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中編 定番・名作怖い話

【名作】神の化身~月姫様【ゆっくり朗読】3100

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ソウタには敬愛する女性が居た。

その女性は月と呼ばれる娘で、賎民でありながら、この国では誰よりも尊いお方と呼ばれていた。

ソウタと月の出会いは、ある夜の事だった。

ソウタが屋敷を巡回していると、悲しげな歌が聞こえました。

気になってソウタが歌の聞こえる方へ行くと、そこには月と戯れるように舞いながら歌を歌う女性が居ました。

ソウタはそこで気が付きました。

この女性こそが、神の化身である月姫様だと。

ソウタも噂で、この屋敷に月が居る事と、月がとても美しい女性であるとは聞いていたが、実物はそれを凌駕する程に美しい存在だった。

ソウタが見とれていると、月はソウタに気が付き歌をやめ、ソウタに問うた。

「あなたはだれ?」

ソウタは緊張してしまい、動けなかった。

月はソウタに微笑むと、「私は月。今度はあなたの番だよ」

ソウタは緊張しながらも、「私はソウタと申す者です。月姫様」と返した。

月は苦笑して、「姫様なんてつけないで良いよ。私よりソウタのほうが偉いのだから」

ソウタは土下座して、「滅相もありません。月姫様はこの国で最も尊いお方。そのような方を呼び捨てなどと」と返した。

月は悪戯気に笑いながら、

「ならば命令だ。私の事はこれからは月と呼べ。まさか出来ないとは言うまいな。私はこの国で最も尊いらしいのだからなあ」

ソウタは動揺しながら、「謹んで拝命させていただきます。月様」

月は呆れ顔で、「しかたない、月様で勘弁してやる」

ソウタは、「ありがたき幸せ」と返した。

月は微笑を浮かべ、「そろそろ戻らないとまずいので今日は帰る。また明日もここで会おうなソウタ」

ソウタ、「承知仕りました」

こうしてソウタと月は、毎日の僅かな時を語り合った。

ある夜ソウタは、月と最初に出会った時に歌っていたのはどんな歌なのかを尋ねた。

月は、「それは恋の歌であり、別れを悲しむ歌であり、生を讃える歌だ。自分もいつかはそんな恋をしてみたい。でもそれは、絶対に叶う事の無い願いだ」と言った。

ソウタは、「それはどうしてですか」と尋ねた。

月は悲しげに、「私は月姫だから殿の子種を貰い、そしてこの屋敷で生涯を終らせるのだ」と答えた。

ソウタはそんな月に、

「おれは必ず貴女をこの屋敷から解放します。そして、自分が貴女に愛されるにふさわしい男になる事を誓わせてください!!」

月は嬉しそうに笑って、「期待して待ってるぞ」と答えた。

ある日の事、殿様はソウタを呼び出し、もう二度と月姫に会うなと命令した。

ソウタは頭に血が上り、「なぜですか!?殿!」と返した。

殿様は苦しげに、

「月に……意味なき希望を与えんがためだ。裏切られる希望なんて無いほうが良いと思うからだ」

そう呟きました。

確かにその通りです。ソウタもいずれは結婚しなければなりません。

ですが月と結婚する事は、ソウタがこの国の人間である限り無理な話です。

ソウタは、「私に出来る事ならなんでもします。ですから、あのお方の幸せをあきらめないでください殿!!」

殿様は、「お前が月を幸せに出来るのか!?そのために命を賭けられるのか!?」とソウタに問うた。

ソウタは、「無論でございます殿!!」と返した。

すると殿様は真剣な顔で、「ならば、これからも月の傍に居てやってくれぬか?月がこれから先も笑っていけるように」

ソウタは、「おまかせください!!殿」と返した。

殿様からも許可を得た事で、月とソウタの会話の時間は少し増えた。

その事を月もソウタも喜び、このささやかな幸せがずっと続くように願った。

ですが、そんな二人を引き裂く事件が起きました。

周辺諸国を荒らしまわっていた鬼のグマソが、月姫の居る屋敷を襲撃したのです。

グマソの力は凄まじく、手を振るえば頑丈な門ですら木っ端微塵になり、咆哮すれば歴戦の武士ですら腰を抜かし、その頑丈な皮膚は、槍とか矢を弾き返すほどに強靭でした。

