坂本は山の中にある小さな小屋に住んでいる。
坂本はその小屋に向かおうとしていた。
「あれ? 道を間違えたか?」
あわてて周りの景色を見渡す。
どうやら本当に迷ってしまったようだ。
坂本は車の中で一日を過ごすなんて嫌なので、とりあえず車を走らせることにした。
三〇分くらい走り続けると、なにやら赤い塀が見えてきた。
坂本は初めて見る光景に驚き、地図を見てみると、山の中腹あたりに「赤い街」と赤い文字で書かれていた。
坂本はとりあえず入ってみようとした。
入り口から街の中に入ろうとしたとき、「好きな色はなんですか?」
女のような男のような、老人のような子供のような、なんともいえない声が背後からした。
ビックリした坂本は振り返る。そこには誰もいない。いるはずがない。
赤い街だから「赤」と答えないと入れてもらえないかも……
そう思い「赤」と坂本は答えた。
すると車が勝手に動き出した。
坂本は急いでブレーキを踏むが、車は止まらない。
坂本は街中の風景を見て、絶句した。
赤い壁で出来た赤い家だけが立ち並び、床は真っ赤に染まっていて、住民の靴も服もズボンも赤ずくめだった。
暫く車は走り続け、他の家よりもちょっと大きい家の前で停車した。
すると、背後からさっきと同じなんとも言えない声がした。
「ここが貴方の家です」
坂本は車から出て、ゆっくり赤い家の中に入っていった。
思った通りの光景。
机も赤い。椅子も赤い。たんすも赤い。カーテンも赤い。ゴミ箱も赤い。キッチンも赤い。冷蔵庫も赤い。
坂本はたんすの中にしまってあった赤い服を取り出し、赤い服を着た。赤いズボンも履いた。赤い靴下も履いた。
坂本はなにもかもが赤い世界に驚き、最初はなにもできなかったが、目が慣れてくると意外と居心地がよくなってきた。
坂本はお腹が空いた。そこで赤い冷蔵庫を開けた。
赤い身が沢山おいてある。多分人肉だ。
ムシャムシャ食べる。美味しい……
喉が渇いた。
赤い蛇口をひねる。赤い水が出た。多分誰かの血だ。
ゴクゴク飲みほす。美味すぎる……
赤い家具を買いたい。そこで赤い店に行った。
でも赤いお金が必要だった。
なので、赤い住民じゃない人間を殺し、赤い人肉を500グラム集め、赤い人肉を渡し赤い家具を買った。
赤い本を読みたい。
そこで赤い書店に行った。
赤い水が必要だと言われた。
なので、赤い住民じゃない人間を殺し、赤い水を1リットル集め、赤い水を渡し赤い本を買った。
薄い赤の紙に濃い赤で書かれた文字。読んでみてとても面白かった。
赤いペットがほしい。そこで赤い店に行った。
分かってる。赤い身だろ?はい、1キログラム。そう言って、赤いペットを買った。
多分赤い猫だと思う。とってもかわいい。
遊びたくなってきた。そこで赤い街から出た。
坂本は赤い住民じゃない人間をを殺した。
いや、正確には殺しまくった。
赤い身、赤い血。すべて喰い、すべて飲んだ。
殺して、喰い。時には集めて赤い家具を買い、殺して、飲む。時には集めて赤い本を買う。それの繰り返し。
そして、ついに赤い住民は「赤」という色以外を抹殺し始めた。
青も、黄も、緑も、茶も、紫も、白も、黒も。
今は、山の中から「赤」以外を抹消中。
木の茶も赤い血で染め、葉の緑も赤い血で染める。
やりはじめると、病み付きになるよ。
いずれ貴方も赤い住民に殺されお金になる運命なんだから、今から赤い住民にならない?
簡単、簡単。最初の入り口で「赤」と答えるだけで街に入れるよ。
だから貴方もぜひ、おいでよ。
とっても素敵な場所だよ。赤い街は。
(了)