これは、匿名掲示板に投稿された奇妙な話だ。
小学校低学年の頃、投稿者が入り浸っていた近所の家。その家の記憶は鮮明だが、いつしか跡形もなく消え、周囲の人々は誰もその家の存在を覚えていないという。
共働きの両親の帰りを待つ放課後、祖母と折り合いが悪かったため、近所の家に足を向けるのが習慣になっていた。白とグレー、薄い水色が混ざった洋風の縦長の家。正面に三段の階段があり、その奥に玄関がある。天井には風車のようなプロペラがゆっくりと回り、薄い水色の天井はどこか空のようで、子ども心に美しいと感じた。
そこに住んでいたのは、にこやかなおばさんとおじさん、大学生くらいのお姉ちゃん、小学生くらいの兄弟たち。犬が二匹いて、いつも穏やかで、暖かい空気が漂う家だった。
「不思議と、いつもみんな家にいるんですよね」
それも、今考えれば奇妙な点だった。学校に行くはずの年齢の子どもたちも含め、家族全員が揃っていた。学校行事がある日でも、必ずと言っていいほど家にいたのだ。
そんな日常が続いていたある日、投稿者が小学四年生になる頃、その家が突然姿を消した。建て替えられたわけでも、引っ越しがあったわけでもない。家があった場所はいつの間にか駐車場と道路に変わっていた。
その事実に気づいた投稿者は家族や祖父母に話したが、誰もその家の存在を知らないと言う。外観や住人の特徴を必死に説明したが、「そこは昔から駐車場だよ」と一蹴されるばかりだった。
何年経ってもその記憶は鮮明だ。おばさんの笑顔、遊び道具、大学生のお姉さんの服装。その家に通った日々を思い返すたびに、胸がざわつく。まるで、思い出そうとするたびに何か見えない力に妨げられているような感覚だ。
唯一、祖母が「確かにその頃は、どこかへよく出かけていた」と話してくれたが、それ以上の手がかりは得られなかった。
あの家は何だったのだろうか?
ふとした瞬間に浮かび上がる疑問。その答えは、誰も教えてくれない。そして、あの道を通るたび、空気がほんの少しだけ冷たく感じるのだという。
(了)
[出典:803 :名無しさん@おーぷん :2016/08/15(月)19:13:56 ID:YcL]