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短編 r+ カルト宗教 家系にまつわる怖い話

悪いものが出ている rw+7,226-0429

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うちでは、病気になると、まず体温計ではなく、首の紐を探した。

小学生の頃、家には小さな護符のようなものがあった。薄い布袋に入っていて、首から下げる。親はそれを大事そうに扱い、僕が風邪をひくと、薬を飲ませる前に必ず手をかざした。

名前は言えない。今でもその名を口にすると、何かを呼ぶような気がする。

教義では、その護符を下げて掌を向けると、病気や怪我がよくなるのだという。子どもながらに半信半疑だった。けれど、親が当然のように信じていたので、僕も講義を受け、護符を授かった。

小学校を卒業するまで、僕は一度も薬を飲まなかった。

風邪をひいても、転んで膝を擦りむいても、親が黙って手をかざす。すると熱は下がり、痛みも薄れていく。今考えれば、軽い症状だっただけかもしれない。子どもの体力で自然に治っただけかもしれない。

ただ、治ったあとの感覚だけは、今も覚えている。

痛みが消えるのではなく、痛みのあった場所が少し遠くなる。自分の体なのに、そこだけ奥へ引っ込むような感じがした。

一度だけ、目の病気になったことがある。医者には手術をすすめられた。親はしばらく黙っていたが、その夜、僕の枕元に座り、いつものように掌を僕の目の上へかざした。

翌日も、その次の日も同じことをした。

数日後、病院で検査を受けると、医者は画面を見ながら首を傾げた。

「……消えてますね。ごく稀に、自然に消えることもあります」

親は喜ばなかった。

ただ、僕の首の護符を指でつまんで、少しだけ位置を直した。

中学に上がってから、道場へ通うのが億劫になった。高校へ行く頃には、ほとんど関わらなくなっていた。親も強くは言わなかったが、僕が薬を飲むようになると、決まって嫌な顔をした。

「戻すものが多くなる」

そう言われたことがある。

何を戻すのかと聞くと、親は答えなかった。

大学に入って一人暮らしを始めた頃、妙な男が部屋に来るようになった。

同じ大学の学生だと名乗った。学部は違うが、キャンパスで僕を見かけたことがあるという。人当たりは悪くなかった。話し方も普通で、見た目にも怪しいところはない。ただ、最初に部屋へ上がったとき、男は玄関先で一度、僕の首元を見た。

そのとき僕はもう護符を下げていなかった。

男は、ある団体に入っていると言った。名前は違ったが、内容は僕の実家の宗教にひどく似ていた。手をかざすと体が整う。悪いものが出る。しばらく続ければ、本来の状態に戻る。

「少しだけ、手をかざさせてもらっていいですか」

断る理由を探しているうちに、男はもう僕の正面に座っていた。

掌が胸のあたりに向けられる。

最初は何も起こらなかった。ただ、五分ほどすると、胸の内側が冷えていくような感覚があった。痛みではない。空洞が広がるような冷たさだった。

男は目を閉じたまま言った。

「やっぱり、出ますね」

何が、と聞くと、男は笑った。

「悪いものです」

それから何度か、男は部屋へ来た。

来るたびに、同じ場所へ手をかざした。僕の胸ではなく、胸の少し奥。そんな言い方しかできないが、掌が向いているのは体の表面ではなかった。

しばらくすると、体に発疹が出はじめた。夜になると、部屋に誰かいる気配がした。窓は閉まっているのに、カーテンが内側へふくらむ。電気を消すと、部屋の隅に人が立っているように見える。

男に発疹のことだけ話すと、彼は嬉しそうにうなずいた。

「悪いものが出てる証拠ですよ」

気配のことは言わなかった。

言えば、彼が喜ぶ気がした。

ある日、男は別の信者を連れてきた。僕より少し年上の女だった。二人は支部道場へ行こうと言った。僕は断るつもりだったが、その日は妙に体が重く、考えるのが面倒だった。

車に乗ると、空気が冷たかった。

男は運転しながら、入信してから良いことばかり起きていると話した。女は後部座席で黙っていた。ルームミラーを見ると、女はずっと僕の首元を見ていた。

支部は普通の建物だった。看板もなく、外から見れば事務所にしか見えない。中へ入ると、線香でも香水でもない、古い布のような匂いがした。

受付で白い封袋を渡された。

「いくらでもいいです。お気持ちで」

財布には小銭しかなかった。十円玉を入れようとした瞬間、受付の女が僕を見た。睨むというより、僕の手の中の十円玉を見ている目だった。

結局、千円札を入れた。

広い部屋に通され、本を渡された。高天原がどうとか、神がどうとか、聞き覚えのある言葉が並んでいた。全員で唱和させられた。僕は口を動かすふりだけをした。

その途中で、天井近くを黒い霧のようなものが這った。

一瞬だった。

けれど、それを見たのは僕だけではなかったと思う。

前に座っていた男が、唱和を続けながら、少しだけ顔を上げたからだ。

帰り際、靴を履こうとしてかがんだとき、背中に何かが乗った。重いというより、内側から押し潰される感じだった。息が詰まり、胸の奥がへこむ。声を出そうとしても出なかった。

