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御札の家 r+8614

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霊感なんてまるでない自分が、人生で唯一体験した霊的な出来事がある。

場所は広島県F市のとある町。地元の人なら誰でも知っているという、通称『お札の家』。その名の通り、無数のお札が貼られた家だ。

噂話が飛び交う他の心霊スポットとは違い、ここは本物らしい。実際に大学の友人たちのほとんどが、不思議な体験をしたと言っていた。その中には霊感がないはずの人も含まれていた。友人の一人がこう話していた。

「家の周りだけ霧が異常に濃かったんよ。それで冗談半分で塩を霧に投げたら、突然バッと霧が裂けたんじゃ。怖すぎて逃げたわ」

どうやら霊が集まりやすい場所らしく、お札がなければ家の中にも侵入してきてしまう霊が数えきれないほどいるという。その話を聞いたとき、自分は内心わくわくしてしまい、霊感がない自分でも何か見えるのではと期待していた。

ある日、ファミレスでこの『お札の家』の話を切り出した。そこにいたのは仲の良い先輩、その彼女、そして友人の柴村だ。話題に食いついた柴村が、妙に乗り気だった。

「今すぐ行こうや!」

そう勢いよく提案され、断る間もなく話は進んでしまった。先輩カップルは高校時代に行ったことがあるらしかったが、車から降りられなかったという。柴村は特に意気込んでいて、霊感があると豪語していた。

「霊がおったら俺がどうにかしてやるけぇ、お前は安心しとけ!」

その無駄に頼もしい言葉に押され、気が強く怖いもの知らずの柴村が一緒なら大丈夫かもしれないと、自分は渋々行くことに同意した。

夜の11時過ぎ、車で目的地へ向かう。『お札の家』へ続く林道は不気味で、ただ暗いだけなのに恐怖心を煽られる。車を停め、降りたときには気分はすっかり萎えていた。

「ほんまに行くんか?」

自分がそう言うと、先輩カップルが車から降りてこない。どうやら先輩の彼女が気分を悪くしたらしい。結局、柴村と二人だけで向かうことになった。

林道を進むと『ここから先立入禁止』と書かれたバリケードが現れた。有刺鉄線まで巻かれていて、なんとも厳重だ。仕方なく林の中を迂回し、有刺鉄線の切れた箇所から道に戻って進んだ。バリケードを越えた瞬間、空気が変わったように感じた。温度が下がったような錯覚を覚えたが、気のせいだったかもしれない。

柴村は周囲をキョロキョロ見渡しながら、興奮した様子で「あそこにもおるな!おぉ、向こうにもおる!」と騒いでいた。自分には何も見えなかったが、その軽い調子に逆に怖さが増した。

さらに進むと、一軒の古い白い家が現れた。学校の友人から、ここは『ダミーの家』だと聞いていたので驚かなかった。お札の家はこの先の獣道を登った先にあるらしい。柴村にその話を伝えていたので、二人とも動揺せず獣道を目指した。

そこで柴村がタバコに火を点けようと立ち止まった。なかなか火がつかず、待っている間、自分は白い家を眺めていた。なぜか家の周囲はチェーンで囲まれており、興味本位で近づいてみた。その瞬間、

「おい、舛岡!」

柴村が鋭い声で呼び止めた。驚いて振り向くと、柴村がタバコをくわえたまま目を見開いて固まっていた。その視線は自分ではなく、自分の背後を向いていると気づいたとき、全身が凍りついた。

一刻も早くその場を離れたかったが、足がすくんで動けない。すると、突然柴村が雄叫びを上げて林道を駆け出した。その声に助けられ、自分もようやく動き出し、後ろを振り返ることなく必死で逃げた。

ようやく車に辿り着き、怯えながら先輩に状況を説明するが、言葉にならない。ただ「早くここを離れてください」と頼むのが精一杯だった。車内の緊張が少し和らぎ、柴村がニヤリと笑いながら「楽しんでもらえた?」と言ったとき、全てが芝居だと気づいた。正直、殴りたい気持ちになったが、それよりも安心感の方が勝った。

帰り道、車の屋根に何かが落ちる音がして急ブレーキを踏んだ。驚いて確認したが、異常はなかった。その後コンビニに立ち寄ったとき、柴村が震えながら「ついてきてる」と呟いた。その一言で場の空気が一変した。

家に戻り、柴村は悪夢にうなされるような状態になり、翌日には血を吐いて救急車で搬送された。医者によると、声帯が損傷しているが叫んだ程度ではあり得ないと言われた。柴村は大学を辞め、連絡を絶ち、地元に戻っていった。

後に柴村と再会したとき、彼は全てを語ってくれた。あの夜、白い家のチェーンの向こうに、髪の長い女が自分を見下ろしていたこと。お札の家に近づくほど異様な霊気に包まれていたこと。そして、地元の寺でお祓いを受けた結果、声を失い霊感も封じられたこと。

彼が言った言葉が忘れられない。

「遊び半分で行くもんじゃない。あんな場所、俺たちにはどうにもできん」

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