ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

記憶を引き継ぐ者 r+2,447

更新日:

Sponsord Link

数年に一度、決まって現れる人たちがいる。

爺さんだったり、婆さんだったり、おっさんやおばさんだったり。
全部、違う人間だ。けれど共通しているのは、誰もが俺に向かって妙な言葉をかけてくることだった。

「久しぶりだな、友よ」
「先生……どうしてここに」

からかい半分の冗談ではない。目を逸らさず、真剣そのものの声音で、まるで本気でそう信じているかのように俺に語りかけてくる。
最初は偶然だと思っていた。たまたま頭のおかしい人間に絡まれただけだと。
けれど、数年に一度のペースで必ず違う人物が現れる。しかもどいつもこいつも、俺の親より少し年上に見える程度。若者は一人もいない。

その違和感が、俺の中にじわじわと沈殿していた。

――そして今朝、決定的な出来事があった。

電車を降りた瞬間だった。
人の流れに従って歩き出した俺の視界に、前から駆け寄ってくる中年男の姿が映った。
五十代前半くらいか。整ったスーツ姿、無駄のない身のこなし。浮浪者ではないと一目でわかる男だった。
そいつが真っすぐ俺の顔を見つめ、叫んだ。

「お父さん!」

瞬間、全身の血が凍った。
絡まれること自体には慣れている。だが、親よりも年上に見える男から「父さん」と抱きつかれた気持ち悪さは格別だった。
周囲の人間も驚いたのか、一斉に距離を取った。俺と男の周りに、ぽっかりと人の輪が空いた。

必死で振りほどこうとしたが、男は強い力で俺の腕を掴み離さない。
「違う!人違いだ!」と叫んでも、男は首を振って反論した。

「なんで他人のふりをするんですか!」

その口調は涙ぐんでいるようでもあり、怒りに震えているようでもあった。
早口で捲し立てられたが、言葉の半分も理解できなかった。

結局、駅員が駆けつけて俺と男を事務室に連れて行った。

***

静かな部屋で事情を説明するよう求められた。
俺は「知らない人に絡まれただけ」と訴えた。
だが男は違った。

彼は落ち着いた口調でこう語った。

「二十年以上前に亡くなった父は、ある術を使ったんです。魂だけでなく、記憶を残したまま次の生へ移るという術を」

普通なら人は死ねば記憶を失う。だが彼の父は違った。親族や友人にまた会うと約束し、転生して戻ってくるのだと。
最初は誰も信じなかった。だがあちこちで「父を見た」という噂を耳にし、家族も次第に信じるようになった。
そして彼は今日、やっと父と再会できたのだと……俺を指差して言った。

俺も駅員も絶句した。
目の前の男は冗談で言っているわけではない。本気で信じている。
身なりは整い、着ているスーツも高そうだ。決して妄想に取り憑かれた浮浪者ではない。
それでも「転生」「魂」などの言葉を当たり前のように口にし、俺を父親と呼んで譲らない。

あまりに異常で、怖かった。

駅員は「人違いでしょう」と結論を出した。俺も「そうに決まってる」と思おうとした。
だが男は食い下がった。

「君は父親の顔を見間違えるのか?」

その言葉は、どこか俺自身に刺さった。
確かに……人は、親しい者の顔を取り違えるだろうか?
ありえない。だからこそ、この男は俺を父親と信じて疑わない。

面倒になったのか、駅員は強引に話を打ち切った。
解放される間際、男が名刺とメモを差し出してきた。

「記憶が戻ったら連絡してください」

名刺には誰もが知る大企業のロゴが印刷され、肩書きは「執行役員」と記されていた。

***

家に帰った後、気になってその企業のサイトを開いた。
役員一覧に、確かに今朝の男の写真と名前が載っていた。

冷や汗が止まらなかった。
頭のおかしい妄想家、そんな人間が企業の上層部にいるのか?
いや、それとも……

ふと、背筋を冷たいものが撫でた。

これまで俺に絡んできた老人たちのことを思い返す。
「友達」「先生」「父さん」……呼び方はそれぞれ違ったが、どれも「俺とは別の誰か」として俺を認識していた。
それがもし、すべて同じ原因から来ているのだとしたら。

――俺は誰なのか。

本当にただの空似なのか?
それとも、俺の魂は……

脳裏に浮かぶ、あの男の言葉。

「記憶を残したまま、転生する術」

くだらない妄想だと笑い飛ばせればよかった。
だが、胸の奥に残る違和感は日増しに強くなっている。

名刺は机の引き出しの奥にしまってある。
一度も連絡していない。
それでも、電話をかければすべてが明らかになるような気がしてならない。

だが、知りたいとは思わない。
もし本当に、俺が「誰かの転生した姿」だとしたら。
俺は俺でなくなってしまうから。

それでも……時々、無意識に引き出しを開けてしまう自分がいる。
名刺に書かれた番号の並びを目で追いながら、指先がスマホを探してしまう。

まだ踏み込んではいけない。
そう思っているのに。

――次に声をかけてくるのは、誰だろうか。

その時、俺は「自分」を保ち続けられるのだろうか。

[出典:109 :本当にあった怖い名無し:2018/01/12(金) 20:53:13.64 ID:pzaqLlEa0.net]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.