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サイ〇〇サマの家 r+3,284

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昔話じゃない。信じてもらえなくてもいい。でも、これだけはどうしても書き残しておきたい。

これは俺のじいちゃんの話であり――そして、少しだけ、俺自身の話でもある。

じいちゃんは山が好きだった。いや、好きとかそういうんじゃない。山と共に生きていた。
子供の頃の俺にとって、じいちゃんの話は特別だった。山の獣、奇妙な植物、見たこともない鳥のこと。
わくわくしながら聞いていたけど、年をとるにつれて、それらは「昔の人間がするホラ話」と片付けるようになった。
それでも俺は、じいちゃんが話す時の目だけは、いつも忘れられなかった。獲物を睨む獣の目。嘘を言ってる目じゃなかった。

じいちゃんが亡くなって、十五年。
つい最近、母ちゃんがぽろっと漏らした話がきっかけだった。
それを聞いたとき、俺は思い出してしまったんだ。じいちゃんの、あの話を。

曖昧な記憶の中から掘り起こすように、思い出す。
俺の中のじいちゃんが語った、あの夏の日のことを。

じいちゃんがまだ子供だった頃の話だ。
東海地方の、山間の集落に住んでいたらしい。六人兄弟の末っ子で、いつも腹をすかせていた。
山は冷たく、湿っていて、どこまでも緑だった。
じいちゃんは、よく山に入っていた。遊びではない。食うためだった。茸を採り、山菜を摘み、時にはウサギや鳥を罠で捕らえた。

その日も、じいちゃんは罠を仕掛けに山へ向かった。
だが、今日はいつもと違う場所に行ってみようと思ったそうだ。山の獣道から外れ、背の高い草をかき分け、踏みならされていない湿った土の上を歩いた。
汗を拭いながら、目的地を探していると、後ろから「ガサガサ」と音がした。

じいちゃんは、てっきりウサギかと思った。が、振り返ると、そこにいたのは一羽の鶏だった。
いや、正確には「鶏の形をした何か」だったのかもしれない。

鶏は妙にきれいだった。白く、艶があり、どこか人形のように整っていた。
だが、鳴かない。羽音もなく、ただ首を動かし、草を啄んでいる。
じいちゃんは、何かに吸い寄せられるように近づいた。
すると――その奥に、「家」があった。

見落とすはずがないほどの屋敷。
その存在に、じいちゃんは恐怖ではなく、まず驚きの感情を抱いた。
こんな山奥に?どうして?誰が?
屋敷は二階建てで、門が開いていた。庭には、十頭ずつの牛と馬が並び、例の鶏が五羽、家の前にいた。

異様だった。
動物たちは、すべて黙っていた。鳴かず、足音も立てない。匂いもない。
土の臭い、獣の臭い、糞の臭い――何もなかった。
花が咲き乱れているのに、そこに虫がいない。
じいちゃんは「何かがおかしい」と思うより先に、背中が冷えて、足が震えたと言っていた。

そして、屋敷の玄関が……ゆっくりと、音もなく、開いた。

それを見たじいちゃんは叫んで逃げた。獣に追われた時よりも速く走ったという。
だが、走っている間に、どういうわけか下り坂になっていた。屋敷の反対方向だったのに。
気がついた時には、山の麓にいた。すぐさま家に駆け込んで、母ちゃん――俺のひいばあちゃんに泣きながら話した。

話を聞いた母ちゃんは、顔色を変えて外に飛び出した。
すぐに父ちゃん(ひいじいちゃん)と戻ってきて、じいちゃんの手を無言で掴んだ。
そしてこう言った。

「お前が見たのは……サイ〇〇サマだ。挨拶してないな?今から謝りに行くぞ」

その名前は、じいちゃんも俺も、正確には覚えていない。母ちゃんは「サンユキサマ」と言っていた。俺は「サイ~」という語感の記憶がある。
けれど、それが人の名前なのか、場所なのか、存在の名なのかは誰にもわからなかった。

父ちゃんは、じいちゃんを連れて、山の麓にある神社に行ったという。
「黙って手を合わせて、謝れ」
じいちゃんは言われたとおりにした。それ以来、その屋敷を目にすることはなかった。

ここまでが、じいちゃんから聞いた話。
信じなかった。面白かったけど、ただの与太話だと思っていた。

けれど、先週――ふとしたきっかけで、母ちゃんが話したんだ。
昭和の終わり頃、母ちゃんが子供の頃、家族でじいちゃんの故郷に旅行した時のこと。
懐かしそうに山を見上げていたじいちゃんが、急に無言で山に登りはじめたらしい。
ばあちゃんと母ちゃんは慌ててついていった。

山奥の開けた場所に来たとき、じいちゃんが膝をついた。
そして、小さく泣いたという。
「すまんかった……わしは出来なんだ……すまんかった……」
意味もわからず、ただ母ちゃんは泣きながら立ち尽くすじいちゃんの背中を見ていた。

その話を聞いたとき、俺は凍りついた。
じいちゃんの目が、あのときの話が、よみがえった。

……あれは、与太話なんかじゃなかった。

いや、むしろ俺たちは、ああいう話を、与太話だと笑っていないと、正気を保てないんじゃないか。

サイ〇〇サマ。
もし本当にいるのなら。
あの屋敷がまだ、あの山のどこかにあるのなら。

今は、誰が挨拶しているんだろうな。

(了)

[出典:313 :本当にあった怖い名無し :2009/04/29(水) 17:53:45 ID:NX8Hv8u50]

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