数秒でそれは消えた。

男は僕の背中を見ていた。

「かなり出ましたね」

そう言った。

二日後、体調が崩れた。

汗が止まらず、吐き気で立てない。病院を四つ回ったが、原因は分からなかった。食べても吐く。眠っても、首を絞められる感覚で目が覚める。壁が夜中に叩かれ、電気が勝手についたり消えたりした。

隣人に苦情を言いに行くと、相手は青い顔で言った。

「そっちこそ、夜中に壁叩くのやめてください」

それからは大学のサークル部屋に寝泊まりした。

男はそれでも来た。サークル棟の前で待っていたこともある。

「もう少しで抜けますよ」

僕が何も言わずに通り過ぎると、男は後ろから言った。

「戻る前が一番つらいんです」

その言葉で、実家の親が昔言ったことを思い出した。

戻すものが多くなる。

その夜、実家に電話をした。頭がおかしくなったのかもしれない、と言うと、母はしばらく黙ったあと、「寺に聞く」と言った。

宗教をやっていた家が寺に相談するのは変な話だが、うちの実家は昔からその寺と付き合いがあった。法事もそこに頼んでいたし、親戚の墓もそこにある。

数時間後、知らない番号から電話が来た。

出ると、寺の住職だった。

「今どこにいる」

大学だと答えると、住職はすぐに言った。

「アパートには寄るな。その学生にも連絡するな。明るいうちにこっちへ戻れ」

声は落ち着いていたが、急いでいた。

「それから、日本酒を少し飲め。口を湿らすくらいでいい。飲み込まなくてもいい」

理由を聞くと、住職は少し黙った。

「向こうが、お前の口を使う前にだ」

意味が分からなかった。

けれど、その言い方だけは冗談ではなかった。

僕はその日のうちに電車で実家の町へ戻った。家ではなく、先に寺へ来いと言われていた。寺に着くと、住職は僕を本堂の端に座らせた。

経を唱えろと言われた。

知らない経だった。紙に書かれた文字を追いながら、何度も声に出した。何日もそれを続けるうち、体調は少しずつ戻っていった。

ただ、治ったという感じではなかった。

昔、親に手をかざされたあとと同じだった。

悪いところが消えるのではなく、体の一部が奥へ引っ込む。自分の中に空いた穴を、何かで塞いでいるような感覚があった。

数日後、友人に付き添ってもらい、昼間にアパートへ戻った。

郵便受けに手紙が詰まっていた。全部、あの男からだった。

「入信おめでとう」
「三万円用意しろ」
「逃げるな」
「戻ってくるものを止めるな」
「お前の番だ」

最後の一通だけ、封がされていなかった。

中には、白い紙が一枚入っていた。

そこに、僕の名前が書かれていた。漢字も正しかった。だが、その下に朱色の印が押されていた。昔、実家で親が護符に押していた印とよく似ていた。

僕はテレビだけ持ち出し、その日は友人の部屋へ逃げた。

しばらくして新しい部屋を借りたあと、大学で男を探した。名簿にも学生記録にも、彼の名前はなかった。同じ学部だという教授にも聞いたが、「そんな学生はいない」と言われた。

それで終わりにすればよかった。

実家に戻った折、僕は寺へ行った。住職に、あの男のことを聞いた。住職は驚かなかった。

「まだ名乗っていたか」

そう言って、奥から古い巻物のような紙を持ってきた。広げると、家系図のようだった。名前が何代も連なり、ところどころに朱印が押されていた。

曾祖父の名にも、朱印があった。

祖父の名にもあった。

父の名にはなかった。

僕の名前は、まだ書かれていなかった。

ほっとした瞬間、住職が紙の端を押さえた。

そこに、小さな字で別の名前があった。

大学で男が名乗った名前だった。

その横に、朱印が押されていた。

住職はその名前を指でなぞり、低い声で言った。

「これは、まだ戻っていない」

僕は、誰が戻っていないのか聞けなかった。

帰り際、住職は僕の首元を見た。

「昔の護符は、まだ家にあるか」

あるはずだ、と答えると、住職は少し笑った。

「捨てるなよ。捨てても、捨てたことにはならん」

その夜、実家で古い机の引き出しを開けると、小学生の頃に下げていた護符が出てきた。

布袋は変色していた。

手に取ると、中で何かがかすかに動いた。

紙が擦れる音ではなかった。

もっと小さく、もっと湿った音だった。

僕はそれを戻した。

翌朝、母にそのことを言うと、母は台所で味噌汁をよそいながら言った。

「あんた、昨日から首にかけてるじゃない」

笑っている声だった。

自分の胸元を見ると、何もなかった。

ただ、首の後ろだけが少し重かった。

それから体調を崩すことは減った。薬も効くようになった。部屋で人影を見ることもない。壁を叩かれることもない。

だから、もう終わったのだと思いたい。

けれど時々、電車や喫茶店で、向かいに座った知らない人が、僕の胸の少し奥を見ることがある。

そして、ごく自然に掌をこちらへ向ける。

そのたびに、体の中で何かが少しだけ動く。

出ようとしているのか。

戻ろうとしているのか。

今でも、それだけが分からない。

[出典:906 :あなたのうしろに名無しさんが:04/02/17 21:00]

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