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見えざる呪詛の応酬 r+5242

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これは母から聞いた話だ。

母の親戚に、体格のいい叔父さんがいた。彼は特にスポーツをやっていたわけでもないのに、腕っぷしがとても強かった。農家に生まれた彼は、幼い頃から田畑での重労働を手伝い、自然と筋肉がついたのだという。実直で口数も少ない彼のことを、周囲は「頑固な力持ち」として頼りにしていた。

そんな叔父さんが、結婚したばかりのある夜、奇妙な行動を見せるようになった。最初におかしな様子を見せたのは、結婚からひと月ほど経ったある夜のことだった。時間は夜の12時を過ぎ、みんなが床に就いたころ、不意に彼がうなり声を上げ、目を見開いて立ち上がった。寝ぼけているのかと思えば、言葉にならないうめき声を発しながら、自分の首を両手で絞め始めたのだ。奥さんが驚いて必死に手を引き離そうとしても、その腕は鉄のように固く、簡単にはほどけなかった。

その後も、毎晩のように同じ時間になると、叔父さんは寝室を飛び出し、まるで見えないものに操られるように屋内を歩き回った。時には二階のベランダに駆け上り、そこから跳び降りようとすることもあり、家族はそのたびに必死で彼を取り押さえた。それらの出来事は、毎晩30分ほど続くと、まるで何事もなかったかのように静かに収まる。そして、叔父さんは決まってそれらの記憶を一切覚えていないのだった。

こんな不穏な夜が1週間ほど続くと、家族も疲れ果て、精神的にも追い詰められていった。皆が夜を恐れるようになり、「このままでは本当に叔父さんが命を絶つかもしれない」と心配するようになった。そして、あちこちに助けを求めたが、原因は分からず、解決策も見つからない。そんな折、遠い親戚にあたる一人のおばさんが「よいお祓い屋さんがいる」と口にしたのだ。

紹介されたのは、近所の寺で法事などを手伝っている年配の女性だった。母が言うには、そのおばさんは特に風変わりな印象もなく、どこにでもいそうな普通の中年女性だったという。ただ、家に入るなり叔父さんの顔を見ると、いきなり「あんた、呪われてるよ。心当たりはないですか?」と、真顔で言った。

叔父さんは面食らったようだが、思い当たることが一つだけあった。最近結婚したばかりの奥さんには過去にやくざのような男がついており、その男から無理やり別れさせるようにしたという経緯があったのだ。奥さんもその男とは本気で付き合っていたわけではなく、いつまでもズルズルした関係が嫌になってのことだったが、男が何かしら逆恨みしている可能性はあり得た。

叔父さんが事情を説明すると、おばさんは静かに頷き、冷静に言い放った。「そんな男自身に呪いをかける力はないと思うよ。きっと誰かを金で雇っているのね。でも心配いらない、私が祓っておくから。今晩、しっかりお祓いしておくから、次の一週間は様子を見てごらんなさい。それで何もなければもう大丈夫だよ。ただ、一週間後にはちゃんとお礼を用意しておいてね」

その夜、おばさんは部屋の奥に籠り、誰にも見せない形で1~2時間ほどの祈祷を行った。家族が聞き耳を立てても、お経のような声が時折漏れるだけで、何をしているのかはさっぱり分からなかった。ただ、祈祷が終わった後の静寂は、何かが浄化されたような澄んだ空気を感じさせた。

それから奇妙なことに、叔父さんの奇行はぴたりと収まった。家族は半信半疑ながらも、次の夜も、その次の夜も叔父さんが暴れることはなく、久々に安らかな眠りにつくことができた。

一週間後、おばさんが再び訪れ、約束どおりの謝礼を受け取った。母は、以前からこのおばさんに興味を抱いていたようで、世間話にかこつけていろいろと質問をしてみたのだという。そして一番気になっていたことを尋ねた。

「相手の男が、またお金を使って呪いをかけ直すようなことがあるかもしれないですよね? それが心配で……」

すると、おばさんは少し含みのある笑みを浮かべ、静かに言った。

「いいえ、一週間経っていればもう心配ないわ。私の祓いは、呪いをただ取り除いただけじゃないの。私はその呪いを返したの。だから、相手はもう私の祓いと同じ仕事をする人と戦わなきゃならない。それができるなら、また仕掛けてくるかもしれないけど……まあ、そう簡単じゃないはずよ」

母は驚きとともに、不気味さを覚えた。祓いとは、ただ受けた呪いを無にすることだとばかり思っていたが、そうではなく、「返す」こともできるのだという。まるで見えないところで、不気味な力同士の争いが始まったような気がして、寒気が背筋を這ったという。

最後に、母が感謝を述べると、おばさんは微笑みを浮かべ、何かを吹っ切ったようにこう呟いた。

「こんな仕事をしているとね、私も畳の上で死ぬとは思っていないのよ。でも、人には迷惑かけないつもりよ」

母はその時の笑顔が今でも忘れられないと言っていた。穏やかでありながら、底知れない恐怖が染み込んでいるような、そんな得体の知れない笑みだったそうだ。

(了)

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