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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

パブの常連客 r+7602

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中学時代の同級生から聞いた話。

彼女が学生の頃、暮らしが苦しく、時給千四百円のパブで夜な夜な働いていた時期があったという。そこに、間宮という男が毎晩のように通っていた。年齢は三十四、真面目で温厚。恋愛経験はほとんどなく、仕事一筋だったせいか、恋の機微には疎かったそうだ。

その不器用さがかえって、店では人気だったらしい。彼は「マーちゃん」と呼ばれ、スタッフたちに飲み物を振る舞い、どんな会話にも耳を傾け、無害どころか癒しの存在とまで言われていたという。

そんなマーちゃんが一際目を細めて見つめていたのが、恵子という女性だった。

離婚歴があり、子どもが二人。元夫は異常な嫉妬深さと暴力性を持ち、恵子は逃げるように店に身を寄せていた。やっと離婚が成立したのもつかの間、彼女は怯えた様子で「逃げたい……怖い」と口にしていたそうだ。

その後、マーちゃんと恵子は入籍し、店ではささやかなお祝いも開かれた。

それから間もなく、彼女は卒業を控え、パブを辞めた。新しい生活に慣れかけていたある日、新聞の死亡欄に恵子の名前があった。

事故死。山中で遺体で発見。

すぐに彼女は察したという。あの元夫だ、と。以前、背骨を折られるほどの暴力を振るわれた話を聞いていた。あんな場所に落ちるわけがない。事故なんて、ありえない。

マーちゃんに連絡を取った。彼は衰弱し、まともに食事もできないと言っていた。

「警察に連絡する。事故じゃない、事件だ。あの男に違いない」

彼はただ「そうだね。頼む」と返し、車を走らせた。

気づけば彼女は、町外れの廃棄場近くの森に連れてこられていた。エンジンが止まる。

「まさか、ここで……」

動悸が早まり、必死に笑い話をして場を紛らわせた。二十分ほど、静まり返った森の中で意味のない会話が続いた。やがて町へ戻り、マーちゃんとはそれっきりになった。

以後、彼から何度か連絡はあったが、妙な胸騒ぎがして会うのを避けた。

年が明け、冬。店のママから電話が入った。

「あの男、とうとう捕まったねぇ……」

彼女は言った。「元夫でしょ?当然よ、あんな異常者……」

「はあ?捕まったのは間宮だよ」

その瞬間、膝が崩れ落ち、立てなかったという。

保険金目的の殺人。結婚と同時にかけられていた多額の生命保険。恵子は、保険金と共に森の谷底に沈められていたのだった。

不思議だったという。あの日の車中、マーちゃんは恵子の遺体の状態をやけに詳しく語っていた。紫に変色した顔、腫れあがって原形をとどめていないことまで。

でもその時は、ただ悲しみで取り乱しているのだと、信じようとしていた。

「卒業したら、まじめな昼の仕事をしなさい」と、恵子は言っていた。子どもたちのために生きると決めていたはずだった。活発で、地域活動にも顔を出すほどの人だったという。

最後に店で会った晩、マーちゃんは恵子の隣に寄り添って、いつものように静かに微笑んでいた。

誰も疑わなかった。ただの、優しい男だった。

その笑顔の裏に、何があったのか。いまでも、誰も知らないという。

[出典:2006/08/28(月) 00:35:25 ID:isTFzW+T0]

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