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食べログには決して載らない旨いとんかつ屋【ゆっくり朗読】3500

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ある青年が、K県に行った時のこと。

75 :2003/11/23 20:36

空腹になったので、一軒のとんかつ屋に入った。

夫婦者でやっているらしい、小さく古びた店だった。

奥の座敷は住まいになっているようで、子供がテレビを見ている姿がチラリと見える。

夫も妻も、無愛想で心持顔色が悪い。他に客はいなかった。

しかしここのとんかつ、食ってみるとものすごく旨い。

あっという間にたいらげ、青年は満足した。

会計を済ませ、帰り際、店主が「来年も、またどうぞ」と。

変わった挨拶もあるものだと青年は思ったが、とんかつは本当に旨かったので、また機会があったら是非立ち寄ろうと思い、店を後にした。

それから一年……

再びK県に赴いた青年は、あのとんかつ屋に行ってみることにした。

しかし、探せども探せども店は見つからない。

おかしい……住所は合ってるし、近隣の風景はそのままだし。

まさかこの一年で潰れたとか……?

いや、あんなに旨い店なのに。

仕方がないので、住民に聞くことにした。

すると老人が、

「ああ、あの店ね。あそこは十一年前に火事で全焼してね。家族三人だったけど、皆焼け死んでしまって……」

そんな……

青年があの店に入ったのは去年のことだ。

戸惑う青年をよそに老人は続けた。

「毎年、火事で店が全焼した日、つまり家族の命日にだけ、その店が開店する……って話がある。入った客も何人かいるようだが……あんた、去年入ったの?」

『来年も、またどうぞ』

帰り際の店主のあの変わった挨拶。

あれはつまり、来年の命日にもまた店に来いと、そういうことだったのだろうか……

恐慌をきたしながらも青年は、家族の命日だけは確認した。

案の定、去年青年が店に入ったその日だった……

……その話を青年から聞いた友人は、

「そんなバカなことあるかよ。お前ホントにとんかつ食ったの?」と。

青年は答えた。

「本当に食った!あんな旨いとんかつ初めてだったし、それに子供が奥の部屋で見てたテレビ番組、ルパン三世の曲だってことも憶えてる」

しかし青年は、しばらく考え込んでから呟いた。

「そう言えば、子供の首が無かった気がする……」

(了)

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