清助が戻ってきた夜のことを、家族はあまり詳しく語らない。
夜半、山の方から足音が聞こえた。誰かが走っているようでもあり、引きずるようでもあったという。戸を開けると、清助が立っていた。帽子をかぶったまま、懐中電灯を握りしめ、息を切らしているように見えたが、呼吸の音は聞こえなかった。
「どこに行ってた」
そう聞かれても、清助はすぐには答えなかった。ただ、家の中に入ると、囲炉裏の火を見つめ、しばらく黙っていた。ようやく口を開いた時、彼はこう言ったという。
「まだ六人やった」
意味が分からず問い返すと、清助は首を振った。それ以上は何も話さなかった。
その夜、家族は誰一人として眠れなかった。理由ははっきりしている。清助が帰ってきてから、家の外で、何度も人数を確かめるような気配がしたからだ。足音が庭を巡り、立ち止まり、また動く。そのたびに、数を数えるような、低い囁きが聞こえた。
翌朝、村の太夫が呼ばれた。清助を見た太夫は、長い沈黙のあとでこう言った。
「連れていかれたとは言えん。だが、戻ったとも言い切れん」
理由は説明されなかった。ただ、清助が山に入った時間と、家に戻った時間の間に、どうしても合わない隙間があるとだけ告げられた。時計で測れば確かに五時間ほどだが、太夫の言い方では、その隙間は時間の長短ではないらしい。
「数の話や」
太夫はそう言って、それ以上を口にしなかった。
清助はその後も村で暮らし、成長し、やがて外へ出ていった。特別に不幸になったわけでもない。ただ、幼い頃の話を尋ねると、必ず同じ言葉を繰り返した。
「六人やった。せやから帰れた」
それが、条件なのか、確認なのか、未だに分からない。
村では昔、恋人に捨てられた女が身を投げた場所があり、そこでは七人の男が死んだとされている。事故、病、行方不明。死に方は揃っていない。太夫ですら手を出さなかった場所だが、村人はいつしか数が満ちたと思い込み、恐れなくなっていた。
だが、清助が見たのは六人だった。
一人足りない。
では、その一人は誰なのか。清助なのか。あるいは、清助を迎えに来た誰かなのか。
この話を聞かされた友人は、今でも夏の夕方になると、庭に出る前に必ず数を数える癖が抜けないという。家族の人数、近くにいる人の気配、そして自分自身。
数が合っているかどうか、それだけが気になるのだ。
[出典:七人ミサキ/959 :埋め立て:2003/06/26 00:24]