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【意味がわかると怖い話】三つの選択~本当の作り話 r+4080

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その日はエイプリルフールだった。

いつものように、僕らは僕の部屋に集まっていた。特に目的もなく、テレビもつけず、ただダラダラとビールを飲んでいるだけ。退屈しのぎに、誰が一番上手に嘘をつけるかという、くだらないゲームを始めることにした。

「嘘をついて、それを肴に酒を飲むだけの遊び。どうせ暇つぶしだしな」
どうにも馬鹿げたアイデアだったが、なんとなく面白そうだった。

トップバッターの僕は、「ナンパした女が妊娠して実は子供がいる」という嘘を披露した。微妙な笑いが起きたが、その瞬間、ふと気づいた。
――嘘をつくとき、人は100%の嘘なんてつけないものだ、と。

僕も夏にナンパなんてしていない。しかし、当時の彼女が妊娠したことはある。そして……あのことが原因で、僕の背中には「水子」がいる。

嘘と真実の境目が曖昧だからこそ、このゲームには奇妙なスリルがあった。軽い冗談のつもりが、過去の暗い記憶を呼び起こしてしまう。

順番が進み、最後に彼の番がやってきた。普段から無口で、あまり感情を表に出さない男だ。

「俺は不器用だからさ、嘘はうまくつけない。だから、一つ作り話をしてやるよ」

「いや、それ趣旨と違うだろ」
「まあまあ、聞けよ。退屈はさせないから」

彼はそう言うと、ビール缶をゆっくりと置き、姿勢を正した。そして静かに話し始めた。


「気がついたら、真っ白な部屋にいた。天井のスピーカーから、古びた声が響いてきたんだ。

『これから進む道は人生の道であり、人間の業を歩む道である。選択と苦悶のみを与える』ってな。

振り返ると、赤い文字で『進め』と書かれたドアがあった。そのドアを開けると、三つの選択肢が待っていたんだ。

右手のテレビを壊すか、左手の寝袋の中の人を殺すか、それとも自分が死ぬか。どれを選んでも出口に近づけると言われた。

俺は震えながら寝袋の人を選んだ。その場にあった鉈で何度も振り下ろしたよ。鈍い音が響いてさ。

次の部屋では、右手の客船を壊すか、また寝袋の人を燃やすか、それとも自分が死ぬか。俺は寝袋に灯油を撒いて火をつけた。炎の匂いが鼻に残ってる。

さらに次の部屋では、地球儀を壊すか、寝袋の人を撃つか、自分が死ぬか。俺は迷いなく拳銃を手に取り、引き金を引いた。

何度目かの銃声のあと、ようやく最後の部屋のドアが開いた。そこには何もない空間が広がっていて、スピーカーが言ったんだ。

『選択は終わった。命の重みを最後に知れ。出口は開いた』ってな。

俺は安堵してドアを開けた。光に包まれた部屋に入ったその瞬間、何かが足元に転がったんだ。

そこには……」

彼の声が低くなり、僕らは息を呑んだ。

「三つの遺影があった。父と、母と、弟の」


話が終わると、部屋の空気は一瞬で凍りついた。どこか遠い世界の話だと分かっているはずなのに、その生々しい描写が頭から離れない。

僕は思わずグッとビールを飲み干し、大声を張り上げた。
「やめろよ!そんな気味の悪い話、嘘でも冗談でもつまんねえんだよ!」

彼は何も答えず、ただ口角をゆっくりと釣り上げるだけだった。その笑みを見た瞬間、底知れない恐怖が僕の背筋を駆け上がった。

やがて彼は、静かにこう言った。
「もう、ついたよ」

(了)

[出典:885 :本当にあった怖い名無し:2008/06/22(日) 22:16:06 ID:YqcAHiai0]

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解説

この物語は、「嘘」というテーマを軸に、真実と虚構の境界が揺らいでいく構造で描かれています。読者にはゲームの一環としての「嘘」として提示される話が、最終的にどこまでが本当なのか、どこからが嘘なのかを疑わせるように意図しました。

主人公が「嘘をつくとき、人は100%の嘘をつけない」と気づくシーンは、物語全体の伏線です。人は完全に作り上げた話をするのではなく、自分の中の体験や感情を混ぜてしまうものです。その点で、彼の語りもまた、単なる作り話ではなく、どこか真実味を帯びているのだと読者に思わせたかったのです。

特に最後の「もう、ついたよ」という台詞は、この物語の鍵です。この一言は、「嘘をついた」という表向きの意味と、「真実をついた」という裏の意味を同時に含んでいます。彼の話が作り話であれば彼はただ嘘をついたのだし、もしそれが真実であれば、この瞬間、彼はその場で「自分の罪」を暴露していることになります。

さらに、彼の話に出てくる「選択」の物語は、人間が極限状況で下す決断の怖さを描いています。選択肢のどれもが罪を伴う状況で、彼が毎回「寝袋の人」を犠牲にするのは、倫理感の崩壊を象徴しています。そして最後に「三つの遺影」が登場することで、「寝袋の人」が家族だった可能性を示唆しました。この部分が物語全体の不気味さを決定づけています。

読者には「彼の話が真実なのか嘘なのか」を判断させないまま物語を終わらせました。それによって、読後感に不安や恐怖が残るように設計しています。この曖昧さが、読者にとって忘れられない一種の「怖さ」を生む要素だと考えています。

最後に、「エイプリルフール」という設定自体が、この物語全体を覆う嘘と真実の曖昧さを象徴しています。読者自身がどこまでを信じるか、どの部分に恐怖を感じるか、それを問いかけるための物語でもあります。

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