短編 心霊

バー舞姫~龍土町奇譚(りゅうどちょうきたん)【ゆっくり朗読】3500

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七年くらい前(平成六年・1994年頃)タクシーの運転手さんに聞いた話です。

522 名前:百太郎 投稿日:2001/02/24(土) 20:08

当時、六本木にある会社に勤めていましたが、けっこう夜遅くなることが多かったんですね。

まあ、仕事半分遊び半分ってところです。

で、当然終電はなく、タクシーで帰ることになります。

私はそのとき横浜市に住んでいて、六本木からだと四十分くらいかかります。

確か四月か五月頃だった気がします。うっすらと雨が降ってたか雨上がりでした。

その日も六本木で二時過ぎまで遊んでた私は、アマンドのある交差点から防衛庁、龍土町のほうへと、タクシーを拾おうとテクテク歩いていました。

 

龍土町の防衛庁の前のガソリンスタンドあたりでタクシーが客待ちしていたので、私は乗込みました。

で、先ほども言いましたように家まで四十分以上かかるので、タクシーに乗るたびに運転手さんに、

「何か今まで怖い体験とかしたことないですか?客を乗せたけど、いなくなったとか、定番でもいいんで」

と聞きまくってたんですね。黙って四十分乗ってるのもつまんないので。

その日も同じように聞きました。

すると、しばらく思案してたふうでしたが、

「お客さん、実は私自身そういった体験を子供の頃からよくするほうなんです……」

と運転手さんは言って、いくつかのちょっと洒落にならない話をしてくれましたが、それはまたの機会にします。

運転手さんは最近あった話もしてくれました。

「この間乗せたお客さんの話しなんですがね、ああ、あの日もちょうど今日みたいな雨模様の日でした。

ほら、さっきお客さんを乗せたあの場所で客待ちしてたんです。

あそこに飲み屋がたくさん入ってるビルがあったでしょ?

そこのエレベーターから男女五人が出てきたのが見えたんですね。

で、ああタクシーに乗りにくるなと感じたんで待ってたんです。私らそういう勘はすぐれてますから。

でも、ビルの庇の下で雨を避けるようにして、何かガヤガヤと議論してるような感じなんです。

しばらくそうやって話しをしていたんですが、そのうち二人は停めてあったベンツに乗って行ってしまった。

残りの三人が客待ちしているタクシーのほうへ歩いてきて、一人の男の人が私の車に乗込んできました。

どちらへ?と聞くと『野方まで』と言ったきり、何か深刻そうな顔をしてるんです。

私らもあまり余計なことはお客さんに言いませんから、黙っていたら、その人が

『運転手さん、信じてくれるかなあ?今の店がすごく変だった……』と言うんです。

私も『いや、信じますけど、どうしたんですか?』って言ったんです」

で、その運転手さんが聞いた話をしますね。

その五人は某有名キー局の長寿番組のスタッフでした。

麻布で食事をしてひと飲みしたあと、スタッフのひとりが「知り合いがやってるバーに行きたい」と言い出したそうです。

なんでも、そのマスターは体をこわしてしばらく入院していたそうですが、最近退院したらしいと聞いたので店に行きたいとのことでした。

誰も文句もないので、行こう行こうということになり、その龍土町の店に行ったそうです。

店に入って、そのスタッフがマスターとしばらくぶりのあいさつをしたあと、奥のテーブル席に五人は座ったそうです。

店はビルの五階だか六階にあって、十五、六人が座れるカウンターとテーブル席が三つくらいの、まあよくあるタイプのバーとのこと。

五人は水割りを飲みながら他愛のない話しをしていたが、次第にみな無口になって行ったそうです。

マスターの知り合いのスタッフ(運転手に話しをした人。エヌ氏)が、みんな静かになったので

「なんだよ、みんなどうかしたのか?」

と聞いたんですが、四人とも

「いや、別に……」

とか

「何でもないよ」

などと言い、なんか気まずそうだったそうです。

みんなのあまりに妙な様子にイライラしてきたエヌ氏は、

「なんなんだ、お前ら、いいかげんにしてくれ!」

と声を荒げると、他のスタッフたちが言いにくそうに、

「この店はおかしい。気持ち悪い」

と言ったそうです。

エヌ氏にせっかく連れられてきたわけだし、なんか言いにくかった、とのことでした。

エヌ氏も、自分が紹介した店にケチをつけられたような気もして、

「なに言ってんだ、お前らは。なんにも感じないぞ、オレは。普通のバーじゃないか」

と言い、マスターが病み上がりで見た感じ確かにちょっと無気味だったそうなので、エヌ氏はそのせいじゃないかと小声で話しました。

すると、みんなは

「そうじゃない。なんかあの辺がすごくいやな感じなんだ」

と、店の入り口辺りを指したそうです。

「別になんにもないじゃないか」

とエヌ氏は席を立って、入り口に行きました。

入り口の前には襖二枚分くらいの竹のついたてがおいてありました。

エヌ氏は「なんにもないぞ」とかなんとか呟きながら、ついたてを何気にみたそうですが、特に問題がなく、ただ、小さい和紙人形が四つ貼り付けられていたそうです。

和紙人形って知ってるかなあ、和紙でつくった平べったい人形ね。

あれが四つちょうど、おとうさん、おかあさん、男の子、女の子って感じであったんだそうです。

エヌ氏は席に戻り、みんなに

「なんにもなかったぞ。ただ和紙人形があるだけじゃん」

と言うと、女性のスタッフが、

「そう、それがすごく怖いの。私は店に入った瞬間に毛が逆立って、もう早く出たかったんだけど、悪くて言えなかった。みんなにコソコソ聞いてみたら、同じ思いをしていることがわかった。ここ危ないから早くでよう」

