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昔、警備員をしていた時のことだ。

入社して間もない頃、俺は機械警備の担当として、ある区域を任された。昼間は先輩と巡回し、夜は待機所で警報に備える。区域内には夜間巡回が必要な物件が三つあり、その一つが元病院の建物だった。通称Aと呼ばれていた。

Aは山の中にあり、すぐそばを大きな川が流れている。八〇年代後半に移転して廃墟になり、地上二階、地下が一階。解体の話も出たらしいが、途中で止まったと聞いた。理由は知らない。

敷地は高いバリケードで囲まれ、南京錠を外して中に入る。落書き、割れた窓、腰まで伸びた草。巡回ルートは決まっていて、外階段から二階に入り、建物内を一周して一階へ降りる。地下もあるが、そこは巡回対象から外されていた。

一回目の夜間巡回は問題なく終わった。二階の廊下は妙に生ぬるく、懐中電灯の光が病室の跡を照らす。設備は撤去されているが、古い雑誌や紙切れが床に残っていた。人の気配はない。

一階を確認し、地下へ続く階段の前まで来たとき、先輩が首を振った。「地下はいい。何もない」。それで引き返した。

待機所に戻り、仮眠に入った。目覚ましを二時半にセットした。

気づくと暗かった。どこかの階段の下に立っている。上の方から、かすかに光が差しているのが見えた。登らなければいけないと思ったが、足が動かない。見下ろすと、足首に何かが絡みついている。ツタのようで、だが冷たく硬い。

上から音がした。板のようなものが次々と落ちてくる。避けようとしても体が動かず、積み重なっていく。光が塞がれ、仰向けに倒れた。息が詰まり、胸が潰れる。ここにいてはいけない、そう思った瞬間、意識が途切れた。

目が覚めると車内だった。汗で服が濡れている。時計は二時二十分。先輩は眠っている。

理由は分からないが、どうしても病院へ行かなければならない気がした。先輩を起こし、一人で巡回に出ると告げて車を出した。

二回目の巡回で、俺は地下への階段を探した。配置図通りの場所にそれはあった。狭い階段を懐中電灯で照らしながら降りる。途中の踊り場の窓から川が見えた。そこで立ち止まり、上を見上げて光を向けた。

光は差していなかった。それでも、目の前の光景は夢で見たものと同じだった。言葉にできないが、違いがなかった。

それ以降のことは断片的にしか覚えていない。

警備の仕事を続ける中で、事故や事件に立て続けに遭った。配置換えをしても同じだった。同僚は俺との勤務を避けるようになり、俺は辞めた。

次に勤めた工場でも、俺の周囲だけで器具が消え、事故が起きた。原因は分からないまま、高熱が続き、そこも辞めた。

今も体温は三七度を下回らない。病院では異常なしと言われる。

夜になると、あの地下階段を思い出す。思い出そうとしているわけではない。息が浅くなり、胸が重くなる。登ろうとした感覚だけが残る。

なぜあそこへ行ったのかは分からない。ただ、今も時々思う。あの時、もし登れていたら、何かは違っていたのだろうか。

それとも、俺は今も、あの階段の途中にいるのか。

[出典:250:2007/11/09(金) 17:37:12 ID:rRGvWjsF0]

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