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裏山の呪い r+

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これは、幼なじみの坂口から聞いた話だ。彼が中学生だった頃の出来事だという。

彼の住む村はどこか時間が止まったかのように感じられる閉鎖的な場所であった。夏になると子どもたちは川で遊び、秋には裏山でキノコ採りを楽しむのが伝統的な習慣となっていた。坂口も子どもの頃からその裏山に頻繁に足を運んでいた。小学生の頃は祖父と共に、どの木の根元にどのようなキノコが生えるのかを丁寧に教わりながら回ったものであった。しかし、中学生になると友人である石井と共に山へ行くことが日常となっていた。

その村には、古くから「裏山には入るな」という暗黙のルールがあった。この裏山では昔から奇妙な事故や行方不明事件が度々起きており、特に昭和の初期には首吊り事件が相次いだという。村の古老たちは、それらの出来事が裏山にまつわる呪いのせいだと信じていた。しかし、坂口も石井も、それを単なる迷信や村の老人たちの過剰な心配だと考えていた。実際、幼い頃から何度も裏山に足を運び、何の問題もなく帰ってきたからである。

その日も、坂口と石井は秋晴れの空の下、山の奥深くへと進んでいった。湿り気を帯びた地面を慎重に踏みしめ、キノコが生えていそうな木陰を探して歩く。二人はそれぞれ手に持った籠をキノコで満たし、日が傾き始めたころには帰宅の準備を整えていた。

「今日は収穫が良いな!」と坂口が振り返ったその瞬間、石井が突然叫び声を上げた。

石井はその場に崩れ落ち、目を見開いたまま震えていた。坂口は慌てて駆け寄り、石井の視線の先を見た。そこには、木の枝から垂れ下がる二体の人影が見えた。それは、まるで首を吊った人間のようであった。

胸を締め付けるような恐怖に見舞われた坂口は、しばらく声を出すことすらできなかった。しかし次第に冷静さを取り戻し、それが人間ではなく、ただのマネキンであることに気づいた。

「なんだよこれ……イタズラにしては度が過ぎているだろ!」と坂口は震える声で呟いた。彼の手は冷たく、足元はふらつき、心臓は激しく鼓動していた。全身に冷や汗が流れ、思考がうまくまとまらないまま、ただ恐怖が全身を支配していた。石井もようやく立ち上がり、二人は急いで山を下りることにした。

帰宅後、坂口は父親にそのことを話した。父親は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静を装い、「仕方ないな」と呟きながら脚立や工具を準備し、三人で裏山へ戻ることになった。

裏山に向かう道中、父親は険しい表情を浮かべながら、ぼそりと呟いた。「昔からこの山には奇妙な出来事が多かったんだ。お前たちには話してこなかったが……。例えば、昔、ある男が裏山に入って二度と戻ってこなかったことがあるんだ。その後、その男を探しに行った村人たちも、何日も悪夢に悩まされたらしい。さらに、子供たちがこの山で行方不明になったこともあった。誰もその原因を突き止められなかったんだ。」坂口は不安そうに父親を見たが、それ以上の質問は控えた。父親の表情からは明らかに、何か得体の知れない恐怖に対する警戒が見て取れた。

現場に到着すると、父親は脚立を立て、ロープを切り落とした。マネキンは重い音を立てて地面に落ちた。その後、三人で協力してマネキンを家の納屋まで運び入れることにした。

納屋の中で父親はこう言った。「こんなものを放っておいたら、また誰かが見て騒ぎになる。形を崩して捨てよう。」その提案に三人は異論を唱えなかった。

父親がマネキンの服を剥ぎ取り、破壊しようとした瞬間、目を疑うようなものが見えた。

マネキンの腹部には、赤いペンキで文字が書かれていた。

「このマネキンを下ろした人間は死ぬ」

坂口と石井は息を呑んだ。震える手で父親を見上げると、父親は眉をひそめながらもう一体のマネキンの服を剥ぎ取った。そこにも同じように赤い文字が記されていた。

「このマネキンを下ろした人間の、最も愛する者が死ぬ」

その場の空気が凍りついた。納屋の中の湿気が不気味にまとわりつき、三人はしばらく無言で立ち尽くしていた。坂口は自分の鼓動が大きく響くのを感じながら、無意識に後ずさりした。

