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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

先に決まっていたこと rw+7,789-0114

更新日:

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同居していた頃のことを、私は今でも正確な時系列で思い出せない。

あの家にいた時間は、昼と夜の境目が曖昧で、言葉がそのまま形を持って漂っていた。

姑との摩擦は日常だった。
怒鳴り声や悪意のある言葉が、壁や床に染み込み、家そのものが私を拒んでいるようだった。妊娠中の身体には、それだけで十分すぎる重さだった。

ある日、近所に住む友人が訪ねてきた。
彼女は占い師だ。肩書きより先に、妙に「いるべきでない場所」に馴染む人だった。

姑は玄関に立った瞬間から彼女を嫌悪した。
視線、声の高さ、間の取り方、そのすべてが攻撃だった。
話題が私の腹に移ったとき、空気が一段重くなった。

「女腹なんて、役に立たない」
「跡取りが欲しかった」

そのとき、友人が姿勢を正し、姑をまっすぐ見た。
表情は穏やかなままだった。

「お姑さんは、お孫さんを抱けません」

声は低く、断定だった。
占いでも予言でもない、ただの事実を告げるような言い方だった。

姑は何も言わず、その場を出て行った。
逃げるように、近所の家へ入っていった。

それ以降、家の空気が変わった。
姑は私の腹を見なくなった。
声をかけると、一瞬だけ遅れて反応する。まるで、私ではない何かを見ているようだった。

ほどなく夫の栄転が決まり、引っ越しが決まった。
同居は解消された。
娘が生まれても、姑には会わせなかった。夫が拒んだ。

友人は時折訪ねてきて、「当たってよかったね」とだけ言った。
私はそれを冗談として受け取れなかった。

それからしばらくして、姑が突然現れた。
新住所は教えていなかった。
娘は幼稚園に行っていた。

姑は無言で家に入り、仏間に向かい、父の位牌を抱えて出て行った。
呼び止めると、振り返りもせず言った。

「孫を見せたら返す」

翌日、義実家に行った。
位牌は見つからなかった。

「もう捨てたわ」
「場所? 知りたい?」

その言葉で、身体の芯が冷えた。
父が、行き場を失ったような気がした。

そのとき、携帯が鳴った。
友人だった。

「今、義実家にいるよね」
「下手なことしないで」

一時間後、友人が現れた。
手には、父の位牌があった。

「不思議でしょ」
「どうして私が持っているか」

姑は何も言えなかった。
視線だけが、位牌と友人の間を行き来していた。

「お父さん、怒ってる」
「あなたが、娘だけじゃなく、孫にまで触れようとしたから」

友人は淡々と続けた。
次に何かしたら、どうなるか分かるでしょう、と。

その場で姑は崩れ落ちた。
床に広がった染みを、誰も見なかったことにした。

後で聞いた。
位牌は、山裾の藪に捨てられていたらしい。
人が倒れても気づかれない場所だったという。

友人は言った。

「見てるよ」
「守ってるって」

それが父なのか、別の何かなのか、私は確かめていない。
確かめる必要もない。

今も、夜になると位牌の前で、時々、気配が増える。
守られているのか、見張られているのか、判断はつかない。

ただ一つ分かっているのは、
あの言葉は予言ではなかったということだ。

すでに決まっていた事実を、先に聞かされただけだった。

[出典:399 :名無しさん@HOME :2007/02/27(火) 16:54:33]

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