と言ったそうです。

別の男性スタッフも

「オレもあまり詳しくは言わないけど、トイレに入ったときにそう思った」

と言い出したので、エヌ氏はまったくその手の話は信用しないたちなので、

「お前らどうかしてるよ」と言って、トイレにわざと入ったそうです。

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エヌ氏はトイレで普通に用を足していたそうですが、いきなり両肩にズシンとなにかが乗ったそうです。

それはもう錯覚だとかなんとかといったものではなく、あきらかになにかが乗った感覚だったそうです。

もちろんトイレの中には誰もいません。

エヌ氏は用を途中でやめ、アワアワと席に戻っていきました。

そしてみんなに「や、やっぱり店を出よう」と言いました。

驚いたのはみんなのほうです。

あれだけなんにも感じないと言っていたエヌ氏がトイレから真っ青な顔をして出てきて、「出よう」なんて言うんですから。

みんな「どうした?なにがあった?」と聞いてきましたが、エヌ氏は勘定を済ますと、なにも言わずエレベーターにみんなと乗って降りたそうです。

そしてビルの下で雨をよけながら、みんなになにがあったのかを話していたわけです。

……その場面を先ほどの運転手が見ていたんですね。

運転手さんはひと通り話を聞くと、エヌ氏にこう言ったそうです。

「お客さんの話は信じますよ。もうその店には行かないほうがいいですよ。現にお客さん、いま連れてきちゃってますよ」

今度は私が驚きました。

「え? じゃあ、運転手さん、なにか見えたとか……」と聞くと、

「いや、そのお客さんを乗せる前に三組くらいお客を乗せてましたが、みんな酔っ払いでギャーギャー騒いでも窓ガラスはぜんぜんくもらなかった。それが、そのお客が乗ってきたとたん窓ガラスがいっせいにくもったんです。あと、私は剣道とか武道をちょっとやってるんですけど、後ろの座席で大勢の者の気配を感じてたんです。ときどきいるんですよ、そういう人。でも、そのお客についてたのは多かったなあ」

なんて言うんです。

その運転手さんは結局、ビビリまくったエヌ氏についていた霊を、野方の家の前で活を入れて追い払いました。

私はすごくその店に興味を覚えたので、運転手さんに店の名前を聞いたかと訊ねました。

すると「なんだったっけなあ。たしか、『舞う』だか『踊る』だかの字が入ってたような気がしますね」

私は友人に話して、翌日の夕方にそのビルに行ってみました。

ビルの入り口に入ってる店の看板がズラリとならんでいて、私らは手当たり次第に看板をチェックしていきました。

すると、『舞姫』というバーがありました。

私と友人は顔を見合わせ、五階にあるその店に行くことにしました。

五階でエレベーターを降りると、そのフロアに三軒バーが入っていて、一番奥に『舞姫』はありました。

お約束っぽくていやなんですが、そのフロア全体がお線香くさいんです。

私が『舞姫』のドアノブを引くと、カランとドアの鈴が鳴りました。

私は真っ先についたてを見ました。そこには運転手さんの言ってたとおり和紙人形が貼り付けられていました。

その和紙人形を見たとき(友人も見た)、これは絶対にヤバいと思いました。

普通、和紙人形って、目とか鼻がないんですが、そこにあったのは顔になっていて、目は真っ赤でつりあがっていて、黒目が変な位置についているんです。

しかも口から小さい牙が出ていました。

私たちは、人形を見た瞬間に非常階段からかけおりました。

運転手さんから聞いた和紙人形の話と、私の実体験の話は以上です。

店の名前(一部変えました)を出したのは、去年再び行ってみたときにもうなくなってたからです。

友人とその店に行ったあと、龍土町ビルに関する情報を集めてみたんですが、実に洒落にならない話ばかり出てきたんです。

(了)

参考:龍土町について

龍土町(りゅうどちょう、麻布龍土町、あざぶりゅうどちょう)は、かつて東京・麻布にあった町である。

龍土町は、江戸時代から1967年(昭和42年)まで存在した町名で、町域は現在の東京都港区六本木7丁目に含まれる。

1907年(明治40年)から1947年(昭和22年)までの期間を除いては、「麻布龍土町」という町名で当時は祭りで割と賑わう地であった。

「龍土町」の名称は、漁師が多く居住していた海に面する村・愛宕下西久保の猟人村(りょうとむら)が、元和年間に麻布領内に代地を与えられた際に「龍土」と改称したという説もある。

現在の地理では、旧防衛庁の跡地に建設された複合施設「東京ミッドタウン」外苑東通りを挟んで向かい側の通りの一画にあたる。

龍土町には、1900年(明治33年)に日本で初めてのフランス料理店として開業し、文豪らが集うことでも知られたレストラン「龍土軒」があったほか、二・二六事件を首謀した歩兵第3連隊が置かれていた。

また、江戸川乱歩の小説に登場する探偵・明智小五郎が事務所を構えているのも龍土町という設定であった。

最近の発展で飲食店もふえ、又ビルのオーナーも深夜営業するお店を多様に入れるので明け方まで営業している店が増え、治安の悪さが目立つようになってきて、朝方のひったくりや器物損壊や暴行など今までなかった傾向になってきている。

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