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短編 山にまつわる怖い話 n+2026

九ノ間 nc+

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九ノ間という場所がある。

実家のある島はそれなりに古い歴史を持っていて、島の人間なら誰でも、子どもの頃から「入るな」と言われている区域がいくつかある。その中でも九ノ間は、理由を聞かされないまま名前だけが残っている場所だった。

地図には載っている。目の前までは舗装路もある。だが、九ノ間へ続く坂道だけが不自然なほど手付かずで、草と赤土がむき出しの急坂になっている。家も畑も何もない。ただ森と海があるだけだ。

高校生の頃は、工事しづらいからだろうとか、土地の所有権が面倒なんだろうとか、勝手に納得していた。大人になれば分かることもある。そう思っていた。

社会人になってしばらくしてから、島の寺の跡取り息子と知り合った。Aさんという。年は近く、特別に霊感があるとか、そういう噂を聞いたこともなかった。普通の人だった。

ある夏、二人でサザエを取りに行く話になった。島の周りはすでに他所から来た連中が荒らし尽くしていて、ボンベを担いで岩をひっくり返すから、まともに残っている場所が少ない。その中で九ノ間だけは、誰も近寄らないせいか、海がきれいでサザエも多いという話だった。

九ノ間までの道は、九十九折りのような下り坂が三百メートルほど続く。足を踏み外せば、そのまま転げ落ちそうな坂だが、降り切った先に広がる海は、異様なほど澄んでいた。岩も大きく、割れ目も深く、確かにサザエには事欠かなかった。

何度か通った。決められたサイズ以上のものだけを持ち帰り、焚き火をして帰る。それだけのことだ。特別なことは何も起きなかった。

ある日、サザエを取り終えて火を起こしていると、Aさんがぽつりと言った。

「ここ、昔は別の名前だったらしいよ」

詳しく聞くと、昔このあたりには賭場があったという。島の外からも人が集まり、下り坂の左右の森では、負けて首を吊った人間が何人も出たらしい。どこまで本当かは分からない。島にはそういう話がいくらでもある。

Aさんは続けて、「昨日、帰り道で変なの見た気がする」と言った。気がする、という言い方だった。はっきり断言しなかった。

だからその日は、それを最後にやめようという話になった。理由はそれで十分だった。

帰り道、上り坂の途中で、突然Aさんの原付きが止まった。エンジン音が途切れ、何度キックしてもかからない。

次の瞬間、Aさんが何も言わずに原付を放り出し、全力で走り出した。

呼び止める暇もなかった。置いていかれる感覚に背中が冷え、反射的に追いかけた。結局、二人乗りで島の中心部まで戻った。違反だとか、そんなことを考える余裕はなかった。

家に着いてから、玄関先でAさんが震えた声で言った。

「坂の上から、見られてた」

大きな黒い目玉みたいなものが、こちらを覗いていたという。原付が止まった瞬間、後ろから何かに引っ張られる感触があったとも言った。

私は何も見ていない。ただ、その話を聞いている間、ずっと背中がぞわぞわしていた。見えないことが、逆に怖かった。

その後、九ノ間が昔は「苦ノ間」と書かれていたことを知った。苦しみの間だ。だから何だと言われれば、それまでの話だ。

だが今でも思う。
なぜあの場所だけ、舗装されなかったのか。
なぜ誰も荒らさなかったのか。
なぜ、あの日まで何も起きなかったのか。

答えは出ないまま、九ノ間は今も島に残っている。
名前だけを変えられて。

[出典:696 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2017/07/11(火) 14:33:48.51 ID:6mFl8eee0.net]

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