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【語り継がれる怖い話】溶接r+6673

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大学1年の冬、僕は自分の部屋で英語の課題に追われていた。

授業にもそれなりに出て、単位取得を目指して頑張っていた頃だ。

ショボショボした目で辞書の細字を指で追いかけ、甘えてくる子猫の小さな手をかわしながら、ようやく最後のイディオムの翻訳を終えた。疲れた目を擦り、テキストをしまう。
夜の一時半を回っている。寝ようかと思い、あくびをしたところで、部屋の隅のパソコンが目に入った。ここ数日、インターネットに繋いでいなかったことを思い出す。

パソコンの前に座り、電源を入れる。とりあえず、地元の人々が集まるオカルトフォーラムを覗いてみようと思った。本来は黒魔術などの西洋オカルトが話題の中心だが、常連たちは堅苦しくなく、何でも話していた。

その時も、心霊スポットに関する話題で盛り上がっていた。ログを遡ると、伊丹さんという商科大3年生の男性が、突発的なオフ会(突撃オフ)を提案しているのを見つけた。

「隣の市の廃工場の地下に、わけのわからない空間があるらしい」

伊丹さんは、その廃工場に関する噂話を仕入れてきていた。

「ユキちゃん、前のご主人様が遊びに行くってさ」

パソコンの前で、そばに来た子猫を抱き上げる。メスの白猫で、つい先日、伊丹さんの家からもらってきたばかりだ。伊丹さんのアパートに野良猫が住み着き、子猫を4匹産んだため、知り合いに譲っていたらしい。

「だだっ広い地下室の床に血のような染みがあり、夜中にそこにいくと、血の上にぼんやりと幽霊が見えるらしい」

書き込みには、今すぐ突撃するので参加者募集、とあった。タイムスタンプは1時間以上前。何人か反応していたが、「今からは無理」という声ばかりだった。

30分ほど前に、「う~ん、じゃあツレと二人で行ってくる」という伊丹さんの最後の書き込みがあった。その後、「今来た。もう行っちゃった?俺も行きたかったな。場所がよく分かんないし、報告待ちにするわ」という書き込みもあったが、それにも反応はなかった。

「前のご主人様はもう遊びに行っちゃったみたいだねえ」

子猫に話しかけながら、身体を揺らす。当時は携帯で掲示板を更新する習慣がなかったので、オフ会組が戻るのを待つしかなかった。廃工場への突撃がどうなったのか気になってはいたが、猛烈な睡魔に襲われ、眠りについた。そして、翌日の出来事を知る由もなかった。

翌日の夜、自宅でぼんやりしていると、PHSが鳴った。オカルトフォーラム仲間の「みかっちさん」からだった。面白いことがあったから来い、ということらしい。テンションが高く、何を言っているのか半分理解できなかったが、とりあえず行くことにした。寒波が来ており、外は異常に寒かった。子猫を残し、厚着をして部屋を出ると、自転車で目的地に向かった。

いつものオフ会はファミレスや居酒屋、あるいは「coloさん」という女性のマンションの一室だったが、この日はオカルトフォーラム管理人で最古参の「和気さん」のアパートが集合場所だった。和気さんは普段オフ会に参加しないが、フォーラム創設者であり、一目置かれる存在だった。一度だけ彼の部屋に行ったことがあり、物静かな人で、僕のオカルト道の師匠に似ていると感じたことを覚えている。

寒空の下、アパートに到着。ノックすると、話し声が聞こえる。躊躇なく中に入り、「ちわ」と挨拶して靴を脱いだ。

「お、来た、少年」

みかっちさんが手を振る。暖房の効いた部屋に数人が車座になっていた。全員見知った顔だった。常連の一部は、二次会として誰かの家に集まり、「闇の幹部会」と密かに呼んでいた。僕もなぜかそのメンバーに入れてもらっていたが、気の合う仲間が集まっているだけだった。

そこにいたのは、みかっちさん、ワサダさんという女性2人と、和気さんと伊丹さんの男性2人。ワサダさんと和気さんは社会人だった。伊丹さんといえば…昨日の突発的な突撃オフのことだ。その後どうなったのだろう?ツレと行くと言っていたが…。

その時、伊丹さんの様子がおかしいことに気付いた。目に隈があり、表情が険しく、しきりに貧乏揺すりをしている。僕の顔を見ても「猫元気?」とも聞いてこない。気まずい雰囲気だ。

「ええと、今来た人もいるから、もう一度見てみる?」

ワサダさんが提案する。「そうね。見よう見よう」とみかっちさんが頷く。「じゃあ、最初からでいいかな」和気さんがビデオデッキを操作し始める。どうやらみんなでビデオを見ていたらしい。全員がテレビ画面に目を凝らす。一瞬砂嵐が映った後、ビデオが始まった。

