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アベック登山者 r+7,038

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これは、自分の山仲間が体験したという話だ。

舞台は北海道の大雪山。季節は厳冬。彼は単独で登っていた。朝から天気は上々、登山には理想的な日和だったらしい。が、そこは冬山の気まぐれというやつだ。数時間もしないうちに空が曇り、視界は白一色に塗り潰された。

引き返すには既に深く入り込みすぎていた。前に進むしかない。だが、ホワイトアウトの中で現在地すら分からない。

「……ビバークか?」

野営の覚悟を決めかけていたが、幸運にも一時的に空が明るんだ。うっすらと山の稜線が見え、地形を読み取った彼は、避難小屋の方向を即座に見極めた。

「よし、行ける」

吹雪が再び荒れ狂う中、二時間の行程を踏破。避難小屋の入口には、先行者が雪をかき分けた形跡があった。

中に入ると、奥でシュラフに包まれた二人が静かに眠っていた。どうやらパーティー登山のようだ。音を立てぬよう食事を済ませ、彼も横になった。

どれほど眠っただろう。ふと耳に、ぼそぼそと話す声。男女の会話だ。明日の天気、行程のこと、押し殺した笑い声も混じる。厳冬の山中で女性の声とは珍しい。だが、楽しそうなやりとりに、彼は微笑ましさを感じていた。

「明日の目標が一緒なら、同行してもいいな」

そう考えながら、深い眠りに落ちていった。

翌朝、目覚めると異様な気配。十人ほどの男たちが避難小屋にどやどやと入ってきた。

「……あんた、生きてるのか!?」

ぽかんとしている彼に、一人が顎で奥の二人を指した。

「あれ、オロクだ」

聞けば、三日前に無線で救助要請があったという。悪天で救助が遅れ、発見時にはすでに凍死していた。小屋に遺体を一時安置し、今日ようやく収容に来たとのことだった。

では、昨夜の寝息、話し声は何だったのか? 幻聴か? 疲労や寒さによる幻覚は、冬山では珍しくない。

しかし彼には、確かめなければならないことがあった。

「あのオロク、男女のカップルですか?」

一人が無言で頷き、「新婚旅行だったんだと」と沈んだ声で答えた。

救助隊の一人は彼を知っていたらしく、「今日は日が悪い。さっさと下山した方がいい」と忠告した。だが彼は、全行程を予定通りこなし、無事下山した。

この話をしてくれた時、彼はこう締めくくった。

「いやー、あの夜聞こえた話し声がさ、すごく幸せそうだったんだよ。だからさ、やっぱ山っていいなって、思ったわけ」

……そんな彼も、数年前アルプスの山に抱かれ、消息を絶った。

今ごろは、どこかの稜線で微笑んでいるのかもしれない。

[出典:250 :星烏:2004/09/02 00:55 ID:O2DZlD1u]

(了)

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