グマソはゆうゆうと守備している武士達をなぎ払いながら、月の居る部屋へ進んでいきます。

その部屋の中でソウタは、怯える月を抱きしめながら襲撃者を待ち構えました。

そして、鬼のグマソが月の部屋に入りました。

ソウタは隙を突いてグマソを攻撃しましたが、グマソの皮膚は鉄よりも硬く、まるで歯が立ちません。

驚くソウタを見てグマソは笑い、手を振りました。

ソウタはまるで放たれた矢のように、部屋の端まで吹き飛ばされました。

そしてソウタは、自身の名を叫ぶ月姫の声と、耳障りな鬼の笑い声を最後に意識を失いました。

次にソウタが目が覚めると、全身の手当てがされていました。

ソウタは「月姫様は無事なのか」と手当てをしていた女中に聞くと、女中は口ごもりました。

そして殿様がソウタを呼んでいたと言うと、そそくさと出て行ってしまいました。

ソウタが殿様の部屋に行くと、殿様はソウタに「月姫の救助はあきらめろ」と言いました。

それにたいしてソウタは、

「月姫様は今頃とても怖がっている筈です。助けを待っているはずです。だからお願いします。おれも討伐対に参加させてください!!」

殿様は自嘲気味に笑うと、「そもそも討伐隊も結成しない。わが国には無駄死にさせて良いような武士は居ないのだから」と答えた。

ソウタは言葉を失った。

殿様は続けて、

「納得が出来ていないようだから教えておこう。グマソはな、朝廷から派遣された精鋭武士や陰陽師を返り討ちにして、全員食ってしまったんだ。それだけでは無い。私自身も討伐隊を指揮してグマソと相対したが、まるで勝負にならずに敗北し、糞便を垂らしながら部下を見捨てて逃げ出したのだ。他にも数多くの腕自慢や高名な武士達がグマソに挑戦したが、結局は返り討ちにあって終わった。これでわかっただろう。グマソに挑むのがどれだけ無謀な事なのかを」

ソウタ、「それでも……諦めたくはありません。

月姫様が待っているのなら、なにが立ち塞がろうと絶対に行きます!!」

殿様は、「……わかった。お前の勇気で見事に月姫を救助してみせよ。成功の暁には月姫をお前にやろう!!」

ソウタは、「承知!!かならずやグマソを討ち!!月姫様を奪還して見せます」と言って退出しようとした。

すると殿様は、「待て!!渡す物がある」

ソウタは殿様に、槍と狐の尾を渡された。

槍と狐の尾は、月の先祖から奪った物らしい。

「鬼退治を達成した暁には、月と一緒にお前の物になる」と殿様は言った。

最後に殿様は、「必ず帰って来るように」とソウタに言った。

馬を駆り、ソウタは鬼の住処の近くまで来た。

そこでソウタは、怪しげな巫女装束の女に出会う。

ソウタは鬼の手先かと構えていたが、その女は「私は鬼の手先では無いぞ少年」と言った。

ソウタは、「ならば何者だ!!」と叫んだ。

女は笑って、「まあまあ、落ち着きたまえ少年。そんな事では勝てる戦も勝てないぞ」と答えた。

ソウタは、「……悪いが相手をしている暇は無い」と返した。

女は真剣な顔になって、「あの鬼は強い。今のままでは死ぬだけだぞ」と言った。

ソウタは悔しげに、「ならば逃げろとでも?」

女は、「まさか、そんな事なら呼び止めないさ。単刀直入にすませよう」と言って、札と筆を懐から取り出した。

続けて女は、

「この札を槍に巻きつければ、鬼の皮膚を貫ける。後は、お前の額に文字を書けば、あの鬼程ではないが怪力と丈夫さが手に入る」

ソウタは女を信用した訳ではなかったが、鬼退治の為の気休めの一つや二つは合っても良いと思った。

そうして女は作業を終えると、「月を頼んだぞ、少年」と言い、姿を消した。

ソウタの心からは、不思議と焦りは消えていた。

ついに鬼の住処にソウタは着いた。

ソウタが注意深く進んでいると、「グッケケケ、アンシンシロォォ、ワナナンテナイゾォオ」と耳障りな声がした。

その声の方向に走っていくと、大きな空間に出た。

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そこにはグマソと、広間の奥で縛られている月姫の姿があった。

