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誰にも言うな rw+4,358-0728

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親父が死んで、今日でちょうど一年になる。

うちの教会に一周忌という習慣はない。それでも朝から、何かの区切りをつけなければならないような気がしていた。

親父は神父だった。

十字架を掲げ、聖書を読み上げる一方で、幽霊はいると言っていた。いるどころか、自分には見えるのだと。

そのせいで、ほかの神父たちからは異端扱いされた。悪魔に憑かれているとまで言われたこともある。

それでも親父のもとには、二週間と空けず、妙なものを抱えた人間がやってきた。

金は取らなかった。

祈るだけでは足りないと言い、見えない相手にまで話しかけた。

そんな親父が、一年と少し前、教会の裏で首を吊った。

遺書はなかった。

ある日の夕方、学校から帰ると、教会の前にパトカーが停まっていた。

入口には警官が二人立っていた。母に聞くと、黒沼さんが暴れて倒れたのだという。

黒沼さんは四十五歳くらいの独身女性で、少し前から教会に通っていた。

最初に来たときから、「母親に呪われている」と繰り返していた。

親父は、そんな親はいないと諭した。

それでも黒沼さんは譲らなかった。

「長い間、顔を見に行っていないから」

その言い方が妙だった。

俺はてっきり、母親はもう亡くなっているのだと思った。

だが、生きているという。

それなら会いに行こうと、親父と母は黒沼さんを連れて出かけた。俺は教会に残された。

数時間後、母から迎えに来るよう電話があった。

教えられた住所へ行くと、家の前に救急車とパトカーが何台も停まっていた。

塀の外までゴミ袋が積まれていた。

風が吹くたび、腐ったものの臭いが流れてきた。

外で母が落ち着かず歩き回っていた。

声をかけようとしたとき、家の中から黒沼さんが出てきた。

両肩を警官に支えられていた。

腕には、人間の頭蓋骨を抱いていた。

腐臭が夜気を押しのけた。

俺はその場で吐いた。

母も、近くにいた野次馬も吐いていた。

少し遅れて、親父が家から出てきた。

顔は青ざめ、服には黒い泥のようなものがこびりついていた。

「残念だけど、亡くなっていたよ」

声が掠れていた。

後日、黒沼さんは教会で何度も泣いた。

母親を孤独死させたことを悔やんでいるのだと、周囲は思っていた。

俺もそう思おうとした。

だが、しばらくすると、黒沼さんは母親の悪口を言うようになった。

最初は愚痴だった。

それが次第に罵声になった。

誰もが耳を塞ぎ、避けるようになった。

それでも親父だけは、黙って聞き続けた。

ある日、黒沼さんがいつものように母親を罵っていると、親父が初めて口を挟んだ。

「あなたのお母さんは、首を絞められても、あなたを恨んではいませんよ」

黒沼さんは口を開けたまま、しばらく動かなかった。

それから泣き叫び、親父に掴みかかった。

「殺してやる」

何度もそう叫び、床に倒れた。

あとで母が言った。

「お父さん、最初から知っていたんだよ」

その夜、俺は親父に聞いた。

「あれでよかったのか」

親父は答えなかった。

しばらく床を見つめたあと、小さな声で言った。

「誰にも言うなよ」

黒沼さんが自首したという話は、今も聞かない。

そして親父は、その数か月後に死んだ。

今日、教会の鍵を開けた。

誰もいない礼拝堂には、蝋燭の焦げた甘い匂いと、古い木の湿った匂いが残っていた。

一年前と同じだった。

祭壇の前に立つと、別の臭いが混じっていることに気づいた。

腐ったチーズのような、あの家の臭いだった。

床を見ると、祭壇の裏へ続く黒い染みがあった。

濡れた靴跡のように、一つずつ並んでいた。

最後の跡は、親父が首を吊った梁の真下で止まっていた。

その上から、掠れた声がした。

「誰にも言うなよ」

見上げることはできなかった。

ただ、俺の背後で、女が泣いていた。

[出典:941 本当にあった怖い名無し 2007/11/05(月) 22:26:21 ID:hsrpxV6l0]

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