ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 洒落にならない怖い話

また、か rw+4,594

更新日:

Sponsord Link

高校を卒業するまで住んでいた町の外れに、白い二階建てがあった。

今では「幽霊屋敷」と呼ばれている家だが、当時はただの空き家だった。庭は手入れの跡を残し、外壁もまだ新しかった。窓ガラスは曇っているのに、崩れた気配はない。放置された、というより、時間だけがそこを避けているように見えた。

あの家で、一家三人が死んだ。

首を吊った父親。殺された母親と姉。助かったのは妹ひとり。父親が姉に手をかける場面を見て、押入れに隠れたから助かったと聞いた。

妹は遠縁に引き取られ、町からいなくなった。家はそのまま残った。取り壊されもせず、売られもせず、ただ閉じられた。

高校一年の夏、俺と唐沢と武井は、その家に入った。

理由は単純だ。写真を撮って、学校で笑い話にするつもりだった。怖い話を、自分たちの武勇伝に変えるつもりだった。

夜十時過ぎ。自転車を押して裏手に回り、勝手口の小窓をこじ開けた。板を外し、ガラスを割り、鍵を外した。侵入は思ったより簡単だった。

台所は整っていた。埃は積もっているが、食器は棚に収まり、冷蔵庫も閉じられたまま。昨日まで誰かが住んでいた、と言われても疑わない光景だった。

唐沢がガラスで指を切った。血が床に落ちた。

「大丈夫だって」

そう言いながら、彼は廊下へ出た。

止まった柱時計があった。針は午前三時十七分を指していた。事件の時間かどうかは知らない。ただ、その数字だけが、なぜかはっきり覚えている。

廊下の左の扉には、何枚も御札が貼られていた。

右は風呂とトイレ。何もない。俺たちは左を選んだ。

御札を剥がし、扉を開けた。

書斎だった。

仮面。奇妙な装飾。読めない文字の本。机の上に油紙に包まれた小さな平板があった。土器のようでもあり、皿のようでもある。不定形のそれに、見慣れない文字が刻まれていた。

唐沢がそれを手に取った。血が、縁に触れた。

家が鳴った。

地震ではない。下から押し上げるような、軋みだった。床がわずかに沈み、壁が呼吸するように膨らんだ気がした。

唐沢は平板を机に戻した。だが血は拭わなかった。

玄関で写真を撮ろうとしたとき、二人の視線が俺の背後に固定された。

振り返ると、書斎の扉が開いていた。

さっき閉めたはずだった。

唐沢が階段を駆け上がった。武井が続いた。俺も追った。

二階の一室。窓は新聞紙で覆われ、空気は冷えていた。

下から声がした。

「ぉーぃ」

助けかと思い、武井が応じた。

「どこだ」

返ってきたのは低い声だった。位置が近い。廊下ではない。部屋の前だ。

唐沢が呟いた。「逃げなきゃ」

だが、彼は動かなかった。

俺は窓へ向かった。新聞紙を剥がした。振り返ると、唐沢と武井が立っていた。背を向けたまま。

「ロープがある」

唐沢が言った。

「持ってこよう」

武井が答えた。

二人は部屋を出た。

隣室から、引きずる音がした。

笑い声が続いた。抑揚のない、乾いた笑いだった。

窓は開かなかった。鍵は動かない。叩いても割れない。

二人が戻ってきた。ロープを持って。

一本、机に置いた。

もう一本、梁にかけた。

俺を見なかった。

「ここに縛ろう」

「そうだね」

机が引きずられ、床を打つ音が響いた。

『ビタン……ビタン……』

それが止んだとき、部屋は静かになった。

机の上に、三本目のロープがあった。

誰が持ってきたのか、見ていない。

振り返ると、窓の外に目があった。

顔はない。半円の影の中に、二つの暗い点だけ。

「ずっと待っているよ」

「そうだね」

廊下から軋みが近づいた。

俺は押入れに飛び込んだ。

暗闇の中で、息を殺した。外で何かが引きずられ、止まり、また動いた。

やがて強い光が差し込み、戸が開いた。

「ここにはいません!」

自分の声で目が覚めた。

俺は押入れの中で発見された。

唐沢と武井は、二階の窓から首を吊っていた。

薬物反応はなし。遺書もない。

俺の証言は採用されなかった。報告書には「集団ヒステリー」とあった。

ただ、現場の刑事が、押入れを見て呟いた。

「また、か」

その意味を、誰も説明しなかった。

書斎で撮った写真は没収された。返ってこなかった。

俺はあの平板の文字を調べたことがある。

正しいかどうかは知らない。

だが、ある古語辞典に、似た音の語があった。

《冥へ通じる穴》。

それ以来、夜になると窓に目がある。

半円の影の中で、二つの点がこちらを見ている。

「ずっと待っているよ」

「そうだね」

あの家が空き家のままなのは、取り壊せないからではない。

空いていないからだ。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 洒落にならない怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.