誕生日の後の暗い部屋と、余分な人影が写るスマートフォン。題名は人数が合わない夜。

短編 r+ 意味がわかると怖い話

人数が合わない夜 rw+2,586

投稿日:

スポンサーリンク

あれは、二十五歳の誕生日だった。

少し背伸びをして、仲のいい友人を六人呼んだ。狭いワンルームだが、壁に簡単な飾りを貼り、テーブルを寄せて、コンビニで買ったケーキを中央に置いた。缶ビールを並べるだけで、部屋はそれなりに祝祭めいた空気になる。

その夜、私は妙に写真を撮った。普段はほとんど撮らないのに、誰かが笑うたびに、グラスを掲げるたびに、何度もシャッターを切った。酔いも手伝って、今この瞬間を残しておきたいという衝動が強かった。

帰り際、友人たちだけを並ばせて一枚撮った。部屋の奥、押入れの前に六人が並び、私は少し離れた場所からスマホの背面カメラを向けた。自分は画面に入れていない。

翌朝、頭痛に耐えながら写真を見返した。

そこには、七人写っていた。

私は確かに六人呼んだ。写真に自分が写っていないことも確かめた。それでも、友人たちの列に一人多かった。

画面には、見慣れない顔が一つ混じっていた。

押入れの前、列の端に立つ女だった。肩までの黒髪。無表情で、他の友人たちとはわずかに距離を置いて立っている。こちらを見ているが、笑っていない。

最初は、誰かの知り合いが紛れ込んだのだと思った。酔った勢いで連れてきたのかもしれない。記憶が曖昧なだけだと。

グループチャットに写真を送った。

「昨日の写真、これ誰だっけ?」

すぐに既読がつき、返信が来た。

「何言ってんの? あんたの友達でしょ」
「最初からいたじゃん」
「名前忘れたの?」

私は、全身が冷えた。

誰も不審がっていない。むしろ私が変だと言わんばかりだ。

「あんたを除いて七人だったよ」
「ケーキ切るときも横にいたし」

ケーキを切る直前に撮った写真を拡大する。確かに、女はそこにもいる。ろうそくの前に立ち、じっと火を見つめている。だが私は、その視線を覚えていない。

通話をかけて、一人ひとりに確認した。

「昨日、私を除いて何人いた?」

「七人だよ」

「最初に来たのは?」

「俺と……それから、あの子」

名前を聞くと、相手は一瞬黙り込む。

「……あれ?」

その沈黙のあと、別の名前を挙げる。しかしそれは、実際に来ていた友人の名前だ。知らない女の名前ではない。

全員が、「最初からいた」と言う。だが誰も、女の名前を言えない。

私は、自分の記憶を疑い始めた。酔いが強かったのかもしれない。何度も写真を見返す。女はどの写真にもいる。飲んでいる姿も、笑っている姿もない。ただ、どの場面でも、他の友人たちよりカメラの近くに立っている。

その日の夜、再び写真を見ていると、違和感に気づいた。

部屋の広さがおかしい。

ワンルームのはずなのに、写っている奥行きが、実際よりもわずかに広い。押入れの前の壁が、写真では数センチ後ろにずれているように見える。

翌日、メジャーで測った。壁の位置は変わらない。だが写真の構図と一致しない。

私は、押入れの前に立ってみた。写真と同じ位置に立ち、スマホを掲げる。撮影して比較する。背景の比率が、微妙に違う。

写真の中だけ、部屋が広い。

写り方の違いなのか、あの夜だけ部屋が広がっていたのか。見比べるほど、分からなくなった。

再びグループチャットに送る。

「この部屋、こんなに広かった?」

既読がつくまでに時間がかかった。

「え? いつも通りだよ」

写真を見比べてもらったが、誰も違いが分からないと言う。

私は写真をさらに拡大した。女の足元だけ、影がひどく薄く見えた。他の友人たちの影は、同じ照明の下にはっきり写っている。

次の瞬間、通知音が鳴った。

グループチャットのメンバーが一人減っている。

名前が消えていた。

慌てて個別に連絡を取ると、「そんなグループあった?」と返ってきた。昨夜の写真も送ったが、「合成?」と笑われる。

残っているのは、私のスマホの中の写真だけだった。

再び集合写真を開く。

写っている人数は、六人になっていた。

だが、私は撮影者だ。写っているはずがない。

画面の中央に、私が立っている。

ケーキの前で、笑っている。

カメラのこちら側にいたはずの私は、誰かの隣に立ち、カメラを見ている。その隣に、あの女がいる。私よりもわずかに前に出ている。

スマホを持つ手が震えた。

私が撮ったはずの写真だ。それなのに、今は私まで被写体になっている。

では、この写真は誰の視点なのか。

天井の照明が、かすかに揺れた。

押入れの襖が、音もなくわずかに開いている。昨夜閉めたはずだ。

写真をもう一度見る。

人数が、また増えている。

八人。

見知らぬ顔が、さらに一つ増えている。押入れの前、壁のさらに奥に、空間が広がっている。

私はその写真を消そうとした。削除ボタンを押す。確認画面が出る。指が止まる。

「本当に削除しますか?」

その文面の下に、小さなサムネイルが並んでいる。すべて同じ構図だ。だが、人数が少しずつ違う。六人、七人、八人。

そして最新のものには、九人写っている。

その中に、今の私がいる。

スマホを持ち、画面を覗き込んでいる。

私はゆっくりと顔を上げた。

部屋は静まり返っている。だが、写真の中では、誰かがシャッターを押している。私ではない誰かが。

押入れの奥が、わずかに暗く深くなっている気がする。

あの夜、誕生日に呼んだのは六人だったはずだ。

だが、祝う側と祝われる側は、いつから入れ替わったのだろうか。

次の誕生日の予定が、カレンダーに自動で追加されている。

参加者は、十人。

知らない名前が、一つ増えている。

(了)

出典・改稿について:既存掲載稿をもとに整えた怪談です。現稿には出典表記がなく、元投稿や原稿の来歴は今回確認できていません。実体験の記録として確認したものではありません。

関連する道具・グッズ(広告)

「人数が合わない夜」の余韻に合わせて、物語の「写真に残すこと」をモチーフに、富士フイルム 写ルンです 27枚撮り LF JDV1 SP FL 27SH 1を選びました。身近な風景を写真に残せる、27枚撮りのレンズ付きフィルムです。作中の怪異とは別の、日常で楽しむための商品です。

富士フイルム 写ルンです 27枚撮り LF JDV1 SP FL 27SH 1の商品画像

リンク: 富士フイルム 写ルンです 27枚撮り LF JDV1 SP FL 27SH 1をAmazonで見る

Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ
にほんブログ村にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ
にほんブログ村

-短編, r+, 意味がわかると怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.