ソウタは月姫の無事に安堵し、月姫はソウタが着てくれた事に感激していた。

そんな二人に鬼は構う事無く、

「グケケケ、コンナジョウトウナムスメヲクウナラ、ウンドウシテカラクイタクテマッテイタガ、ワザワザコロサレニキテクレテ、アリガトウヨ」

と、下品に笑いながら言った。

ソウタは、「そうか。悪いがお前が飯にありつく事はもう無い。覚悟しろグマソ」と強く返した。

鬼は、「グヘヘヘ、イママデノレンチュウヨリハタノシメソウダ」と笑い、無防備でソウタに近寄った。

ソウタは槍でグマソを突いた。

するとグマソの皮膚を貫通し、グマソは驚愕と苦痛にうめいた。

ソウタはグマソにトドメを刺すべく槍を引き抜こうとしたが、グマソに殴られ吹き飛ばされた。

ソウタは壁に叩き付けられ、激痛が全身をかけ巡った。

グマソは槍を引き抜き地面に叩き付けると、ソウタにトドメを刺そうと近寄った。

しかしソウタは即座に立ち上がると、グマソの目を指で突き刺して抉り取った。

グマソが激痛で動きを止めた隙に、ソウタは槍の元へと走った。

それを見たグマソが、させるものかとソウタを追った。

結局、グマソの方が素早く、グマソは足で槍を踏みつけた。

だがソウタは構うこと無く、全力でグマソを殴りつけた。

グマソは倒れ、ソウタは馬乗りになってグマソの顔面を殴り続けた。

それでもグマソは、全身に力を入れてソウタを吹き飛ばした。

グマソとソウタは立ち上がると、殴り合いをはじめた。

両者は何度も倒れ、その度に立ち上がり、殴り合いを続けた。

殴り合いは終始グマソ有利に進んだが、グマソはソウタの恐ろしいほどの気迫に圧倒されようとしていた。

ついにグマソは逃走を始めた。

しかし、途中でソウタの落とした狐の尾に引っかかり転んでしまった。

グマソは起き上がろうとするが、尾が引っかかって起き上がれない。

それを見たソウタは槍を拾いに行った。

グマソはやっと起き上がれたが時は遅く、ソウタに心臓を槍で貫かれてしまった。

ついにグマソは絶叫と共に力尽きた。

グマソを倒したソウタは月のいましめを解くと、ついに気力が尽きて倒れてしまった。

次にソウタが目を覚ますと、月が泣きながらソウタを見ていた。

月はソウタを抱きしめると、「よかった、ソウタが生きててよかった」と、心から嬉しそうに言った。

ひとしきりソウタに抱きついた後に、月はソウタがグマソを倒した後に起きた事を説明した。

ソウタが倒れた後、すぐに巫女装束の女性が来て、塗り薬を渡して、微笑むと「安心しろ、ソウタは死なない。助けもすぐに来る」と言った。

それで不安がる月を見て、「不安なら看病してやれ。道具は置いていってやるから」と言いました。

最後に、「救援を案内するから、待っていろ」と言ったそうです。

そして殿様が率いる武士達が、屋敷まで運んでくれたのだとか。

ソウタは不思議に思いました。

どうして殿様達は、鬼の住処の近くまで来ていたのだろうかと。

すると月は苦笑して、

「ソウタが出発してすぐに、武士達を説得して討伐隊を編成して、鬼の住処に向かったからだそうです。殿様も『ソウタだけに任せたとあっては武門の恥だと思った』と言っておりました」

と言いました。

やがてソウタの傷が治ると、近隣諸国を巻き込んだ婚礼の儀が行われました。

むろん主役はソウタと月です。

諸国の村の代表者たちも、涙ながらに感謝の言葉をソウタに捧げ、殿様も涙ぐみながら「月を頼む」と言い、遠くから来た武芸者達が、「ソウタの指南を受けたい」ともうしでたりと、終始にぎやかに進んだようです。

婚礼の儀も終わり、ついに初夜が訪れました。

「なんか、夢みたいだなあ。下級武士の俺が領地持ちになったうえに、月姫様の夫になるなんて」

月は微笑んで、

「あらあら、ソウタ殿はもっと自分の武勲を誇るべきです。なにせあのグマソを退治したのですから」

ソウタは照れて、

「俺だけの力ではありません。槍と尾を残してくれた月姫様の先祖、力をくれた不思議な女、家宝をくださり武士を派遣してくれた殿様、そしてなによりも……」

月は、「なによりもなんですか?」

ソウタは顔を真っ赤にして、

「月姫様が見ていてくれたから、俺はグマソに怯えずに戦えたんです」

月は涙を流しながら、

「ソウタにそう言ってもらえて嬉しい。私は悔しかったから……グマソと戦うソウタに、何も出来ない自分を殺したい程に憎んだのだから」

ソウタは月を抱きしめると、

「月姫様……俺はあなたを守り抜ける立派な男になるため努力します!!だから俺の恋人になってください」

月は涙を拭いながら微笑むと、

「私もあなたの女になります。だからこれからもずっと傍に居させてください」

ソウタは、「よろこんで承ります月姫様」と返した。

月は少し不機嫌になると、「これからは月と呼んでください旦那様」と言った。

ソウタは「わかりました月姫……いや、わかったよ月」と言い、月は「それではこれからもよろしくね旦那様」と言いました。

ソウタは、「ああ、よろしくな……月」と返した。

それから二人は、初めて出会った時の歌を歌った。

歌に悲しい響きはもう無かった。

これ以後も二人の話は続くが、いずれの話もこう締めくくれるので、その言葉で締めくくろうと思う。

つまりはめでたし、めでたしと

これで月姫とソウタは終わりです。

余談ですが、月姫と殿様は姪であり妹でもあるという、非常に辛い関係です。

(了)

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