俺が五歳のある日の夕方、母親がしきりに俺に言ってきた。
「おかあさん今日ず~っと家にいたよね? ね? ゆうちゃん」
よくわからないけど、「うん。いたよ」って答えたら、母親はすごい喜んだ。
次の日、隣に住む祖母が死体で発見された。
一見自殺なのだが、他殺の可能性(遺書がなく、足が悪いのに首吊りをしたことに違和感)もあるとして、うちにも警察の人が来た。
五歳の俺にも聴取のようなことがされたが、ほとんど母についてだった。
実は母と祖母の仲は悪く、元々同居していたのに、新しく家を建て祖母を追い出した経緯もあった。
「おかあさんはあの日ずっと家にいたの?」
警察にしつこく聞かれたが、「いたよ」っと伝えた。
その後母から
「警察に何聞かれたの?」
「ほかには?」
「他には?」
「ホカニハ?」
としつこく聞かれた。
そして、家にいたと伝えたことを言うと、ホッとしていた。
あれからもう二十年以上たって、俺は会社員として働いている。
十三歳で父が死に、苦しいなか大学まで行かせてくれた母には本当に感謝している。
ただ、あの日俺がテレビを見ながらウトウトしている間に、母が、裏口から三十分ほど家を出ていったのが忘れたくても忘れられない……
(了)