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履歴のない着信 rw+1,564

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大学時代、俺にはたまに幽霊を見る癖があった。

部屋の隅に立っている人影。
夜道の向こうで、車のライトを抜けても消えない女。

見えても、関わらなければ問題はない。
そうやって距離を取ってきた。

例外が一人だけいた。
中学からの友人、Aだ。あいつも“見える”側だった。代々そういう家系で、距離の取り方を知っているやつだった。

大学で再会してからも、俺たちは踏み込まないまま続いていた。

あの夜までは。

深夜一時過ぎ。
スマホが震えた。Cからだった。

大学で知り合った女友達。
浮かれやすく、楽しそうに街を消費するやつだった。

「先輩とドライブしてるの。トンネル行くんだって」

名前を聞いた瞬間、嫌な感触が背中を撫でた。
地元で有名な場所だった。長くて、暗くて、入ったら何かを連れて帰ると言われているトンネル。

「帰れよ」と言った。
Cは笑った。

そのとき、通話の向こうで音がした。

「ォォォオオオオオ……」

風のようで、違った。
空洞の奥で、何かが擦れている音。

自分の部屋の窓を開けた。
無風だった。

「そっち、風強いか?」

「え?ぜんぜん」

音は続いていた。
Cの笑い声に重なって、ずっと。

やがて、それは声になった。

「あ゛ああ゛ああああああ……」

喉の奥が裂けたような、潰れた叫び。

Cは気づいていなかった。
通話は続き、笑い、途切れた。

翌日、Cは普通に講義に出てきた。
少し眠そうだっただけだ。

「何もなかったよ」と言った。

その日の夜、俺は通話履歴を確認した。

なかった。

Cからの着信が、ない。

発信も、ない。

時刻も、空白のまま。

スクリーンショットを撮ろうとした瞬間、
通知が一件来た。

【不在着信 A】

着信時刻は、あの通話中だった時間と重なっていた。

Aに電話をかけた。

「お前、昨日かけてきたか?」

沈黙。

「……何時だ」

時刻を言うと、Aは低く息を吐いた。

「出なくてよかったな」

「何が」

「その時間、俺はかけてない」

背中が冷えた。

その瞬間、スマホのスピーカーから、あの音が流れた。

「ォォォオオオ……」

通話はしていない。
スピーカーもオンにしていない。

それでも、音は鳴った。

俺は動けなかった。

音の奥で、声が混ざる。

「……く……」

誰の声か分からない。

「……ず……く……」

喉が詰まる。

「……○○……」

俺の名前だった。

Aが向こうで何か言っている。
聞き取れない。

スマホの画面には、通話中の表示がない。

それでも音は続く。

俺はようやく気づいた。

あの夜、Cは一度も自分の名前を言っていない。
俺も、呼んでいない。

なのに、あの声は知っていた。

Cの本名も。
俺の名前も。

そして、さっきから、もうひとつ混ざっている。

小さく、はっきりと。

今、これを読んでいる人の名前を。

スピーカーは、どこにありますか。

[出典:805 :幽霊トンネル ◆txdQ6Z2C6o:2010/07/03(土) 00:38:45 ID:yk2rbvQ60]

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