ビデオは、懐中電灯が暗い夜道を照らす場面から始まる。画面が揺れている。歩きながら撮影しているようだ。伊丹さんと彼の友人の藤原さんの様子が映し出され、廃工場に向かう様子が記録されていた。道に迷ったり、山鳩の声に怯えたりしながらも、廃工場に到着。斜めに傾いた扉から地下室のような場所に侵入する。

内部は朽ち果てた工場で、錆びたドラム缶や破れた袋が散乱していた。床の中央には、月の光が当たる部分があり、床が変色していた。奥に金属製の蓋を見つけ、叩いてみるが反応がない。伊丹さんが蓋をよく見ると、縁が溶接され、開けることができないことに気付く。先に到着したはずの者たちが、この蓋を開けて地下室に入ったと言っていたのに、溶接されていたのだ。伊丹さんは動揺し、絶望的な表情を見せる。

その後、工場内を探したが、地下への入り口は見つからず、ビデオは終わる。和気さんがビデオを止めると、沈黙が流れる。「というわけで、伊丹くん勘違いの巻、でした」みかっちさんが明るく言うが、場の雰囲気は重かった。

「だったら、あの電話はどこから掛けてたんだよ」

伊丹さんが苛立ちを露わにする。みかっちさんはいたずらだったと説明するが、伊丹さんは電話で廃工場の状況を正確に伝えられていたことを主張する。

みかっちさんは、以前、廃工場を訪れた人がいたずらで電話したのだろうと推測する。伊丹さんは相手の名前を知らないが、聞いたことのない声だったという。みかっちさんが伊丹さんの携帯電話の番号を確認すると、見覚えのない番号だった。

和気さんがアクセス解析の話をする。IPアドレスでは特定できない、と説明する。伊丹さんは警察沙汰になるかもしれないと不安げだ。

その時、玄関がノックされ、「京介さん」という女性が入ってきた。彼女の登場で空気が和らぐ。再びビデオを見ることになり、僕は蓋のアップシーンで、蓋の縁から伸びる細い黒い線のようなもの、つまり髪の毛のようなものがあることに気付く。

「髪の毛だ…」

僕が呟くと、伊丹さんは悲鳴を上げる。みかっちさんは信じられない様子だ。髪の毛が蓋の隙間から出ているとすると、蓋の下に人が閉じ込められている可能性がある。

伊丹さんは、電話で話していた相手の中に女性がいたことを打ち明ける。最初は隠していたが、辻褄合わせではないと言う。和気さんは、伊丹さんから最初に相談を受けた際に、女性がいたことを聞いていたと話す。

直前まで電話で話していた相手が、溶接された蓋の下に閉じ込められている…その想像に恐怖が襲ってくる。その空気を破り、京介さんが「行ってみるか」と提案する。

結局、京介さん、みかっちさん、伊丹さん、僕の4人が廃工場に向かうことに。ワサダさんは彼氏がいるので一人にならないようにとみかっちさんに促され帰ることになった。

伊丹さんの車で廃工場に向かい、山道を歩く。ビデオと同じ廃工場に到着し、傾いた扉から中に入る。黴臭い匂いと、廃墟特有の不気味な雰囲気に包まれる。床の真ん中に月の光が差し込み、奥に金属製の蓋がある。蓋は溶接され、縁から髪の毛のようなものが生えている。

京介さんが僕に、髪の毛を抜き取るように指示する。僕は震える手で髪の毛を抜き取ると、毛根がついていることに気付く。同時に、ビデオを見た時よりも髪の毛が増えていることに気づく。

その瞬間、伊丹さんとみかっちさんが悲鳴を上げる。伊丹さんは携帯電話で相手に通話しようと試みるが、着信音が蓋の下から聞こえてくる。その直後、大きな音がして京介さんがドラム缶を蹴飛ばした。しかし、それは幻聴だった。

京介さんは伊丹さんの携帯電話を確認し、「木田 弘子」という名前と番号が表示されていることを示す。その番号は、和気さんの部屋で確認した番号と同じだ。

伊丹さんは「分からない」と動揺し、その直後、何かが落ちる音がする。見ると、天井の穴が小さくなっている。まるで蓋を閉じているような動きだ。

京介さんが全員を促し、扉から外へ脱出する。廃工場から離れ、京介さんは伊丹さんの携帯電話から「木田 弘子」を削除する。伊丹さんはその名前を知らないと主張する。

その日は解散となり、誰も廃工場の出来事について語り合わなかった。伊丹さんはビデオを処分すると告げる。

翌朝、僕はオカルト道の師匠に出来事を話す。師匠は面白そうに聞き、その後、師匠が廃工場に行き、切断機で蓋を開けたという。蓋の下には何もなく、ネズミの骨が少しあっただけだったという。

師匠は、その場所で以前、身元不明の少女の白骨体が発見されたという噂を話した。その少女の名前が「木田弘子」だった可能性を指摘するが、師匠は確信は持てないと答える……

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