこはパフェなど売っていない花屋であった。店内を見回しても、甘味を提供する気配などまったくなかったにもかかわらず、彼は「ここにパフェがある」と固く信じていた。

その花屋は、1階が生花や切り花を扱い、2階には鉢植えや観葉植物が展示されていた。彼が特に鮮明に覚えているのは、母親に手を引かれて階段を上りながら「ここでパフェが食べられる」と確信していた瞬間である。周囲は花と植物であふれ返っていたにもかかわらず、彼の頭の中では確かに「喫茶店」がそこに存在していた。

母親にとっては迷惑な執着だったかもしれないが、彼の強い願いに何度か付き合わされたという。彼が「どうしてもここでパフェが食べたい」と泣きじゃくるたびに、母親は少し困惑した表情を浮かべながらも、根負けして花屋の中に連れて行ったという。

母親は「またなの?」と苦笑しながらも、息子の純粋な好奇心に少し感心していたかもしれない。しかし当然ながら、2階に喫茶店などなく、パフェもなかった。それでも彼は、「ここにあるんだ」と頑として譲らなかったという。母親が「これはただの花屋だよ」と説明して一時的には納得するものの、しばらくするとまた同じように「パフェが食べたい」と訴えた。

彼にとって、花屋の2階は何か特別な場所だったのだろう。その光景は、ただ植物が置かれているだけの空間にもかかわらず、彼の心には甘い夢のような世界が広がっていた。そしてその夢の中心に、喫茶店とパフェがあった。無邪気な子供心が作り上げたそのイメージは、現実と幻想が入り混じった不思議な感覚を彼に与えていた。

この奇妙な「花屋の喫茶店」に関する記憶も、彼が成長するにつれて徐々に薄れ、商店街の風景とともに彼の中で過去のものとなっていった。しかし、その花屋の記憶は完全に消え去ったわけではなかった。どこかにまだ、パフェを求めていたあの頃の自分が、心の片隅にひっそりと存在しているような感覚が残っていた。その感覚は、まるで彼の中に未解決のまま残っている甘く懐かしい記憶が、時折その存在を主張するかのようだった。

やがて時が流れ、彼が大人になる頃には商店街も様変わりしていた。新しい建物が建ち、かつての商店街の賑わいは消え去り、マンションや駐車場が立ち並んでいた。しかし久しぶりに実家に帰省した彼は、ふと思い出したようにその花屋のことを考え、足を向けてみた。商店街の景観はすっかり変わり果てていたが、不思議なことにあの「花屋」だけはその場に残っていた。

外観は記憶と異なり、新しい看板やガラスの装飾が追加されていたが、花の香りは変わらなかった。懐かしさに駆られて店に入った彼は、ガラス張りの自動ドアをくぐり、広がる明るい吹き抜けと真新しい階段を見た。そしてふと見上げると、「喫茶」と書かれた看板が目に入った。その先には、彼が子供の頃に頭の中で描いていたまさにその通りの喫茶スペースが広がっていたのである。

彼の心に突然、幼少期の記憶が鮮明に蘇った。階段を上り、喫茶店に辿り着き、パフェを頼むというあのイメージが、まるで現実のように目の前に現れた。彼はその感覚に胸を締めつけられながらも、二階へ上がり、ひとりでチョコパフェを注文した。甘い香りが漂い、テーブルにパフェが置かれた瞬間、彼は子供の頃の自分が「ついに見つけ出した」かのような、不思議な感覚に襲われた。「これが、あのとき夢見たパフェだ」と。

店内には他の客も数人いたが、彼の心は完全に自分の世界に閉じこもっていた。そのパフェを口に運ぶたび、彼は幼少の頃の自分がそこに重なるのを感じた。まるで時空を超えて、あの頃の自分が目の前に現れているようだった。その味わいは甘く、どこか懐かしく、それでいて新鮮だった。彼はそのパフェを一口一口大切に味わいながら、自分の中で何かがつながっていくのを感じた。

その後、彼は再びその店に足を運んでいない。「あれは夢だったと考えた方が良い」と感じているからだ。夢と現実が交錯したあの不思議な瞬間は、彼の中で一度だけの出来事としてとどめておきたいのだろう。しかし、あの日に食べたパフェの甘さとその満足感だけは、彼の中に深く刻まれている。それは彼にとって、子供時代の幻想と現実が重なり合った奇跡のような時間であった。

彼は最後にこう語った。

「もう、あの花屋には行かないと思うんだ。どこかであれは夢だったと思っていた方がいいんだろうね。再び訪れてしまえば、あの時の奇跡的な感覚が壊れてしまう気がするんだ。それに、あの一度だけの体験があまりにも完璧だったからこそ、もう一度味わうことで失われる恐怖もあるんだ。でも、あのときのパフェの味だけは、どうしても忘れられないんだよ」。

彼の言葉には、時を経ても変わらない感傷と、忘れ去りたいけれど忘れられないという深い葛藤が込められていた。その味は、ただの甘さ以上のもの—彼の心の奥底に残る記憶の欠片であり、過ぎ去った時代と再びつながるための小さな鍵でもあったのだろう。彼にとって、それは失われたものへの追憶であり、同時に今も生き続けるかつての自分の証でもあった。

[出典:341 :ぱふぇ:2012/05/31(木) 17:56:18.42 ID:PhS5Igsq0]

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