これまでいくつもの奇妙な体験を記録してきたが、今回の話は過去形にできない。
今もなお進行中で、しかも身近で、逃げ場がない。念のため断っておくが、身元に関わる部分には最低限のフェイクを混ぜてある。理由は単純で、まだ終わっていないからだ。
事の発端は、父が小学生だった頃に遡る。今からおよそ五十年前、町内にある古い公共施設を、祖母が深く信頼していた人物が訪れた。その人は地元では「先生」と呼ばれていたが、資格や肩書きは誰も知らない。拝み屋だとか霊能者だとか、そういう言葉も後付けに過ぎない。
先生は施設に入らなかった。建物を一目見ただけで、祖母にこう言ったという。
「ここには、あってはならないものが二つある」
理由も説明もなかった。ただ「早くどうにかしなさい」とだけ言い残し、その日は帰った。祖母は気味悪がりながらも、その後の生活に追われ、結局何もしなかった。
それから長い年月が過ぎた。施設は老朽化しながらも使われ続け、町内では自治会が管理を引き継いだ。数年前から、奇妙なことが重なり始めた。自治会の役員を引き受けた人間が、次々と病に倒れる。事故に遭う。入院したまま戻らない。どれも偶然と言えば偶然だが、頻度が異様だった。
父は、祖母が聞いたあの言葉を思い出したらしい。
「あの建物の中に、まだ何かある」
父は町内会に掛け合い、倉庫や資料室を調べ始めた。一昨年、そのうちの一つが見つかった。詳細は書けないが、明らかに用途不明で、管理記録も存在しない物だった。父はそれを撤去した。その直後、不運は一時的に収まった。
だが、完全には終わらなかった。
今年に入って、残るもう一つが問題として浮上した。それは施設の奥、普段は使われない部屋に置かれていた。誰が持ち込んだのか、いつからあるのか、誰も覚えていない。古いが、壊れてはいない。むしろ、手入れされていたようにも見えた。
父は言った。
「これは、残しちゃいけない」
町内会の決定で、それは施設から運び出され、厳重に梱包されて倉庫に移された。次は焼却処分の予定だった。
その直後から、妙な動きが始まった。
市の広報誌に、「その物を歴史的資料として記録すべきだ」という投書が届いた。写真を掲載し、文化的価値を検討するべきだという内容だった。差出人は匿名だった。父はその話を聞いて、露骨に顔をしかめた。
「残ろうとしてる」
何が、とは言わなかった。
さらにおかしなことがあった。以前、その物を写真に撮ったはずの町内会役員に父が確認したところ、「撮った覚えはない」と言う。しかし、家を探してもらうと、古いネガが一つだけ見つかった。本人は「こんな写真、見たことがない」と首を傾げていた。
数日後の金曜の夜、父が言った。
「写真、変なのが写ってるらしい」
翌朝、その写真を見た。古い木造の室内から外を撮った構図で、窓の向こうには木々が見える。しかし、ガラスには人の顔のような影が重なっていた。
「反射じゃないのか」
そう言った自分に、父は首を振った。
「室内から外を撮って、室内が写るわけないだろ」
改めて見ると、確かにおかしかった。視線を感じる。顔とは断言できないが、こちらを見ている何かが、写真の中心にある。加工や偶然では説明できない存在感があった。
父はその写真を封筒に戻し、「これは見ちゃいけないものだ」と言った。後日、写真も含め、倉庫の中身は焼却処分された。
ここで終わるはずだった。
だが、最近になって、父が同じ話を繰り返すようになった。
「二つ、あったよな」
最初に撤去した物の話をすると、父は曖昧な顔をする。
「そんなの、最初から一つだった」
記録を見せても、父は納得しない。町内会の議事録を確認すると、確かに「撤去」は一度しか行われていないことになっている。写真のネガも、焼却したはずなのに、なぜか自分の机の引き出しに入っていた。いつ入れたのか、覚えていない。
最近、町内では再び不運が続いている。役員ではない人間が倒れ始めた。父はそれを見て、静かに言った。
「まだ終わってない」
何が終わっていないのか、聞かなかった。聞いてはいけない気がした。
こうしてこの話を書いている理由も、正直よく分からない。誰かに読ませたいのか、記録を残したいのか、それとも確認したいだけなのか。ひとつだけ確かなのは、あの施設には、最初から本当に二つあったのかどうか、もう誰にも分からないということだ。
そして、どちらが残っているのかも。
