短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

拉致監禁【ゆっくり朗読】4300

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私は誘拐・拉致監禁されたことがあります。

1990年代はじめの頃、その時の話です。

私を拉致ったのは同じマンションに住む女の人で、私は風呂場に閉じこめられました。

縛られたりはしなかったのですが、「逃げたら殺す」と脅され、ドアの外にも何か積まれているようで、逃げることができませんでした。

危害を加えられるわけでもなく、閉じこめられただけだっとのと、同じマンション内だということで、すぐに助かるのではないかと、望みを持ってはいました。

だからといって眠れるはずもなく、時間の感覚も分からなくなって、風呂場にいることが現実かどうかもよく分からなくなってきた私は、バスダブの中に座って、ぼうっとしていました。

そんな時に、当時つきあっていた彼氏が、突然風呂場に現れました。

彼は「大丈夫か?」とバスダブの中の私に声をかけ、私は訳が分からず、「なんでここにいるの」とききました。自分の頭がおかしくなったのかと思ったので。

彼は「たぶんこれ夢だと思うんだよ。俺はいま夢見てるんだ。ここは美也子の家の風呂場だし……」と言います。

当時住んでいたマンションの作りは変わっていて、風呂場とトイレが別々になっているのに、風呂場はユニットバスです。

私は「ここは同じマンションの別の部屋で、変な女の人に閉じこめられてるの」と答えました。

何号室か訊かれましたが、大体の階しかわかりません。

彼は、私がいなくなってから二日目になることを教えてくれた後、「絶対に助かるから頑張れ」と言ってくれました。

そして、風呂場の扉を開けて普通に出ていったので、やっぱり幻覚を見たのだと思いました。

その後、私は救出されました。

私が閉じこめられてから三日目でした。

病院に警察がきて事情聴取されたのですが、一通りの話をした最後、いきなり彼氏の話をきかれました。

彼が警察の人に、「同じマンションの人に閉じこめられている夢を見た」と言ったのだそうです。

普通はそんなことを真に受けたりしないそうですが、彼が部屋の番号まで詳しく話すので、聞き込み調査の際にちょっと気にかけていたら不審なところがあり、発見に至ったのだそうです。

私は自分が見た幻覚のことを思い出しましたが、私は部屋の番号を知らなかったので不思議に思い、後日、お見舞いに来た彼にききました。

彼は大学で、私のこともあり寝不足と注意不足だったこともあり倒れて階段から落ちてしまったそうです。その時その夢を見たそうです。

風呂場で私とした会話もそのままでした。

ただ、夢の中で風呂場から出た後、玄関のドアから出て部屋番号を確認したところで目が覚めた、と言っていました。

彼は「階段から落ちたときに死にかけて、幽体離脱でもしたのかな」と笑っていましたが、この不思議な体験で、事件自体はトラウマにならずにすんだと思っています。

結婚前に彼が亡くなってしまった事のほうが、よっぽど引きずっているのですが……

(了)

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