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吊るされたものを下ろした日 rw+3,757-0206

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これは、幼なじみの坂口から聞いた話だ。

彼が中学生だった頃、秋の終わりに起きた出来事だという。

坂口の住む村は、地図に名前こそ載っているが、外から人が入る理由のない場所だった。周囲を低い山に囲まれ、舗装の剥げた一本道を抜けない限り、辿り着くことはできない。季節の移ろいだけが時間の基準で、村人たちは毎年同じ話をし、同じ行事を繰り返して暮らしていた。

村の裏手には、誰もが「裏山」と呼ぶ山があった。
標高は高くなく、登山というほどのものでもない。ただ、子どもたちが遊び場にするには、少し奥行きがありすぎる。大人たちは口を揃えて「入るな」と言ったが、理由を尋ねても、誰も明確な説明をしなかった。

坂口は小学生の頃、その裏山に何度も入っている。祖父に連れられて、キノコの見分け方を教わった。どの木の根元に、どの時期に、どんな形のものが出るか。祖父は決まって、深くは入らず、日が傾く前には必ず引き返した。
中学生になると祖父は山に入らなくなり、その代わり坂口は同級生の石井と連れ立って入るようになった。

その日も、二人は籠を持って裏山に入った。
秋晴れで、風もなく、足元の落ち葉は乾いていた。キノコの出来も良く、籠はすぐに重くなった。奥へ進んだという意識はなかったが、帰ろうとした時、来た道がはっきりと思い出せなくなった。

「まあ、こっちだろ」

そう言って坂口が一歩踏み出した瞬間、石井が叫んだ。

声にならない声だった。喉を引き裂くような音だけが出て、石井はその場に崩れ落ちた。
坂口は慌てて振り返り、石井の視線を追った。

木の枝から、何かが垂れ下がっていた。
二つ。人の形をしている。首のあたりにロープが食い込み、風に揺れている。

一瞬、思考が止まった。
心臓の音だけがやけに大きく聞こえ、視界の端が暗くなった。

数秒後、坂口はそれが人間ではないと理解した。
マネキンだった。服を着せられ、首にロープをかけられているだけの、人形だった。

それでも恐怖は消えなかった。
理由はわからないが、見てはいけないものを見てしまった感覚が、体の奥に残り続けた。

二人は走って山を下りた。
籠は途中で投げ捨てた。

家に戻ると、坂口は父親に話した。
父親は一度だけ顔を上げ、何も言わずに工具を取りに行った。

「案内しろ」

それだけだった。

裏山へ戻る道中、父親はほとんど口を開かなかった。ただ、時折、足を止めて周囲を見回す。その仕草が、何かを探しているようにも、確認しているようにも見えた。

現場に着くと、父親は脚立を立て、無言でロープを切った。
マネキンは鈍い音を立てて地面に落ちた。二体ともだ。

父親はそれを担ぎ上げ、「運ぶぞ」とだけ言った。

納屋に運び込まれたマネキンは、近くで見ると異様だった。人の形をしているのに、どこか歪んでいる。顔の造形も、服の着せ方も、雑で乱暴だった。

父親が服を剥ぎ取った瞬間、坂口は息を止めた。

腹部に、赤い塗料で文字が書かれていた。
途中で擦れ、完全には読めなかったが、確かに文字だった。

父親は何も言わず、もう一体の服も剥いだ。
こちらにも赤い文字があった。だが、文章は途中で切れていて、意味を成しているのかどうかすら分からない。

その場の空気が、重く沈んだ。

「……外で待て」

父親はそう言い、二人を追い出した。

しばらくして戻ると、マネキンは原型を留めていなかった。
破片は袋に詰められ、赤い文字の部分は見えなくなっていた。

父親は疲れ切った顔で、何も説明しなかった。

それから数日、父親は変わった。
夜になると裏山の方角を見つめ、時折、一人で外に出て行った。帰ってくると、靴はいつも泥で汚れていた。

石井は学校を休みがちになり、やがて転校した。理由は誰も知らない。

坂口は、その後一度も裏山に入っていない。
だが、夜中に目を覚ますと、赤い色だけが頭に浮かぶことがある。文字だったのか、ただの塗料だったのか、思い出そうとすると、必ず父親の背中が重なる。

父親は今も、あの山を振り返らない。

坂口は最後に、こう言った。

「あれは、誰かが仕掛けたものだったのかもしれない。でも、下ろしたのは、うちの親父なんだ」

その言葉の意味を、彼自身もまだ整理できていないようだった。

(了)

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