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摺鉢山の足音 r+3,986

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現役のアメリカ海兵隊士官から聞いた。

酒が入ると口も滑らかになるもので、「あれは本当に……おかしい夜だった」と、ぽつり漏らしたことがあった。

太平洋戦争末期、硫黄島。
地獄のような火線が交わる摺鉢山での激戦は、歴史の教科書にも載る有名な話だが、語り継がれていない夜の記憶があるという。
その士官の祖父が、あの山で戦った一人だった。

激戦の末に摺鉢山を制圧した翌朝、星条旗が立てられた。誇り高き海兵隊の象徴として。しかし……次の朝には、旗は折れて倒れていた。
再び立てる。だがまた折れている。
三度目には、カメラマンまで呼び寄せて儀式のように撮影をしても、翌朝には、鉄製の旗竿がまるで素手でねじ折られたように壊れていた。

冗談では済まされない。敵の残党か、スパイか。
海兵隊の若手士官が自ら夜間見張りに立った。
小銃を構え、夜の摺鉢山を見据える。霧が肌を這うように流れ、静寂の中、じりじりと湿った土の匂いが鼻腔を刺激する。

午前二時過ぎだったという。
斜面の上方から、微かに、複数の足音。乾いた石を踏む音。
咄嗟に銃を構え、引き金に指をかけた。息を殺し、足音の主が射程に入るのを待つ。

だが、足音は突然止まる。静寂が濃くなる。
山肌に染み込むような緊張感の中、風に紛れて「何事かの囁き声」が聞こえた。日本語だったという。
その瞬間、斜面を駆け下りる足音が炸裂した。
士官は銃を乱射しながら追いかけた。もう一人の兵も続いた。

夜の山を、叫びと銃声が裂いていく。
「トマレ!」
祖父は、覚えたての日本語で叫んだらしい。敵が止まるとでも思ったのだろうか。

だが返ってきたのは、前方からの凄まじい応戦射撃だった。
銃弾がシュンシュンと左右を掠め、咄嗟に斜面を滑り降りるように逃げたが、足元が崩れ、何かの空洞に落ちた。
塹壕だった。日本軍の残した、土と血の匂いが染み込んだ穴。
頭を打ち、気を失ったという。

明け方、海兵隊の部隊が駆け上がってくる銃声で目を覚ました。
が、そこには無残な光景が広がっていた。
三十名近くが、味方の銃弾で倒れていた。
その夜の騒動で、星条旗は夜間の掲揚を中止された。

しかし不可解なことに、夜が明けて再び旗を掲げに山頂へ登ると、毎朝、登ってくる足跡だけが残っていたという。
鉄の旗竿をへし折る力強い足跡が。
しかも、下っていく足跡は一つもない。

硫黄島の最後の日本兵が収容されたのは終戦から一月以上たった昭和二十年九月。
だが、星条旗を倒し続けたのは、誰だったのか。
亡霊か、生き残りか、それとも……。

その士官は、最後にこう漏らしていた。
「幽霊も怖いけど、生き残った人間の執念ってのは……もっと怖い」

彼の祖父は、あの一件の後、部隊内で「ジャップを追いすぎた男」と呼ばれ、しばらく誰からも口をきかれなかったそうだ。

追撃戦の末に追い詰められたのは、むしろこちらだったのかもしれない。

[出典:191 :本当にあった怖い名無し:2013/11/09(土) 14:05:53.64 ID:fH/aSlNG0]

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