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見返りの神さま r+3,817

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初めてここに書き込みます。これは作り話ではありません。事実をそのまま書きます。

ただ、どう説明していいのか分からない。怖い、というより、ずっと頭の中で澱のように沈んでいる、不思議な出来事です。

母方の祖母は、ひどく信心深い人でした。
群馬の祖母の家に遊びに行くと、よく私の手を引き、家の裏手にある山裾の神社まで歩いていきました。
群馬という土地は、どこを見ても山が視界に入り込む場所です。
祖母の家の裏は、もうすぐ山。背後から覆いかぶさるような影が、昼間でも薄く差し込んできます。

近所の墓地はほとんどが山中にあり、細く入り組んだ道が蜘蛛の巣のように張り巡らされていました。
祖母が「金比羅さま」と呼ぶその神社は、
丸太の鳥居、
破れた障子、
抜け落ちた濡れ縁……
とても管理されているとは思えない、打ち捨てられたような佇まいでした。

それでも祖母は、何度も私をそこへ連れていきました。
枯葉を踏みしめながら、細い山道を登っていく。足元には時おり、小さな蛇のようにうねる根や、崩れた石段が現れます。
祖母の背中は小さく、けれど妙に張り詰めたような気配がありました。

七つか八つの頃のことです。
その日、祖母は言いました。
「今日は特別だよ」

神社の境内を抜け、祖母は初めて私を裏手に連れていきました。
昼間だというのに、そこは夕暮れのような暗さでした。
苔むした岩肌の横に、人ひとりやっと通れるほどの細い道が、奥へと延びています。

その道を登り、下り、また登って……思った以上に距離がありました。
やがて、ぱっと視界が開けたのです。

そこは不思議なほど明るい場所でした。
空を切り取るように円形の石段が積まれ、まるでローマのコロッセウムを半分にしたような形。
段々には、小さな位牌のようなものがびっしりと並び、笹の葉が揺れていました。短冊や折り紙の飾りが彩りを添え、仏花がいくつも供えられています。
風が吹くと、色とりどりの風車が一斉に回り、かすかな鈴の音のような響きがあたりを満たしました。

私は思わず、嬉しくなって手を合わせようとしました。
すると祖母が鋭い声を上げました。
「ここは、お願いごとをしてはいけないよ」
驚いて見上げると、祖母は真剣な顔をしていました。
「ここには、とても強い神さまがいる。お願いすれば、きっと叶う。でもね、その神さまは必ず見返りを取るんだよ」

その日以来、私はその場所に連れていかれることはありませんでした。
もう一度だけ、似た時期に行った記憶がありますが、何も変わらず、美しく、そして少し怖いほど整った場所でした。

やがて私は中学生になり、ほどなく祖母は事故で亡くなりました。
あまりに急で、涙は出ても、現実感がありませんでした。

それから数年後。
母や親戚の話から、祖母が亡くなる直前の家の事情を知ることになりました。
母の兄――私の叔父は、自動車整備の会社を辞めて独立していましたが、不況のあおりで経営はかなり苦しかったそうです。
けれど祖母の死を境に、叔父の工場は不思議なほど業績が回復したといいます。

私はあの場所を思い出しました。
祖母があそこで何かを願ったのではないか。
「私の命はいらない。その代わり、倅の会社を助けてください」――そう言ったのではないかと。

そう考えると、どうしても確かめたくなりました。
二十歳を過ぎ、久しぶりに群馬へ行く機会があったとき、私は一人で神社へ向かいました。
道に迷いながらも、なんとかあの荒れた社殿の前にたどり着きました。

しかし、私の行きたいのはここではありません。
裏手の細い道。その先の、あの光の場所。

境内を回り込み、裏へ行くと……道はありませんでした。
土の形、岩の割れ目、木の配置、どこを見ても、あの細道があった形跡さえない。

信じられなくて、社の周りを何周も回りました。
けれど、やはり無いのです。

後日、母にも、叔父にも、祖父にも、いとこたちにも「あの場所」の話をしましたが、誰一人として知りませんでした。
「そんな場所、この辺にはないよ」

その答えを聞いた瞬間、背筋が凍りました。
今こうして書いていても、指先が冷たくなります。

あれ以来、私は神社にも、裏の山にも近寄れなくなりました。
それどころか、どんな山道にも恐怖を覚えるようになったのです。
なぜなら――あの場所は、あの群馬の山中だけにあるとは限らないと思うから。

街の裏路地、森の中、廃屋の裏庭……どこかに、あの風車の音と石段が、ひっそりと待っているかもしれない。
そして、もし自分が切羽詰まったとき、その場所へ再び足を踏み入れてしまったら……

今の私は、命を代償にしても構わないと思える瞬間が、ないとは言い切れない。
だからこそ、怖いのです。
あの風車が、また私を迎える気がしてならないのです。

以上です。
同じような場所を知っている方、いますか。

[出典:272 本当にあった怖い名無し 2010/03/14(日) 00:49:05 ID:P5ay6fVK0]

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