中編 洒落にならない怖い話

漁師の警告【ゆっくり朗読】7100

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海が近いせいか、漁師さんの迷信みたいな話を近所でよく聞かされた。

661 :本当にあった怖い名無し :04/08/25 16:06 ID:GjSKYK1L

『入り盆、送り盆には漁をしてはいけない』とか、『海川に入ってはいけない』とか。

でも、この話はうちの近所だけじゃなくても一般的みたいだけど。

この話もそんな話。

お盆じゃなくて地元のルールのようです。

初めてヤバイと思った体験です。

釣りが好きな僕が、友人の徳宮を誘って海に行こうとしたら、船は持ってるけど漁師を引退した徳宮の爺さんが面白そうに、

「今日から明後日まで、峰ノ州の方に行ったらいかんぞ。助けられんからな」

と、わざとらしく語りかけてきた。

だけど目だけは厳しかった。

峰ノ州と言うのは、地元で呼んでる浅瀬のことです。

知らない人が見たら只の磯にしか見えません。

徳宮が「わかってるよ、釣れなかったら帰ってくるから」と返事だけして、僕と徳宮は釣りに出かけた。

釣り場まで自転車で十五分ぐらいで着いた。

ホントは原チャで来たかったのだが、徳宮がまだ免許を持っていなかった事と、ガソリンを入れに行くのが面倒だった為チャリにした。

釣り場には四駆と見慣れない大学生風の二人組みが、何か釣りのような事を先にしていた。

ちょうど例の峰ノ州の手前の防波堤で、暇そうにタバコを吸ったりしていた。(200~300メートル先が峰ノ州)

僕と徳宮は少し遠慮しながら、横でいつものように釣りをはじめた。

すこし離れてるとはいえ、見慣れない二人組みはこっちの様子が気になるようで、しばらくして話し掛けてきた。

少しパーマのかかった人あたりの良さげな片方が、

「こんちわ、ここ釣れるの?ゼンゼン駄目なんだよね」

警戒させない声だった。

もう一人は、隣の徳宮の仕掛けに興味があるみたいで、ジロジロと竿先や仕掛け入れを観察していた。

それから二人とも色々と面白い話しをしてくれ、缶コーヒーまで貰った。

二、三分ほど話してみると、その大学生二人組みの仕掛けが、この場所ではまったく不向きだというのがすぐに判った。

僕らはその二人が釣りたい魚が目の前の峰ノ州によくいる事を知っていたのと、その仕掛けが峰ノ州なら向いているだろうと思った。

だから、良くしてもらった御礼になればと思って、峰ノ州の場所の事を話した。

その時は、もう徳宮の爺さんが言ってた事なんかどうでもよかった様に憶えている。

子供が行くわけじゃないし、大学生といったらもう大人なんだし、と思っていたんだと思う。

その日、僕と徳宮も釣れなければ峰ノ州に行くつもりでいたぐらいだ。

二人はクルマに荷物を積み込むと、「ありがとね、行ってみるわっ」と言い残してさっさと行ってしまった。

僕はあの二人に狙いの魚が釣れるとは思えなかったけど、可能性が高くなった事に少しだけ満足していた。

徳宮にいたっては、「釣れないようなら手伝いに行くかな?」と言いながら、貰った缶コーヒーをん飲んでいた。

それから二、三十分たっただろうか。

遠く、峰ノ州の磯先に先ほどの二人の姿が見えた。

竿を持って歩いている。

さらに、しばらくしてこっちに手を振っているのが判る。

「釣れたんだろうね」

と徳宮が手を振る。

それから僕と徳宮も自分達の釣りが忙しかったので、あの二人組みの事は忘れていた。

少し日が傾き始めた頃、気が付くと天気は曇り空に変わっていた。

グレーの空を映す海は、あまり綺麗とは言えない。

僕が紐で結んだバケツで海水を汲んで水換えをしていると、徳宮が「あれ?みて!見て!」と峰ノ州の方を指差す。

「何?」

僕はバケツの紐を引きながら、峰ノ州を見た。

「!!」

例の二人組みが、僕らから見てありえない場所、海の上に立っている。更にその先に歩いてる様にも見えた。

点の様にしか見えない二人だが、だんだん小さくなっていくのが判る。

遠くに移動していると言うよりも、沈んで行ってるように見える。事実、上半身しか見えない。

点の片方が振り向いたのが見えた。ハッキリしないが、慌てて戻ってるようだ。

もう一人はまだ振り向かない。

僕と徳宮は多分、家を出る前の爺さんの言葉を思い出していたと思う。

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僕と徳宮は黙って、手元の道具を片付けながら様子を見守った。

一人はもう頭だけになった。そして潜るように消えた。

徳宮が「爺ちゃんの言う通りになった」とつぶやいて、放心しているのが感じられた。

僕も徳宮もまだ携帯電話なんか持ってはいなかった。何もできないでいた。

戻っているように見えた男が、何度か海に転ぶのが見えた。

そして僕は、もがく男が波の表面から、複数の白い手のような物に絡め摂られて沈むのを見た。

徳宮も見えたと言っている。

三回ほど頭を出して、それを覆い引き擦り込む様にして、灰色の波が缶コーヒーをくれた大学生を隠してしまった。

僕と徳宮は唖然としていた。

時間にしてみれば三、四分の事か、長くても十分ぐらいかもしれない。

とりあえず、僕は自転車で近くの家まで警察と救急を呼びに、徳宮はその場に残って見守る事に。

その後の事はあまり憶えてないけど、警察と消防署に事情聴取されて、そのまま僕と徳宮は帰った。

消防署の人が、「後で何かあったら電話するから、電話番号を教えて」と言う言葉が耳にまだ残ってる。

実際に一人目の死体が揚がったのが、二日後だったと思う。

もう一人は揚がらずじまい。

その日の事は地元でしかニュースにならなかった。

今でも思い出すが、あの『白い手』は絶対に見間違いなんかじゃないと思う。

徳宮が爺さんに峰ノ州に行ってはいけない由来を聞いてみても、爺さんもよく知らないようで、

「ただ、あそこは昔から、この季節は行ってもいい事がないから、もう行くな」

とだけ言われたようだ。

何年かして徳宮の爺さんが、

「普段見えん物が見えると人間、奥まで行くから帰れんようになる」

と言っていた。

徳宮がその後、好奇心で峰ノ州まで行こうとしたが、どうしても途中から足がすくんで動けなかったらしい。

特に言われはないけどそんな場所があって、ひょっとしたら僕と徳宮の身代わりになったあの二人には、今でも申し訳ないと思っています。

(了)

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