その時、父親が低い声で言った。「……お前たち、ジュースでも買ってこい。」

坂口は一瞬ためらったが、父親の真剣なまなざしに押され、石井と二人で外に出た。道すがら、石井は小声で言った。「坂口、本当に大丈夫なのか……?」坂口はうなずいたが、その顔は明らかに青ざめていた。

坂口と石井が戻ってきた時、父親は既にマネキンを粉々に砕き終えていた。手斧を振り下ろすたびに、その顔には焦りと決意が混ざった険しい表情が浮かんでいた。父親は息を荒げながら、何度も何度も手斧を叩きつけ、その音が納屋の中に響き渡った。マネキンは破片になるまで徹底的に破壊され、父親の手は力の入れすぎで震えていた。それでも父親は一瞬たりとも手を止めず、まるでその呪いを断ち切るかのように振り下ろし続けた。しかし、坂口は赤い文字が脳裏に焼きついて離れなかった。

その後、父親は村の過去について少しだけ話してくれた。「昔、この裏山で奇妙な事故が続いたことがあった。首吊り事件もいくつかあったらしい。その後、この山は呪われているという話が村でささやかれるようになったんだ……。おそらく、このマネキンもその延長線上にあるものだろう。」

父親の語る話は、坂口にとって未知のものであった。村の歴史に潜む暗い側面を、父親はこれまで一切語ろうとはしなかった。しかしその語り口には、恐怖と諦めが入り混じっていた。坂口は父親が何かを深く知っていることを悟りつつも、それ以上の問いを口に出す勇気はなかった。

次の日、石井が坂口の家を訪ねてきた。二人はいつものように庭先で遊ぶふりをしながら、昨日の出来事について小声で話した。石井はまだ恐怖に震えており、「あれ、本当にただのイタズラなのかな……」と不安そうに言った。坂口も同じ気持ちだったが、石井を安心させるために「ただのイタズラに決まってるさ」と無理に笑顔を作った。

しかし、その後も坂口は何度もあのマネキンの赤い文字を夢に見た。夜になると、ふと目が覚めて、暗闇の中であの赤い文字が浮かび上がるような気がしてならなかった。特に「最も愛する者が死ぬ」という文言は、彼の心の中に深く根を下ろし、その重みを忘れることはできなかった。

やがて、村でも噂が広がり始めた。裏山で何か不気味なものが見つかった、という曖昧な情報が村人たちの間で囁かれるようになった。中には、誰かが首を吊ったマネキンを見たという者もおり、それが呪いに関係しているという話が徐々に広まっていった。村の中には、不安に駆られた人々が神社に祈りに行く姿も見られるようになり、「あの山に近づくと祟りがある」といった噂がさらに増幅された。村人たちは裏山を避けるようになり、子供たちにも「絶対に山に近づくな」と口うるさく言うようになった。坂口はその話を聞くたびに、心臓がドクドクと音を立てるのを感じた。村人たちは裏山を避けるようになり、子供たちにも「絶対に山に近づくな」と口うるさく言うようになった。坂口はその話を聞くたびに、心臓がドクドクと音を立てるのを感じた。

一方で、坂口の父親も以前とは変わった様子を見せるようになった。無口で厳格だった父親が、時折ぼんやりと遠くを見つめるようなことが増えた。そして何度か、夜中に一人で裏山の方向に向かう姿を坂口は見た。父親は、何かを探しているのか、それとも確認しているのか、その理由を坂口に語ることはなかったが、その背中には不安と決意が交錯しているように見えた。

「結局さ、あの呪いって本当だったのかな」坂口が最後にそう呟いたときの、どこか疲れたような笑みが印象的だった。その笑みの裏には、いまだ続く恐怖と、呪いの存在への深い懐疑が隠されているように見えた。彼はそれでも、自分の中にある恐怖を隠しながら日々を過ごしていたが、あの日の記憶は決して消えることなく、彼の心に暗い影を落とし続けていた。

あのマネキンは誰が、何の目的で吊るしたのか。なぜそこに「呪い」のような言葉が書かれていたのか。その答えは誰にもわからなかったが、坂口の中でその疑問は今でも重くのしかかっている。そして、父親が一度も振り返らなかったあの背中の向こうに、何が待ち受けていたのかを知ることは、もはや叶わないのかもしれない……

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