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短編 工事現場の怖い話 n+2025 オリジナル作品

点検待ち nc+

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晩夏の夜、月明かりだけが建設現場をぼんやり照らしていた。

新米の現場監督だった俺は、気の弱い先輩と二人で、夜の見回りをしていた。

現場の一角には鉄筋工たちの飯場があり、酒が入ると騒ぎになる。近隣から警察を呼ばれたこともあり、防犯のための巡回だった。
その夜は、妙に静かだった。

懐中電灯を振った先に、人が倒れていた。
血まみれの職人だった。

作業服は黒く濡れ、地面には血が広がっている。まだ温かそうだった。顔は苦痛で歪み、喉の奥から空気が抜けるような音がしていた。
声をかけたが、意味のある反応はない。

今月は安全月間で、俺は釘の処理も鉄筋の養生も徹底していた。それでも、なぜこうなったのか分からなかった。

首に巻いていたタオルで止血しながら、先輩が震える声で救急車を呼んだ。
その間、職人は薄く目を開けた。焦点の合わない視線が、俺たちのあたりをなぞる。責めるでも、助けを乞うでもない。ただ、何かを確認するようだった。

病院に着く前に、血は止まらなかった。
到着後、医師から失血が致命的だったと告げられた。

それから数か月後、今度は昼間だった。

秋田から出稼ぎに来ていた造作大工が、三階で倒れたという連絡が入った。
駆けつけると、床に横たわり、目を閉じ、いびきのような呼吸をしていた。

事務所まで運び、椅子に座らせ、名前を呼び、体を揺すった。
反応はない。
救急車を呼び、病院へ向かったが、彼も戻らなかった。

二人の死に、共通点はないとされた。
事故と病気。現場としては、それで終わった。

その夜、夢を見た。

暗い現場に、二人の職人が並んで立っていた。
血も傷もない。
ただ、同じ方向を向いている。

その先にあるのは、夜の見回りをしている俺と先輩だった。懐中電灯を手に、足元ばかりを照らしながら歩いている。

二人は何も言わない。
近づいても、振り返っても、こちらを呼ぶ気配はない。
ただ、そこに立っている。

目が覚めたあと、胸の奥に重たいものが残った。
あのとき、二人は助けを待っていたのではなかったのかもしれない。
あるいは、俺たちを見ていたわけでもないのかもしれない。

夜の現場で、視線を感じることがある。
振り返っても誰もいない。
それでも、懐中電灯だけは消せない。

暗がりのどこかで、
誰かが立ち止まり、
点検が終わるのを待っている気がする。

(了)

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