当コンテンツは、読者さまのコメントを受けてリライトしたものです。2025年06月16日(月)
原作:
これまでさまざまな話や体験を書いてきたが、今回は身近で進行中の恐ろしい出来事について記録することにした。
身元や現状が特定されると面倒なことになるため、少しだけフェイクを混ぜる。
また、実際にモノを見ていなければ害はないと思うが、もし何か異常があれば管理人さんに報告してほしい。
この話の始まりは約50年前、父が小学生だった頃に遡る。
父の母(自分の祖母)にさまざまなことを教えてくれた先生(非常に徳の高い本物だとされる)が、町内のある施設に訪れた際に、
「この施設にはあってはならないものが2つある。早くどうにかしろ」と言ったそうだ。
その施設に入る前に、そう警告を発したという。
時が経ち、ここ数年、町内の役員になると不幸が続き、その役職を誰もやりたがらなくなった。
父は、先生が言っていた「2つの曰く付きのもの」が原因だと考え、町内で動き出した。
「祖母ができなかったことだから、自分がやらなければならない。後世に回すわけにはいかない」と父は言っていた。
そして、ついに一昨年、その1つを撤去し、残るは1つだけとなった。
その残り1つが原因で現在、厄介なことが起きている。
今年、その残り1つを厳重に処置して倉庫に片付けることができたが、あとは燃やすだけだった。
ところが、ここから不思議なことが起こり始める。
まず、市のどこかの誰かが、その曰く付きのモノの写真を広報に出すべきだと投稿した。
もしその話が進み、歴史的なものと見なされれば、撤去に反対する意見が出るかもしれないという懸念があった。
父はこれについて、「執念が働いて、撤去されないように手を回しているんだろう」と言っている。
そして、ある役員に「お前、写真を撮ったことあるだろ?あれどうなった?」と聞いたところ、
本人は撮った記憶がなかったが、家を探してみるとネガ(データ)が見つかった。
その金曜日の夜、父から話しかけられた。
「写真、色々写ってるらしいぞ」
「マジでwうわー見てみたいけど、見たらまずいよな~」
「簡単に見るべきものじゃない」
「で、写真はどうした?」
「処分しろとは言ったけど」
「曰く付きのモノは実際に見たことないし、自分には関係ないだろうな~」
「あんなモノはこの世から消さなければならないものだ。で、何が写ったと思う?」
「色々って言うなら、顔とか手とか目とか影じゃないかな?」
「なんにせよ、この世には本物のものがあるもんだ。作者も誰がいつ、何のために飾ったのかもわからん…持ち主も家系が断絶しているだろう。持っていたら一週間で我慢できなくなるようなものだ」
次の日の朝、写真(プリントアウト)が持ってこられた。
処分方法がわからず迷った結果らしい。
そして、自分もその写真を見た。
(以下、その時思ったこと)
「なんじゃこりゃ?見にくい画像だな~外の風景?木々が見えるけど、ガラスに反射した外が写っているのか?」
じっと見ていると、父が言った。
「お前にはまだ見えないか?」
「いや、これって後ろの風景、こんなの?」
「馬鹿か。施設内から外が写るわけないだろ」
「ワハハwこれすげぇ、あっ、見える見える(笑)しかもここに女性が恨めしそうにじっと見てるじゃん。これヤバイなw」
写真の内容を説明すると、
古い木造建築の室内から外を撮った写真で、外には木々が茂っており、建物の近くに顔はぼけて見えないが人影がある。
その写真の上に、元々の曰く付きのモノが隠れるように写り込んでいた。
これ、合成か?合成じゃないなら、心霊写真のレベルじゃないよ…念写だよ、念写!!
しかも女性が恨めしそうにと言ったが、顔も見えないし、イメージで出てきたんだろうな!!
今まで生きてきて、テレビや雑誌で見た心霊写真なんて、子供だましに見える!!
それに、この写真で外の人物が室内に入ってきたら、死ぬか発狂するだろうな!!
これは呪物じゃなくて、厄災だよ、チクショー!!
怖さを超えて笑いながら思った。
そして父はその写真を預かり、丁寧に処分し、燃やした。
世の中には本当に人の手には負えないものがあるとは思わなかった。
今はその厄災が何事もなく無事に消え去ることを祈っている。
(終わり)
[出典:投稿者「見えない人 ◆jPQ0updc」2017/06/07]