親父が死んでからちょうど今日で一年たった。
941 本当にあった怖い名無し 2007/11/05(月) 22:26:21 ID:hsrpxV6l0
キリシタンだから一周忌とかないんだけど、親父はキリスト教の神父だったけど幽霊の存在も認めていた。
同じ体質の俺もキリスト教に入るかどうか未だ迷っている。
ほかの神父や教会の人たちからは異端というか悪魔憑き扱いされていた親父だったが、不可解な存在に悩む人たちを無償で助け続けた人生だった。
我が家と親父を襲ったさまざまな悲劇をここに書いてもいいだろか?
誰にも言うなと言われたが親父の生き様を自慢させていただいてもいいだろうか?
はじめに。
キリスト教にもたくさんの種類があるのでよそのことはよくは知らないが、キリスト教の考え方は基本的に死んだ人間がこの世に化けてでることはないとされている。
つまり幽霊というものはいない。という考え方だ。
幽霊が見えたならそれは悪魔が幻覚を見せていると考える。
親父は小さな頃から幽霊というものがよく見えたらしい。
気が狂いそうになる中で救いを求めたのがキリスト教だったと聞いている。
だがそれでも幽霊は見え続けいつしかそれ(霊)を救えるようになったのだという。
それは神様のお力添えがあったからで自分は幸せなのだと常に言っていた。
教会には二週間に一度はこの手の悩みを持った人が現れていた。
親父は一人一人の話を親身に聞いて悩みが解決するように頑張っていた。
でもやっぱり狂ってしまって、一年前に首を吊って死んだ。
神でも救えないほどいろんな出来事があった。
自慢話に聞こえるかも知れないが自慢の父の話を書かせて欲しい。
ある日のこと、学校から帰ってくると、ウチの小さい貧乏教会にパトカーが止まっていて、中に警官が二人いた。
何事かと母に聞くと、なんでも「黒沼さん(仮名)が暴れて倒れた」との事。
近所の人が大声にびっくりして、勝手に気を回して警察を呼んだらしい(そのくらい色々あることで有名だった)
そのまま黒沼さんは警察に抑えられるようにパトカーに乗せられた。
親父もあとで警察に来るように言われていた。
黒沼さんは四十五才くらいの独身のおばさんで、最近教会に通うようになった人だ。
こんなことを書くと語弊があるのだが、日本で宗教に入る方は心に病気を持っていたり、社交性が低いことが多い。
無宗教の人から見ると、みんなでワイワイやっているように見えるが決してそんなことはない。
人知を超えた神という存在があるからこそ、まとまれる人たちであって、通常のルールやマナーでは浮いてしまうような人が集まってしまうこともある。
決してその人達が変人なわけではなく、ウチの教会で言えば、いわゆる見えてしまう人や憑かれてしまっている人だと言っても過言ではない。
もちろん、基本的にはいい人達なのは言うまでもないが……
黒沼さんは「自分の親に呪われている」と言って教会に来た。
親父さんは「子を呪うような親はいない」と言って慰めたが、黒沼さんは呪われていると自己暗示にかかっていた。
「なぜ呪われていると思うのか」という親父の問いに「長い間、顔を見に行っていないから」と答えた。
驚いたことに黒沼さんの親は生きているのだ。
呪われているなどと言うからてっきり亡くなっているのだと思っていた。
そうとなれば話は早い。黒沼さんと親父と母で親御さんに会いに行くことにした。
無論、学生で信者ではない俺はお留守番だ。
数時間後、母から車で迎えに来るように言われて、電話で聞いた住所をカーナビに入力して向かった。
着いた先はゴミ屋敷と呼ぶにふさわしいオンボロの家で、なんとも言えない匂いを放っていた。
すでにパトカーと救急車が数台来ていて、夜のゴミ屋敷を赤く照らしていた。
家の外でオロオロした母を見つけ「いったいどうしたんだ?」と聞いている最中、家の中からこの世のものとは思えない異臭とともに、頭蓋骨を抱いた黒沼さんが警察に両肩を支えられて出て来た。
その臭いと異様さに、俺と母は胃の中のものを道端に戻した。野次馬たちも数人戻していた。その後を追うように親父が出てきた。
真っ青になりながら「残念ながら亡くなっていたよ」と言った。
服は泥?だらけになっており、チーズのような、なんとも言えない匂いが染み付いていた。
俺は服を捨てるように頼んで、パンツ一枚の親父を警察まで送っていった。
後日。
母親を孤独死させてしまった黒沼さんを教会のみんなでなぐさめた。
ただあのゴミ屋敷を見た俺としては、たとえ親とはいえ見捨ててしまうだけの事情があったのだろうと察した。
それでも黒沼さんの中で罪悪感があったのだろう。だから呪われたなんて思ってしまったのだと思っていた。
落胆する黒沼さんは毎日のようにお祈りに参加した。
俺の目から見ても少しづつ元気を取り戻しているように見えた。
元気になった黒沼さんは逆に亡くなった母親の悪口を言うようになった。
はじめは教会のみんなも黙って聞いていたのだが、だんだん耳に耐えられなくなって黒沼さんを避けた。
それでも親父は黙ってうなずいて、黒沼さんの暴言を聞いていた。
ここからは母に聞いた話。
問題の冒頭の黒沼さんが暴れて倒れて教会に警察が来た日の話だ。
いつものように暴言を吐き続ける黒沼さんについに親父が言った。
「あなたのお母さんは首を絞められても、あなたを恨んだりはしていませんよ」
その言葉を聞いた黒沼さんは泣き暴れながら「殺してヤルー」と何度も叫んで気を失ったという。
母は「お父さん、はじめから知っていたんだよ」と言っていた。
黒沼さんが自首をしたという話は聞いていない。
親父にこれでよかったのか?と尋ねると
「誰にも言うなよ……」とだけ言った。
(了)