ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 定番・名作怖い話

関わった夜 rw+9,400

更新日:

Sponsord Link

霊感など信じたことがなかった。占いも心霊写真も、話の種として消費するものだと思っていた。

だから今でも、あれを霊的な体験だったと言い切ることに躊躇いがある。ただ、人生で一度だけ、説明を拒む夜がある。

場所は広島県F市の外れにある小さな町だ。地元では通称「お札の家」と呼ばれている。観光用に誇張された心霊スポットではない。噂は派手だが、語る人間の口調がどれも似ていた。行った、見た、ではなく、近づいた、関わった、という言い方をする。

大学時代、友人たちの多くがその家の話を知っていた。霊感の有無に関係なく、何かしら引っかかる経験をしているのが妙だった。家の周囲だけ霧が溜まる、足音が増える、帰宅後に声が出なくなる。どれも断片的で、原因は語られない。

ある晩、ファミレスでその話題が出た。席にいたのは先輩とその彼女、それから同級生の柴村だ。柴村は自分を霊感持ちだと言い張る男で、普段から大げさなところがあった。話を振った途端、彼は即座に立ち上がった。

今から行こう。

先輩たちは顔を見合わせたが、否定はしなかった。高校時代に一度来たことがあり、その時は車から降りられなかったという。柴村は笑いながら、自分がいれば大丈夫だと言った。その軽さが、逆に断れなくさせた。

夜十一時過ぎ、四人で車に乗り、林道へ入った。街灯はなく、道は細く、舗装の継ぎ目が闇に溶けていた。車を降りた瞬間、先輩の彼女が気分が悪いと言い、車内に残ることになった。結局、林道を進んだのは柴村と自分の二人だけだった。

少し進むと、立入禁止のバリケードが現れた。有刺鉄線まで張られている。正規の道では行けないらしく、林の中を迂回して切れ目から戻った。その瞬間、空気が変わった気がした。温度というより、密度が増した感覚だった。

柴村は落ち着きなく周囲を見回し、何かを指さしては呟いていた。自分には何も見えない。ただ、音が増えた。葉擦れや遠くの車音ではない。自分たちの呼吸に、別のリズムが重なってくる。

やがて、古い白い家が見えた。壁は汚れ、窓は塞がれている。友人から聞いていた通り、これはダミーの家で、本体はこの先の獣道を登った場所にあるという。家の周囲はチェーンで囲まれていた。近づく理由はなかったが、なぜか足が向いた。

そのとき、柴村が低い声で自分の名前を呼んだ。振り向くと、彼はタバコをくわえたまま固まっていた。視線は自分ではなく、背後に固定されている。何を見ているのか聞けなかった。聞くという行為自体が、何かを確定させてしまう気がした。

逃げようとしたが、体が言うことをきかない。時間が伸びたように感じた。視線の圧だけが背中に刺さってくる。次の瞬間、柴村が叫び声とも息ともつかない音を上げて走り出した。その動きに引きずられるように、自分も走った。振り返らなかった。

車に戻ると、先輩は何も聞かずにエンジンをかけた。帰路の途中、屋根に何かが落ちる音がした。急ブレーキを踏んだが、何もなかった。その後、コンビニの駐車場で柴村が呟いた。

まだ、近い。

その夜はそれで終わった。だが終わっていなかった。柴村は帰宅後、うなされるようになり、翌朝、血を吐いて倒れた。声が出なくなっていた。医師は声帯の損傷だと言ったが、原因は説明できない様子だった。

それ以降、柴村は大学に来なくなった。噂だけが残った。地元の寺に通っている、何かを見なくなった、以前と目が違う。数年後、偶然再会したとき、彼は多くを語らなかった。ただ一つだけ、はっきり言った。

あそこは、行く場所じゃない。見る場所でもない。関わった時点で、もう遅い。

その言葉の意味を、今も考えている。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 定番・名作怖い話
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.