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短編 r+ 家系にまつわる怖い話

開かずの間の前に座るもの rw+11,931

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これから語るのは、私の身に起こった実話に基づく話だ。

一族のことを知る者が読めば、登場人物に心当たりがあるかもしれない。それでも長年胸につかえていたものを、そのまま外に出さずにはいられなかった。

私の父は、地方の大きな農家の分家に生まれた。父の実家の北隣、竹林を一つ隔てた場所に本家があった。

幼い頃、私は父に連れられて、父の実家と本家を頻繁に行き来していた。本家には、私より少し年上の従兄弟が二人いた。兄の方は生まれつき骨の一部が欠損していたが、二人とも快活で、内気な私によく構ってくれた。だから私は本家が好きだった。

地元でも有数の大地主だった本家の屋敷は、子供心にも異様な広さだった。私たちは決まって大きな居間で遊び、そこを離れるのは厠へ行く時くらいだった。

ある日、親戚の集まりで本家を訪れた際、私は一人で家の中を移動することになった。理由は覚えていない。

子供には複雑すぎる屋敷の造りに、すぐ方向感覚を失った。昼間だというのに、気づけば狭く、薄暗い一角に入り込んでいた。

今もどこかの居間では、大人たちが談笑しているはずだった。大声を出せばよかったのだろうが、迷子になって騒ぐ子だと思われるのが怖くて、それができなかった。

視線を上げた時、廊下の先に人影のようなものがあるのに気づいた。

不安が一点に集まる。

誰かが、そこに座っている。

影は黒か濃い茶色に見えた。廊下に面した部屋の入口に背を向け、椅子に腰掛けているようだった。私はその影を、やや斜め後ろから見ていた。

怖くて、その場から動けなかった。だが影は微動だにしない。生きている気配がなく、置き物を見ているような感覚だけがあった。

私は、少しずつ近づいた。

輪郭がはっきりした瞬間、息が止まった。

それは鎧兜だった。

時代劇に出てくるような華美なものではない。くすんだ焦げ茶色の、長い年月を経た和の甲冑だった。廊下の突き当たりに、ただ据えられていた。

恐怖で頭が真っ白になった。

そこから先の記憶は途切れている。どうやって居間に戻ったのかも覚えていない。ただ、いつの間にか家族のそばにいて、何事もなかったように振る舞っていた。

この出来事は、小学生低学年の頃の記憶だ。だが、あれは終わりではなかった。

真相を知るのは、それから十年近く経ってからだった。

私は親元を離れ、一人で暮らしていた。親戚付き合いも自然と途絶え、本家の従兄弟が結婚していたことすら後で知った。

久しぶりに実家へ帰省した折、従兄弟に子供が生まれたと聞いた。

軽口を叩いた私に対し、両親の表情は重かった。

生まれた子は、五体満足ではなかったという。

それ自体には驚かなかったが、両親の続く言葉に違和感を覚えた。

こちらに何かが及ばなければいい。
お前だけでも距離を置いていてよかった。

その時、あの鎧の記憶が鮮明に蘇った。

私は、子供の頃に本家で迷子になり、鎧を見た話を初めて両親にした。

二人の顔色が変わった。

何か変わったことはなかったか。今まで無事だったのか。

母はしばらく黙り込み、やがて本家について語り始めた。

本家は由緒ある旧家で、かつて広大な土地を所有し、多くの小作人を抱えていた。従わせるため、暴力を用いることもあり、屋敷の中には拷問のための部屋があったという。そこで命を落とした者もいた。

戦後、拷問は行われなくなり、その部屋は封じられた。

そして、人が近づかぬよう、その前に鎧を置いたのだと母は言った。

無念の死を遂げた者たちの怨念は消えず、本家に留まり続けているのだと。

母はさらに、本家の系譜を語った。

跡取りの多くが、健やかに生まれない。死産、障害、精神的な異常。実子が育たず、養子を迎えて家名を繋いできた。

従兄弟も、その子も例外ではなかった。

私は、自分が生まれる前に死産した兄がいたことを思い出していた。

両親は、本家と距離を置かせた理由を、淡々と語った。

それから十年以上、私は本家とほとんど関わっていない。

本家が気づいているのか、気づかないふりをしているのかは分からない。

私自身も家庭を持ち、一人娘を幼くして病で亡くした。

これが何と繋がっているのか、確かめる術はない。ただ、あの屋敷の廊下に置かれていた鎧の姿だけが、今も頭から離れない。

封じているのか、守っているのか、それとも、見張っているだけなのか。

私は今も分からないまま生きている。

この話を書き終えた今も、それは変わらない。

(了)

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